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世界的建築家・隈研吾氏が設計した群馬県富岡市役所の市庁舎で、外装に使われている木材が腐り始めていると指摘されていた問題で、富岡市は19日、市庁舎の軒裏の金具などに「さび」が発生し、塗装がはがれていると発表した。市庁舎の完成は2018年であり、わずか6〜7年で腐朽していることになるが、修繕工事の費用を隈研吾建築都市設計事務所と施工業者が負担する方向であることがわかった。隈研吾事務所はBusiness Journalの取材に対し、
「負担する予定であることは事実です。不燃合板に注入された薬剤が及ぼす影響を厳密に把握出来ず材料選定を行ったことが原因の一旦であるからです」
と説明する。もし「さび」や塗装はがれの原因が経年劣化や設計者・施工者の責に帰すべき内容でないのであれば、両者に責任はないと考えられるが、なぜ両者が修繕費用を負担する可能性が出ているのか。また、今回発生している事象は、軒裏の合板に使用された不燃薬剤の影響で金具に「さび」と膨張が発生し、軒の水切りを塞いでしまい雨水が屋根から軒裏に流れて雨染みが発生したというものだが、建築物ではよく起きることなのか。富岡市、隈研吾事務所への取材をもとに追ってみたい。
全国にある隈氏の設計した建築物の老朽化問題が顕在化し始めたのは、昨年9月のことだった。栃木・那珂川町馬頭広重美術館が開館から24年を迎え、老朽化のため大規模改修を行うことになったのだが、その改修費用が約3億円かかることが判明し、規模が大きくはない那珂川町にとっては大きな負担となっている。この美術館は、安藤広重の肉筆画や版画をはじめとする美術品を中心に展示し、町の中核的文化施設とすることなどを目的として2000年に開館。木材を多く使用し、周囲の自然に溶け込むデザインが好評を博し、県外からも多くの観光客が来訪するが、竣工から数年後の時点で木は黒ずみ、劣化が目立つようになり、現在では木材は痩せて隙間が広がり、ところどころで折れたり崩れ落ちたりしている。まるで防腐処理やニス塗装なども行っていない木材を雨ざらしにしたような傷み方で、専門家からは材木の使い方に疑問が相次いだ。
10月には、隈氏が設計した完成から9年が経過した京王線高尾山口駅(東京都八王子市)の駅舎もカビが目立つようになっていることが明るみに。さらに、高知県梼原町で隈氏がデザインした総合庁舎、町立図書館、まちの駅など、梼原産の杉を中心とした建築物で、表面が黒ずんだり、一部の木材にヒビが入るなど劣化が目立っていることがクローズアップされた。特に「雲の上のホテル」本館は老朽化のために2021年に、わずか27年で取り壊された。24年4月にリニューアルオープンを予定していたが、昨年計画が見直され27年7月のオープン見込みが発表された。
そして11月には、富岡市の市庁舎の木材腐食が注目されることに。隈研吾事務所は同月、Business Journalの取材に対し以下の回答を寄せていた。
「サッシマリオンに取り付けた木材は、特殊な樹脂含侵処理により防腐性能を持たせたものです。屋外用木材として20年以上の実績があり、短いスパンで改修が必要な材ではありません。当該部は木材の腐りではなく表面のカビが発生したものと思われ、市役所と対処について調整を行う予定でいます。軒裏については、直接雨がかりにならない部位であり、短いスパンで改修工事の必要がない計画としておりました。近年の想定外の豪雨や強風等で軒の先端で雨水が切れず、軒裏に回り込んだものと思われます」
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富岡市の市庁舎でみられる現象は、建築物では珍しくないものなのか。一級建築士で建築エコノミストの森山高至氏はいう。
「屋根に落ちた雨水が軒裏に回らないように屋根の先端には『水切り』という金具がつけられていますが、その長さが不足していた可能性が考えられます。また、法律上の定めによって大型の建築物は外壁部分に可燃性の部材を使用できないようになっており、富岡市の市庁舎の軒裏のベニヤ板にはその基準を満たすために不燃塗料が注入されているようですが、水溶性がある塗料だと水にぬれると溶けてベニヤ板から抜けしまいます。その抜け出た塗料が金具などと反応を起こしてサビが発生したのだと考えられます」
修繕費用について隈研吾と施工事業者が負担する方向となっている理由について、富岡市はいう。
「『市の費用負担はなし』と公表いたしました。費用負担は設計業者と施工業者が協議しているところでございます。(隈研吾事務所が負担する理由について)設計業者及び施工業者並びに富岡市の協議において決定になりました」
修繕費用を設計者や施工者が負担する方向となっている背景には何があると考えられるのか。前出・森山氏はいう。
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「設計者が修繕費用を負担するというのは、よくあることではありません。通常、設計事業者と発注者、施工事業者と発注者、各々の契約には瑕疵担保条項が入っていますが、屋根が腐朽するという事態は基本的には想定されないため、今回のケースはその対象外となっていると思われます。もし仮に隈研吾事務所が負担するのだとすれば、考えられるパターンは大きく2つです。建築士事務所は建築士賠償責任保険に入っており、今回の事案が補償の対象と認められたため隈研吾事務所が負担をすると申し出たかたちか、保険金の支払いの有無に関係なく、自ら責任があると認めて費用を負担すると申し出たかたちです。設計事務所の報酬はその建物の建設費全体の5〜10%程度なので、もし修繕費用を負担すると設計による売上が吹き飛んでしまいます。ですので、隈研吾事務所としては、それでも費用を負担せざるを得ないと判断した、よほどの理由があったのかもしれません。
また、施工事業者も負担するとのことですが、施工事業者は建築士から言われるがままに建設を進めるわけではなく、『この設計や工法だと、このようなリスクがあるので、やめたほうがよい』などと意見を言いながら進めるものです。ですので、基本的には完成した建物に何が問題が発生した場合は『自分たちは建築士から言われるがままに建設しただけ』という言い訳はできないものです。今回の施工事業者も、自分たちに一定の責任があると認識しているのかもしれません」
(文=Business Journal編集部、協力=森山高至/建築エコノミスト)
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