オーバーツーリズムに悩む北海道美瑛町、観光名所“シラカバ並木”をすべて伐採。「農家の私有地」に侵入する旅行者も

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2025年02月28日 09:21  日刊SPA!

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立入禁止の看板の前でポーズを取る外国人カップル
 外国人観光客の増加に伴う、オーバーツーリズムが全国的に問題になっている昨今。“丘のまち”として有名な北海道美瑛町も例外ではなく、1月14日には地元の観光名所になっていた『シラカバ並木』がすべて伐採され、全国ニュースでも大きく取り上げられた。
 伐採を行った地元住民団体は、白樺が成長しすぎたことで隣接する畑の農作物の生育に影響が出たことを理由に挙げたが、美瑛の主な観光名所は景観などの自然。

 過去にCMなどに登場したことで名所化した『○○の木』と呼ばれるスポットは、基本的に“農家が所有する私有地”だ。優先すべきは自分の生活や仕事であり、観光客に配慮するにも限度があるだろう。

◆駅も町も美瑛はアジア系外国人だらけ

 2月某日、旭川から2両編成の富良野行き各駅列車に乗って美瑛へ向かったが、車内は通勤・通学の時間帯ではないのに混んでいる。首都圏や関西圏のラッシュ時ほどではないが、ローカル線でここまでの混雑ぶりは違和感を覚える。目算だが乗客の8割方は外国人。それもアジア系ばかりだ。

 美瑛駅では彼らの半数近くが下車。駅を出ると、ロータリーや駅前通りには、人口9271人(※1月末時点)の町とは思えないほどの人の姿が。ただし、それが地元の方ではないのは一目でわかる。

 これだけ外国人観光客がいるとゴミのポイ捨ても多そうだが、その懸念はいい意味で裏切られる。

 駅から500mほど離れた美瑛町役場には、観光客に無料開放されている展望台『四季の塔』があり、歩いて移動。見学後にも周辺を散策してみたが、路上にゴミはまったく見当たらない。雪に埋もれている可能性は否定できないが、すごく清潔な町という印象を感じた。

◆立入禁止の看板があるのに無視して中に入る外国人女性が

 その後、筆者は町中心部を離れて郊外へ。まず向かったのは、1972年に自動車メーカーのCMに登場したことで名所となった『ケンとメリーの木』。

 一帯には日本語と中国語、韓国語、英語の4か国語で書かれた立入禁止の看板が道路脇の至るところに設置されているが、なんとこれを無視して記念撮影のために雪の中に入っている女性に遭遇。

 すぐに戻ったとはいえ、これはれっきとしたルール違反。早くもオーバーツーリズムの現場を目の当たりにしたが、これが日常的に起きていると思うと地元の人間ではないがげんなりしてしまう。

 次に向かった『セブンスターの木』も1976年にタバコのパッケージに採用されたことで一躍有名になった場所。

 実は、シラカバ並木の跡もすぐ近くにあり、訪れた日は伐採から40日近く経っていたが、切り倒された木は現場に放置されたまま。残念な気持ちもあるが、土地を所有する農家にとっても苦渋の決断だったのだろう。

 筆者は農家の友人・知人が多いが、彼らが住むのはいずれも美瑛のような観光地ではない。美瑛から数十キロ離れた空知管内で農業を営む50代の知人は「毎日、観光客が大勢押し寄せ、勝手に畑に入る者が後を絶たないなんて想像するだけでゾッとする。よく今まで我慢したと思う」と同情。

 また、帯広のある十勝管内で農家をしている40代の友人も「落ち着いて農作業もできないはず。マナーを守らない観光客なんて作物を荒らすエゾジカやヒグマと変わらん!」と憤っていた。確かに、実害が及んでまで観光客ウェルカムの姿勢を貫くのは無理というものだ。

◆道いっぱいに広がった観光客が車の通行の妨げに

 セブンスターの木以外にも1978年にタバコCMの舞台となった『マイルドセブンの丘』もあり、例によって外国人観光客たちが写真を撮りまくっていたがマナーは守っているようだ。しかし、気になったのは次に訪れた『クリスマスツリーの木』だ。

 ここには駐車場のスペースが確保できず、以前から観光客の路上駐車が問題になっていると聞いていたからだ。ところが、1月30日〜2月21日の期間限定で駐車規制を実施。筆者が訪れたのはこの時期だったこともあり、規制前のような雑然とした状況ではなかった。

 それでも旅行者は少し離れた場所にある道路から眺めるのだが、道いっぱいに人が広がっており、まるで歩行者天国のようだ。でも、ここは自動車との共用の道路。

 車はたまにしか通らないが超ノロノロ運転でしか進めず、近付いているのに平然と記念撮影に興じる者も。その中には日本人もいて、マナーを守らないのは必ずしも外国人ばかりではないようだ。

 そして、最後は距離的にもっとも離れた場所にある『青い池』とその先の白金温泉にある『白ひげの滝』へ。特に日没後の青い池はライトアップされており、幻想的な雰囲気だ。

 この時間帯は人気なのか駐車場には外国人向けのツアーバスが何台も停まっていたが騒ぐ者はおらず、みんな静かに池を眺めている。

◆一定の秩序は保たれていた

 結局、この日筆者が目撃した立入侵入禁止エリアへの侵入は1件だけ。車の通行の妨げになっていた場所も一部あったが、あくまで交通量の少ないエリア。ゴミのポイ捨ても見かけず、一定の秩序は保たれているような気がする。

 ほかの観光地とは異なり、美瑛では農家の敷地内に生えている木が観光名所になっている地域。ルールを設けても破る者がいるので警備や監視を強化せざるを得ず、並行して啓蒙活動に力を入れるのは大変かもしれない。

 町が中心となって苦労しながらもそこにしっかりと取り組んでいる姿は、オーバーツーリズムの問題を抱える各自治体にとっても参考になる部分は大きいはずだ。

<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

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  • 「4か国語で書かれた立入禁止の看板が道路脇の至るところに設置されているが、なんとこれを無視」‥‥他の自治体もそう。参考にしても無駄。
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