なぜ「軍艦島」が人気なの? 「封印エリア」に入れる、10万円ツアーも登場

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2025年02月18日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ドラマ『海に眠るダイヤモンド』の舞台になった軍艦島

 長崎県が誇る世界文化遺産「軍艦島」の注目度が上昇している。


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 2024年10〜12月に放送された日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBSテレビ)の舞台となった影響が大きく、軍艦島上陸ツアーの予約数も増加している。


 ツアーを提供している5つの船会社のうち、ユニバーサルワーカーズ社(長崎市)が運営する「軍艦島コンシェルジュ」では、2025年1月の予約数が前年同月比61%増だったという。


 1月下旬、筆者は軍艦島上陸ツアーを体験。軍艦島へは長崎市が定める安全基準をクリアしなければ上陸できない。1月は海が荒れやすいのだが、運良く上陸できた。


 現地取材に加え、長崎県観光連盟と軍艦島を保有する長崎市、ユニバーサルワーカーズ社 取締役の久遠裕子氏に「軍艦島ツアー」の販売戦略や現在の状況を聞いた。


●5つの船会社が異なるツアーを提供


 海底炭鉱の島として栄えた端島(通称:軍艦島)は、1891年の採掘開始から1974年の閉山までに約1570万トンの石炭が採掘された。閉山後は無人島となり、構造物の老朽化が進んでいる。上陸が許可されたのは2009年4月で、現在は5つの船会社がそれぞれ午前・午後に各1本(合計1日10本)のツアーを催行している。


 各船会社が販売しているツアーは、ガイドの内容や乗船時のサービス、料金などに違いがある。一例として、高島海上交通では軍艦島の隣の高島にある「高島石炭資料館」の見学が盛り込まれている。軍艦島コンシェルジュでは、発着場所にある「軍艦島デジタルミュージアム」の入館料が含まれている。


 船のサイズ感や発着場所も異なり、定員200人以上の大型船もあれば、少人数の小型船もある。今回、筆者が参加したのはやまさ海運(長崎市)のツアーで大型船だったため、1階のイスに座っているぶんには、それほど揺れは気にならなかった。


 上陸できなかった際の対応も各社で異なり、乗船料金の一部を返金したり、近隣のショップやカフェでの割引を提供したりしている。


 料金は4000円前後が多く、ミュージアム鑑賞などが付くものは5000円ほど。指定席付きのプレミアムツアーなど1万円を超えるものもある。


●上陸は30分と短いが、満足度は高い


 船内では軍艦島と周辺地理に関する説明があり、やまさ海運のツアーでは日本語と中国語の2カ国語でアナウンスされていた。この日は晴れて波も穏やかに見えたが、そうした天候でも上陸できるとは限らないようだ。


 目の前に到着したタイミングで風速、波高、視程(見通し距離)を測定し、安全条件をクリアしたうえ、安全に下船や見学ができると船長が判断した場合にのみ上陸が許可される。船内の緊張感が高まるなか、「上陸可能」のアナウンスが流れた瞬間、拍手と歓声がわいた。


 上陸後に訪れるのは安全性が担保された3カ所のみで、約30分の短い見学となる。降り立ってみると圧巻の光景で、壁や天井が今にも崩れ落ちそうなほど朽ちた建造物に目を奪われる。夢中でシャッターを押したり、動画を撮影したりする人がほとんどだった。


 ガイドによると、端島の最盛期の人口は約5300人で、子どもの数は1000人を超えていたという。島内には7階建ての小中学校が建てられ、海水を使ったプールもあり、その跡も見ることができた。


 石炭の採掘を担っていた作業員たちは気温30度、湿度95%の過酷な条件下で作業していた。島内には、作業員が住む社宅も建てられ、1916年に建設された30号アパートは、日本最古の7階建て鉄筋コンクリート造の高層アパートといわれている。


 島内には食料品店、郵便局、理髪店のほかに、映画館、パチンコ店といった娯楽施設もあり、島民はここで生活をまかなえたという。当時の面影が残る貴重な光景を間近で見ることができるため、上陸者の満足度は非常に高いという。


●ドラマの放送後、予約数が急上昇


 長崎県観光連盟によると、「軍艦島は以前から人気の高い観光スポットだが、ドラマ『海に眠るダイヤモンド』の放送以降は、さらに注目度が高まっている。自治体が運営しているWebサイトの軍艦島紹介ページは、放送日にアクセスが増加していた」とのこと。軍艦島コンシェルジュの久遠氏も、「反響は非常に大きい」と明かした。


 「放送直前の9月の予約数は、前年同月比で1割ほどマイナスでした。ところが、放送後は予約数がどんどん増えて、前年同月比で10月は25%、11月は43%、12月は56%、1月は61%伸びました。例年1月は閑散期ですが、いまだかつてない予約数となりました」(久遠氏)


 ドラマの影響で雑誌やバラエティー番組など、さまざまなメディアでも軍艦島が紹介され、個人客のみならず団体客の予約も頻繁に入るようになり、予約数が急上昇したようだ。


 長崎市では、2025年1月29日〜2月12日に「長崎ランタンフェスティバル」が開催され、祭りに合わせて軍艦島ツアーに参加する人も多かったという。卒業旅行シーズンの3月と大型連休がある5月も予約数が上昇傾向だ。上陸率を踏まえたベストシーズンは5月だという。


