限定公開( 1 )
中居正広さんと被害女性のトラブルをめぐりフジテレビの会長・社長が辞任にいたった問題。同社経営陣が約10時間にわたって会見を行った翌日、1月29日に「週刊文春」(文藝春秋)は、被害女性はトラブルが起きた会合にフジテレビ編成幹部から誘われたとしていた報道について、中居さんに誘われたと訂正。幹部社員が会合に関与していたことをフジテレビ上層部が認識した上で適切な対応を取らなかった疑いがあることが、大きな焦点となっていただけに、訂正のタイミングも含めて「週刊文春」の姿勢に批判が強まっている。加えて、もし仮に編成幹部が会合に関与していなかったのだとすれば、フジテレビの会長・社長は辞任する必要はなかったのではないかという声や、「週刊文春」もフジテレビ同様に10時間の会見を行うべきとの声も出ている。専門家や業界関係者の見解を交えて検証してみたい。
1月27夕方〜28日未明にかけて行われたフジテレビの会見では港浩一社長、嘉納修治会長の辞任と、清水賢治専務の新社長就任が発表されたが、経営陣が約10時間にもわたって記者から厳しい質問を投げかけられる様子は10分のディレイで放送され、多くの人を釘付けにした。事態が大きく転換したのは翌29日。中居さんと被害女性の間でトラブルが起きた会合をフジテレビ編成幹部がセッティングした上で、この幹部が出席をキャンセルして意図的に2人きりにさせたと報じていた「週刊文春」は、前述のとおり記事を訂正。これまでフジテレビは一貫して「当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません。会の存在自体も認識しておらず、当日、突然欠席した事実もございません」と説明してきただけに、識者からは以下のように同誌に対して厳しいコメントが寄せられている。
・古市憲寿氏/社会学者(1月31日放送『とれたてっ!』<カンテレ>内でのコメント)「週刊文春、廃刊したほうがいいと思います」
・西山守准氏/桜美林大学教授(1月29日放送『めざましテレビ』<フジテレビ系>内でのコメント>
「文春がこれだけ大きな問題になっている事案に対して、フジテレビに対して誤報をやりました。こんなに大きな問題になっているのに、しれっと差し替えていいんですか。私はそれを問いたいです」
・橋下徹氏/弁護士(1月28日放送『イット!』<同>内でのコメント)
「大きな前提事実の変更があったことなので、しっかりと事実訂正を大きく報じて、僕は謝罪すべきだということを文春に伝えました」
一部では「誤報」という表現もされるなど、大きな前提に関する報道の訂正ゆえに、「週刊文春」もフジテレビ同様に時間無制限で会見を行うべきとの声も出ている。フジテレビ『ほこ×たて』やらせ問題(2013年)、テレビ東京『激録・警察密着24時!!』不適切演出問題(24年)など、不適切な演出をめぐってメディアの社長が定例会見などで謝罪を行うということはしばしばみられるが、誤報についてメディアが記者会見を開くというケースは珍しい。14年、過去の慰安婦報道(「吉田調書」報道)の取り消しをめぐり朝日新聞の木村伊量社長(当時)が謝罪会見を行った例などはある。
元日本テレビ・ディレクター兼解説キャスターで上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏はいう。
|
|
「大前提として、フジテレビの編成幹部が会合に関与していないのかどうかも含めて、現時点では真相は明らかにはなっていないという状況は変わっておらず、真相解明はフジが設置する第三者委員会の調査を待つのみです。確かに、フジテレビの会見の前に『週刊文春』が訂正を発表すべきだったとはいえますし、誠実な姿勢といえるのかどうかという問題はあるものの、報道機関というのは自分たちの報道の真実性をより高めていくというのが最大の使命ですから、『週刊文春』も基本的には今後の報道のなかで訂正や修正をしながら真実を伝えていくということになります。よって、フジテレビが会見を行ったからといって、『週刊文春』も同じように会見を行わなければならないということには、ならないでしょう」
全国紙記者はいう。
「訂正のタイミングがフジテレビ会見の翌日であったり、訂正が当初は有料版記事だけに書かれていたりと、『週刊文春』の姿勢が不誠実であったという指摘は成り立つと思いますし、フジテレビの会長・社長が10時間にわたり厳しい質問を浴びて同情の声すら出たあとなので、世間から『週刊文春』も会見を開くべきだという声が出るのも心情的には理解できます。ただ、企業経営に関する根幹を問われているフジテレビと、一記事の内容について問われている『週刊文春』では、その問題の性質は大きく異なります。また、大手メディアでも報道の訂正というのは日常的に行われており、『週刊文春』内部で担当者に対する何らかの処分といったことは行われるかもしれませんが、社長が会見を開くといった性質のものではないでしょう。そして、『週刊文春』が本件について会見を開くという判断はしないでしょう」
『週刊文春』を訂正を受け、フジテレビの会長・社長の辞任は必要だったのか、という声もあるが、前出・水島氏はいう。
「1月17日にフジテレビが開いた1回目の記者会見で、フジテレビの信用が大きく低下し、スポンサー企業が一斉にCM放送を見合わせるという動きが生じました。編成幹部が当該会合に関与していたのか、いないのかという問題とは別に、その点に関する経営責任をどのように取るのかという問題は当然ながらあるわけです」
|
|
キー局管理職はいう。
「必要であったのか、なかったのか、という観点でいえば、離れたスポンサー企業の信用を取り戻して再び放送広告を出稿してもらうためには、状況的に社長の辞任は最低必要条件となっていたので、『フジテレビとっても必要だった』という一言に尽きます。そうである以上は、続投という選択肢は現実的にはあり得なかったともいえます」
幹部社員が女子アナウンサーを接待や懇親会の席などに同席させていた疑いも浮上しているフジテレビは1月17日、記者会見を実施したが、出席するメディアを記者クラブに加盟する社に限定し、会見の模様の映像の撮影を禁止。さらに、立ち上げる調査委員会を日弁連の定義に基づく第三者委員会の形態にはしないと説明したことを受けて批判が拡大。大株主である米投資ファンド、ダルトン・インベストメンツなどから抗議の書簡を受けたこともあり、フジ・メディアHDは23日の臨時取締役会で、日弁連のガイドラインに従った第三者委員会の設置を決議。27日には改めてオープンなかたちで会見を行った。
注目されているのがスポンサー企業の動きだ。会見翌日18日にはトヨタ自動車や日本生命保険など大手企業がフジテレビ番組でのCM放送の見合わせを発表し、この動きに追随する企業が続出。その数は70社以上に上っている。フジテレビは放送見合わせ分の広告料金について返還し、さらに2月以降の放送広告契約のキャンセルにも応じる方針であり、すでにキャンセルする企業が相次いでいる。
スポンサー離れによってフジテレビが受ける打撃は大きい。同社の2024年4〜9月期の放送収入は、番組内のCM放送枠の「タイム」が368億円、それ以外の「スポット」が343億円で計約712億円。仮に2〜3月の放送収入がなくなれば約240億円の減収要因となる。また、仮に改編期にあたる4月から半年間、放送広告契約がなくなると、売上高が700億円規模で押し下げられることになる。
|
|
(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 Business Journal All Rights Reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。