トランプ米大統領の掲げる高関税政策が動きだした。第1弾としてカナダ、メキシコからの輸入品に25%の関税を課し、中国には10%を上乗せすることを決定。欧州連合(EU)に対する関税引き上げも検討中だ。国・地域別だけでなく、原油や半導体など「品目別」の関税導入にも意欲を示している。
手本とするのが、1世紀以上前のウィリアム・マッキンリー第25代大統領。保護主義的政策で知られる初代「タリフマン(関税の男)」だ。ただ、物価上昇を招いて不評を買ったともされ、トランプ氏の「懐古主義」に危うさを指摘する声は多い。
◇「米国は豊かだった」
「19世紀後半から20世紀初頭、米国は世界で最も豊かな国だった。所得税はなく、関税の国だったんだ」―。トランプ氏は1月31日夕、執務室で大統領令に署名しながら、記者団に語り掛けた。「関税の壁をつくる」。鉄鋼やアルミニウム、医薬品などに関税を上乗せし、輸入コストを上げることで製造拠点を米国内に取り戻す計画を披露した。
トランプ氏が就任演説でも称賛したマッキンリー氏は、共和党の下院議員だった1890年、38%と高水準だった平均関税率を、50%近くまで引き上げる関税法の成立を主導。保護主義的な政策を掲げて大統領に就任すると、砂糖や毛織物など消費財の関税率を引き上げる法律に署名し、平均関税率は一時52%にも達した。
当時、米国は他国よりも高い成長率を維持したとされ、トランプ氏は「製造業を保護し、生産を押し上げ、米国の工業化を促進する関税を提唱した」と称賛する。
ただ、米ピーターソン国際経済研究所(PIIE)によると、1890年の関税法は物価上昇を招き、下院議員選挙での共和党敗北につながった。マッキンリー氏は2期目の大統領に就くと、「商業戦争は利益を生まない。善意の政策と友好的な貿易関係は、報復を防ぐ」と話し、保護主義的な政策の巻き戻しを目指したという。
◇独特の関税使用法
関税は本来、通商政策の一部にすぎない。しかし、トランプ氏は「ただの交渉の道具ではない。純粋な経済的なものでもない」と主張する。カナダ、メキシコへの関税では、不法移民や合成麻薬の米国流入対策を要求するための圧力として活用。さらに全輸入品への一律関税を提唱し、大型減税の財源とする考えも示している。
米シンクタンク外交問題評議会のブラッド・セッツァー氏は、歴代政権は、関税を米経済のコストや貿易交渉の一部とみてきたが、トランプ氏は「関税を影響力の源泉であり、歳入を得る手段であり、目的達成のための道具としてみている」と解説。「独特な使い方だ」と指摘する。
カナダ、メキシコは関税も含めた対抗措置を講じる考えを表明。米国は税率引き上げを視野に、応戦する構えだ。英調査会社は、3カ国間の貿易量は大幅に減少し、いずれの国の国内総生産(GDP)も押し下げると試算する。
PIIEは「幅広い品目への高関税は、米国を世界で孤立させることになる。米国の労働者と消費者が最初に痛みを感じる」と警鐘を鳴らしている。