迷惑客やカスハラ(カスタマーハラスメント)が社会問題となっている。その理不尽な言動は、対応した従業員にトラウマを植え付けかねない。
元コンビニ店長の佐藤隆さん(仮名・20代)は、約4年間の勤務を通じて数々の苦い経験があるという。
◆“お客様は神様”を強要、“出禁”になった迷惑老人
「“お客様は神様”だから値引きしろ」
これは、ある迷惑客が発した言葉だ。
「店によく来る70代ぐらいの高齢のお客様が、商品をレジに持ってくるなり『値引きしろ』と言ってきたんです。廃棄が近くなった商品のみ値引きシールを貼るので、当然お断りするのですが……」
レジがベテランの店員の場合はすぐに諦めるそうだが、新人に対しては大きな声で何度も値引きシールを貼るように要求してくるそうだ。
「そこで『“お客様は神様”だから』という言葉を聞いて驚きました。何を勘違いしているのでしょうか。結局、他のお客様への迷惑や新人の精神的負担などを考慮し、このお客様は最終的に“出入り禁止”となりました」
◆からあげを地面に叩きつけて…
佐藤さんが早朝のシフトだった際、60代と思われる男性客が来店したという。
「からあげのチーズ味を買って、お店の外にとめた車の中で食べている様子でした。しかし、その数分後にお店の中まで戻ってくると、『チーズ味は気に入らない』『ふつうのからあげと交換してくれ』と言うのです。ただ、一度お客様が口にされたものは返品できないので……」
それを聞いた男性客は、黙ってからあげを買い直した。そのまま退店するのかと思いきや、驚きの行動に出た!
「チーズ味のからあげを地面に叩きつけていったんです。朝方だったこともあり、呆気にとられてしまいました」
◆客と店員が“商品の袋詰め”を巡ってトラブルに
佐藤さんが最も印象に残っているのは、作業服にアームカバーを着けた50代ぐらいの男性客だという。
「事の発端としては、レジを担当していたうちのスタッフのAさんが『袋にはご自身で入れてください』と言ったことです。そのお客様はエコバッグを持参しており、以前は商品を入れてもらえたそうなんです」
そのとき、佐藤さん自身は現場におらず、後から防犯カメラの映像を確認してみると、店員のAさんと男性客の間では、次のようなやりとりがあったという。
「袋にはご自身で入れてください」
「入れてくれないの?」
「店の“ルール”なので」
「前は入れてくれたのにおかしくない?」
レジ袋の有料化(2020年)以前は基本的に店員が袋詰めを行っていたが、それ以後はエコバッグが推奨されるようにもなる中で、店員と客のどちらが商品を袋に詰めるのか、店によってもマチマチな印象がある。
店員のAさんは“ルール”と言い切ったが、店長だった佐藤さんいわく、実際に「“ルール”としては存在していなかった」という。
「お客様は怒って、Aさんのふてぶてしい接客態度について咎めました。たしかに、Aさんの接客態度は気分で左右されることが多く、別のお客様からも小さなクレームがたびたび入っていました。お客様の言い分には一理あるな、と。
ただし、お客様はAさんの見た目を揶揄するような暴言まで吐くなど、どんどんヒートアップしていったんです」
Aさんの対応では埒が明かず、「店長と話がしたい」ということで佐藤さんに電話が掛かってきたのだ。クレームの内容を聞き、佐藤さんは謝罪した。これで事態は収束したかと思いきや……。
◆深夜に呼び出されて…
その日の深夜、再び佐藤さんのもとに店から電話が掛かってきたという。
「お客様が店まで来られて、『誠意を見せろ』と金品を要求しており、さらには『一筆書け』と……。金品はもちろん、念書のようなものを渡してしまっては、後でこちらが不利になる可能性もあります。『それはできません』と答えました。
すると、お客様の怒りの矛先がこちらに向き、『いますぐ来い!』と言われました。時刻はすでに0時をまわっていましたが、私はすぐに着替えて向かうことにしたんです」
男性客は、店の近くのビジネスホテルに泊まっていた。
「何しに来たの?」
「謝罪にうかがいました」
「いや、だから何しに来たの?」
「謝罪にうかがいました。申し訳ありませんでした」
「謝って済むなら警察はいらない、一筆書けよ」
「それはできません」
「何しに来たの?」
佐藤さんとの間では、この押し問答が繰り返されたという。そして、男性客がおもむろに上着を脱ぎ捨てると、そこには“刺青”が入っていたのだ。
「顔を寄せてきて、『どうなっても知らないからな』と。脅そうと思ったのでしょうが、私は動じませんでした。お客様は要求が通らないことにイライラしたのか、何度もこちらを煽ってきました。それでも論点を変えず、私は店長として謝罪に来たということを伝え続けました」
◆男性客が我に返って土下座
こうして2時間が経った頃、まさかの結末が待っていた。
「おめえ、何歳だよ?」
「27歳です」
そう言った瞬間、明らかに男性客が“ハッ”と我に返ったそうだ。
「お客様が態度を一変させて、『すまなかった!』と土下座したんです。ワケがわからず驚きましたが、『年齢がひとまわり以上違う若いモンに俺は何をやっているんだ』と。客観的に考えても変な光景ですよね。すぐに頭をあげるようにお願いしました。そこからは、仕事関係でいま置かれている厳しい状況など、身の上話を延々と聞かされて……」
男性客はいろいろなストレスを抱え、精神的にも不安定だったのだろう。
とはいえ、佐藤さんにはどうすることもできない。「次回来店時にコーヒーをご馳走します」と約束し、その場から解放された。結局、男性客が店まで顔を出すことはなかったという。
「元を辿れば店側にも非があったことは事実ですが、深夜に呼び出して不当な要求をすることは迷惑と言わざるをえません」
日常生活に欠かせない存在のコンビニ。しかしその裏では、従業員たちの苦労も大きいのだ。私たちは「お客様」として、どのように振る舞うべきなのか。いま一度考えてほしい。
<取材・文/藤井厚年、日刊SPA!取材班>
【藤井厚年】
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスで様々な雑誌や書籍・ムック本・Webメディアの現場を踏み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者として活動中。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。趣味はカメラ。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi