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永谷園が2024年9月に発売した「カップ入り お茶づけ海苔」「同 さけ茶づけ」(税抜200円。以下:カップ入り茶づけ)が好調だ。
【画像】「ありそうでなかった」の声も多数? 永谷園の「カップお茶づけ」、お湯を注いだ写真など(計9枚)
同商品は、カップ容器にフリーズドライの米とお茶づけ海苔が入っており、カップラーメンのようにお湯を注いで3分待つとお茶づけが出来上がるというもの。9月9日に発売したところ、1カ月で220万食(計画比369%)を出荷し、12月には約500万食に達している。
お茶づけ海苔といえば永谷園の看板商品で、「カップにお湯を注ぐタイプのご飯」も今や一般的なインスタント食品となった。一見して「前から売ってなかったの……?」と感じた方もいるのではないだろうか。なぜこのタイミングで「カップ入り茶づけ」を発売したのか。開発担当者を取材した。
●なぜ、「今」出したのか
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「きっかけの一つは『ご飯を炊く』という機会の減少です」――そう説明するのは、開発を担当したマーケティング本部の栗原紘明氏だ。日本における1人当たりの米の消費量は年々減少しており、一人暮らしの場合は「炊飯器が家にない」という世帯も珍しくない。
一方で、右肩上がりを続けているのが、「サトウのごはん」(サトウ食品)や冷凍チャーハンに代表される「加工米飯」市場。米穀安定供給確保支援機構によれば、2023年までの10年間で、加工米飯の生産量は1.3倍に増加している。「『より簡便にお米を食べたい』という需要が高まっている前提があります」(栗原氏)
●実は以前からあった「カップ入り」
永谷園でも、「手軽に食べられるお茶漬け」の商品化というアイデアは、以前からあったという。しかし壁となっていたのが、「米のおいしさ」と「利便性」の両立だった。
同社は以前から、パックごはんに用いられる無菌米飯とお茶づけ海苔がセットになった「カップ茶づけ」を販売していた(今回の「カップ入り茶づけ」の発売とともに終売)。
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「炊きたてのお米」の再現度でいえば、無菌米飯はフリーズドライの米より優れている。しかし、従来のカップ茶づけは、カップを開け、中に入った小袋から無菌米飯を出して電子レンジであたため(お湯だけで作る場合は湯切りし)、さらにお湯を注ぐ……というプロセスが必要だった。この手間が「すぐに食べたい」というニーズと合致せず、やや割高感を与えていたことから、売り上げは伸び悩んでいたようだ。
永谷園ホールディングス広報部の淡路大介氏は、従来品のカップ茶づけについて、「『カップ麺やカップスープ、カップ春雨があるなら、カップ茶づけもあってよいのでは』という発想で開発した商品でした」と説明する。いわば、「とにかくカップタイプのお茶づけを作ろう」というアプローチによる商品だったのだ。
一方で、新しい「カップ入り茶づけ」の開発で着目したのは、お茶づけの「価値」や「食べるシーン」だったという。「『ご飯をさらさら食べられる』だけではないお茶づけの価値を深掘りし、最終的に『食べたらホッとできる』というコンセプトに行き着きました」(栗原氏)
しかし、「ホッとできる」という普遍性とは対照的に、お茶づけは「自宅で炊いたご飯で食べる」というシチュエーションに限定されがちなメニューだ。そこで「時間と場所の縛りをクリアすれば、もっとお茶づけが広がるのではないかと考えました」と淡路氏は話す。新商品は、開発にあたっての“アプローチ”も異なる商品だったのだ。
●“シンプルさゆえ”の課題
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「お湯を注ぐだけ」で調理可能なフリーズドライの米を用いれば、こうしたシチュエーションの制限はクリアできるように見える。しかしこちらは、「炊きたてのお米の食感」の再現が長年の課題となっていた。
フリーズドライはもともと同社が得意としてきた技術で、インスタントみそ汁にも活用している。しかし米の場合、お湯に戻したときの味の再現が他の食材よりも難しいことから、長期保存を優先した「防災向け」の商品や、味の濃いスープの中に米が入っているような商品に利用が限られていた。
一方でお茶づけの場合、だしと抹茶というシンプルな味付けだけに、「米のおいしさ」を確保することが重要となる。このため、十分に技術が確立できるまで社内で研究を重ねる必要があった。発売が「2024年」となった要因には、この課題の克服があったようだ。栗原氏は「永谷園の看板ブランドを、どうすればお客さまの信頼を裏切らずにおいしく提供できるか。この考え方が難しいところでした」と話す。
商品化にあたっては、これまでの研究の蓄積をもとに、炊飯器のトレンドでもある「加圧高温炊き」を用いた新技術を開発。お米の弾力や甘味を引き出せるようにした。さらに、フリーズドライにしても粒感やおいしさを感じられる米の銘柄を吟味し、「国産コシヒカリ」を採用。通常のお茶づけ海苔よりも具材をボリュームアップするなど、味付けのバランスも再設計したという。
●“シーン”に着目し訴求
すでに幅広い購買層を得ているお茶づけ海苔だが、新商品はどのようにターゲティングしているのか。栗原氏は「この(お湯だけで食べられる)形態だからこそ、今までのお茶づけ海苔で得られていなかったシーンに広げていけるのではないかと議論してきました」と話す。具体的には、「小腹が空いた時の間食」「塾前の小腹満たし」「海外などの旅行先」といった用途での提案として形になっている。
永谷園では以前から、お茶づけ海苔の喫食シーンを広げる提案を行ってきた。利便性を生かし、子どもの朝ごはんとしてお茶づけを提案する「めざまし茶づけ」や、塩分補給もできるメリットを生かした、夏向けの「冷やし茶づけ」がその例だ。カップ茶づけの提案には、これまでの経験も生かされているという。
「ブランドにはいろいろな長所や短所があると思うのですが、対症療法的なアプローチでは短期的に終わってしまう。ですが、商品の『価値』を見つけて提案し、それを実感していただければ、お客さまのライフスタイルに合わせて定着していくのではないかと考えています」(栗原氏)
流通を拡大するにあたっては「お湯さえあれば食べられる」というカップ型の手軽さを生かすべく、特にコンビニにも注力した。こうした販路面での施策も奏効し、お昼ご飯や仕事の休憩、部活前や防災用の備蓄……と、カップ入り茶づけは同社の手を離れたさまざまなシーンで、少しずつ受け入れられつつあるという。
現在は来年度に向けて、CMによる認知拡大やトライアルといった施策を練っているようだ。まもなく発売から半年となるカップ入り茶づけは、今後さらに市場規模を広げられるか。
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