 「国内外から老若男女が訪れます。訪日外国人は約3割で、台湾、香港、シンガポールの方が目立ちます。リピーターが多いのも特徴で、上陸できても、できなくても『また絶対来たい』とファンになってくださる方が多いですね。当社はコンテンツ制作に注力していて、船内で実施する関連グッズの抽選会やミュージアムの鑑賞も好評です」(久遠氏)


 長崎市によれば、軍艦島の上陸者数は2015年に前年比で約1.5倍の28万6936人に急上昇。2016年、2017年も25万人を超えたが、その後は徐々に減少し、コロナ禍の2020年、2021年はピーク時の約2割に落ち込んだ。


 上陸者数の急増は、2015年7月に世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に正式登録されたことや、2015年に公開された映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』のロケ地になったことが関連しているのかもしれない。


 2024年度(4〜12月)の上陸者数は16万1128人にとどまっているが、2025年1〜3月の数字を加えれば、2023年度を上回りそうだ。


●10万円のプレミアムツアーも企画


 軍艦島の人気が高まるなか、2024年11月には、通常のツアーでは訪れられない非公開エリアをめぐる「プレミアム・スタディツアー」(1人10万円)が発売された。


 これは観光庁が主催する「地域観光“新発見”事業」の一貫で、軍艦島コンシェルジュが企画・運営している。「GUNKANJIMA PROJECT(G-PROJECT)」と銘打ち、崩壊に向かう軍艦島への理解を広く促すことで島の保全につなげることが目的だ。


 同ツアーは島の北側、または南側をめぐる2種類のルートを用意し、上陸時間は2時間40分となる。特別チャーター便に乗船し、1人の元島民ガイドと4人の安全誘導員が同行する。料金には、軍艦島デジタルミュージアムの入館料や損害保険料、端島整備基金への寄付も含まれている。


 まずは実証実験の位置付けで、12月8日と15日のツアーを各日10人限定で発売したところ、すぐに完売したという。


 「12月は海が荒れやすいため欠航が続き、結果的に予備日としていた9日の1回しか催行できませんでした。日程がズレたため10人中7人の参加でしたが、参加者には非常に喜ばれましたね。軍艦島の写真集や書籍を熟読しているコアなファンの方ばかりで、高額のカメラを持参して熱心に撮影されていました」(久遠氏)


 これまで写真や映像でしか見られなかった場所に実際に降り立ち、自身のカメラで好きなように撮影できたこと。その写真をSNSなどに自由に公開できたことが満足度につながったようだ。2時間40分とたっぷり上陸時間を設けたが、それでも「足りない」という声が聞かれたという。


 このプレミアム・スタディツアーを本格的に販売するには、実証実験の結果を踏まえた課題の解決が必要になるため、「体勢が十分に整ってから催行したい」と久遠氏は話した。


●求められるのは、適切な保存管理


 長崎県観光連盟によると、「軍艦島は長崎県へ誘客する大きなきっかけであり、長崎県の広告塔的な存在」だという。観光コンテンツとしての期待値は高く、軍艦島を目当てに訪れた観光客に長崎市内や県内の周遊を促せる可能性もあるだろう。


 一方で、軍艦島を後世に引き継ぐには、適切な保存管理が欠かせない。長崎市では整備の寄付金の受け入れ先として、2015年9月に端島(軍艦島)整備基金を設置。ふるさと納税でツアーを販売したり、企業や個人に寄付を募ったりしている。


 端島炭坑跡には対象施設が相当数あり、長期にわたる整備が必要だ。そこで、長崎市は2018度から30年間の整備スケジュールを作成し、整備事業費は147.6億円を見積もっている。基金の目標額57.7億円に対し、2023年度末時点の基金積立額は15.6億円。目標の達成率は、27.0%にとどまっている。


 軍艦島コンシェルジュも売り上げの一部として、これまでに400万円弱を寄付している。久遠氏は「徐々に整備環境が整ってきているが、専門家によると軍艦島の護岸整備は世界でもトップレベルに難しいようだ」と説明した。


 長崎市は、整備状況を以下のように回答した。


 「現在は、世界遺産の普遍的価値に貢献する『護岸遺構』と石炭の生産施設遺構のうち、『第3竪坑捲座跡(たてこうまきざ)』の整備を行っています。護岸遺構は景観に配慮しながら護岸の機能を強化します。第3竪坑捲座跡は現在の形態を維持して、外観の変更は必要最小限にとどめます」(長崎市の担当者)


 上陸率は高いが、3回参加して一度も上陸できない人がいるほど運任せの軍艦島上陸ツアー。上陸を判断する船長には高いスキルが必要で、大型船の維持には年間2000万円、5年に1回5000万円の検査費用がかかるという。唯一無二の観光コンテンツだが、事業者の苦労は多い。10万円のプレミアム・スタディツアーの行く末も気になるところだ。


(小林香織)



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  • 岡崎律子さんが存命だったら軍艦島をイメージしたピアノソナタを奏でてくれたのかな…
    • イイネ!4
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