止まらぬ虐待の連鎖 被告も“しつけ”で親から暴力 神戸6歳死亡

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2025年02月20日 05:46  毎日新聞

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穂坂大地被告らが幼少期に住んでいた団地の公園=神戸市で2025年2月15日午後5時28分、大野航太郎撮影

 神戸市西区で2023年、保育園児の穂坂修(なお)ちゃん(当時6歳)が母親や叔父らから虐待を受け死亡した事件。その経緯や市の対応を調べた第三者委員会の報告書で、親世代からの「虐待の連鎖」が事件の背景にあると指摘された。市は25年度の組織改正で担当職員を増員するなど対応を進めるが、専門家は同様の事件の再発を懸念する。


 事件の30年ほど前のことだ。市内にある団地の公園で、1人の男の子がうずくまっているのを近隣住人が見つけた。「お母さんにぶたれた」。そう訴える幼子は、後に修ちゃんへの虐待を主導したとされる叔父の大地被告(33)=傷害致死罪などで起訴=だった。


 複数の関係者によると、大地被告とそのきょうだいは当時、母親から「しつけ」として棒で殴られるなどの虐待を繰り返し受けていたという。被害を聞いた近隣住人の通報で、大地被告らは児童相談所(児相)に保護された。だが母親は養育を強く希望した。子どもたちも母親と暮らすことを望み、家に帰された。


 同様の通報はその後も続き、一時保護が繰り返されたが、母親は自宅での養育にこだわった。大地被告らは成長していくにつれ、暴力などの問題行動を周囲から指摘されるようになった。児相側は家庭環境の影響と考えて長期間の保護を検討するも、母親は拒否。小中学校の特別支援学級で様子を見る対応にとどまった。


 関係者の一人は「(被告らは)長期間の保護で家庭の暴力から距離を取ることができず、トラウマが解消されないまま人格が形成されてしまった。結果的に対応は失敗だが、当時は児童虐待防止法の施行前。当事者が保護を拒否する中、行政にできることは限られていた」と話す。


 起訴状によると、大地被告や姉で修ちゃんの母親の沙喜被告(36)=同罪などで起訴=らは23年6月19日、神戸市西区の自宅で床にうつぶせにした修ちゃんの背中を鉄パイプで殴るなどして死なせたとしている。被告らがかつて受けたとされる「しつけ」と酷似する。


 近隣に住んでいた60代男性は「被告らにとっては虐待や暴力が当たり前になっていて、結果的に罪のない小さい子の命が奪われてしまったのではないか」とうつむいた。


望まれぬ保護「慎重に」


 児童虐待防止法は00年に施行された。虐待の可能性があれば、警察官同行で家の中に入って調査できることなどが定められた。20年施行の改正法では、家庭でのしつけを目的にした体罰の禁止も明記された。


 第三者委の報告書によると、23年4月に保育園で修ちゃんの体にあざがあるのが見つかり、区職員が自宅を訪問。大地被告らから養育について相談を受け、一時保護の承諾を得たが、その後撤回された。安否確認ができないまま、修ちゃんは遺体で見つかった。


 事件後、児相は相談が取り下げられた際は安否確認をするルールを明確化。市は25年度の当初予算案に、児相と県警がリアルタイムで情報共有できるシステムの導入など関連費用1996万円を盛り込んだ。組織改正では児童人口が多い西区や東灘区、垂水区に担当職員1人を増員する。


 ただ市の担当者は「親権や子どもが親と一緒にいる権利もある。当事者が保護を望んでおらず、養育の意思を示している状況では、保護に踏み切ることには慎重にならざるを得ない」と語る。


「手詰まり」今後も


 第三者委の委員長を務めた永瀬裕朗・神戸大大学院特命教授は「親世代を含めて行政が関与しており、決して見落とされていた家庭で起きた事件ではない。当事者に保護を拒まれ、対応が『手詰まり』に陥る状況が繰り返された。同様の事件が今後も起きる可能性は否定できない」と指摘する。


 永瀬特命教授によると、保護を巡っては親が妥当性を争い訴訟を起こす例もあり、行政は慎重になりがちだ。また、国内では里親制度が十分に普及しておらず、保護しても里親が見つからなければ長期的な措置には移りづらい。「虐待が放置されれば連鎖し、いずれ犠牲者が出る。虐待で亡くなる子どもを減らそうとするなら、児相が親ではなく子どもを最優先にして積極的な対応ができるよう、国や社会が後押しすべきだ」と話す。【大野航太郎】



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  • >被告も“しつけ”で親から暴力 だったらその「親」も連帯責任で刑務所に入れたらいいのでは?
    • イイネ!21
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