流行のアニメやキャラクター、アーティストとのコラボによる限定品を多く取り扱っているGiGO ひと昔前は、景品が取れるか取れないかという“ゲーム性”が主目的で、景品そのものはおまけのような存在だったクレーンゲーム。しかし、今や流行のアニメやキャラクター、アーティストとのコラボによる限定品も登場し、景品そのものを目当てにクレーンゲームをする人が増加している。このようにクレーンゲームが“推し活の場”になったのはいつからなのだろうか。そのきっかけとコラボ景品開発のこだわりについて、ゲームセンター・GiGOを運営するGENDA GiGO Entertainmentの長岡浩平氏に聞いた。
【画像】「推しと一緒に行動できる!」アクスタポーチ・アクリルフレームなど「fanfancy+ with GiGO」推し活グッズ
■1000人を超える行列も…コラボ景品で「クレーンゲームがコア層を取り込んだマーケットになったことを実感」
スマホゲームの普及やコロナ禍を背景に、“街のゲーセン”が姿を消している。そんな現状とは裏腹に、クレーンゲームはショッピングセンターや専門店などに設置場所を増やし、右肩上がりで市場規模を拡大している。クレーンを操作して景品をつかみとるゲームとしての面白さに加え、近年はアニメやキャラクターとコラボした限定グッズを景品に揃え、推し活に情熱を注ぐ人たちの心をキャッチ。景品をゲットする達成感と推しへの愛情表現が相乗効果を生み、クレーンゲームは推し活のホットなスポットとなっている。
ゲームセンターのGiGOを運営するGENDA GiGO Entertainmentも、昨年12月から2カ月間にわたって、韓国の超人気アイドルグループから生まれたキャラクターを限定景品にした「GiGOキャンペーン」を実施。「推し心をくすぐられる。全部ほしい」「これはGiGOに通わなきゃ」とSNS上で大きな話題となった。「普段、行列ができないような店舗にもお客様が並び、予想以上だった。あらためてファンの熱量を実感した」と、その反響の大きさについて長岡氏は振り返る。
同社がアニメやキャラクターとのコラボグッズを景品にするようになったのは、まだ“推し活”という言葉が世に浸透する前、1990年代のこと。それまでのお菓子やぬいぐるみといった景品に加えて、アンパンマンやストリートファイター等の人気キャラクターの景品が登場するようになり、その後、アニメファンに向けた景品が増え、秋葉原や池袋で人気となっていたという。
さらに客層の拡がりを実感したのが、ゲームを皮切りに、CDやアニメとメディアミックス展開を広げた『うたの☆プリンスさまっ♪』とのコラボ企画だったという。
「2019年に劇場アニメ『劇場版うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEキングダム』とのコラボレーションキャンペーンとして、当時の「セガのお店」のアミューズメント施設でクリアファイルや缶バッジなどのオリジナルグッズや限定商品を景品にしたところ、それまでゲームセンターには来なかったような女性客が多数来店され、クレーンゲームがコア層を取り込んだマーケットになったと実感しました。この頃は、様々なキャンペーンを開始したときに1000人以上の行列ができる店舗もあり驚きました」(長岡氏/以下同)
そして、さらに性別・年齢を超えてその人気を拡大させたのが、コロナ禍に大ブームとなった『鬼滅の刃』の時期。
「客層も男女を問わず、若者からファミリー層まで幅広く、コロナ禍に配信系サービスの普及によってアニメを観る方が増え、“オタクが観るもの”から“一般的な趣味”になったと考えています」
景品を目当てにクレーンゲームをする人の増加と並行して、クレーンゲームが置かれる環境も変わっていった。ひと昔前であれば、クレーンゲームがあるのはドラマ等で不良のたまり場の象徴としても描かれた、繁華街にある小さなゲームセンターが定番だった。しかし、スマホの普及やコロナ禍の影響で従来型ゲームセンターの閉鎖が相次ぐ中、クレーンゲームは、ショッピングセンター内や専門店へ設置数を増加させていく。「クレーンゲームは、子どもからシニアまで安全な場所で楽しめるゲームという認知が拡がったと思います」と長岡氏も語る。
「昨年6月に、人気ロックバンドとのタイアップを行なったのですが、それまでクレーンゲームで遊んだことがなかったという40代50代の女性が10代20代のお子さんと一緒になど、多数来店してくださいました。その例からもわかるとおり、今後クレーンゲームは、小さいお子様からシニア層まで、もっと幅広いお客様に楽しんでいただける可能性を秘めていると考えています」
■景品を獲得してもらうことが大前提「推しに捧げる愛情に応えられるような景品を作りたい」
今やアニメやキャラクターからアイドル、アーティストと幅広いジャンルの景品が揃うクレーンゲーム。推し活グッズとなる限定品を考えるうえでは、「GiGOにしかできない体験価値を企画の中に入れることを一番重要視している」という。
「10〜20年前は、わざわざクレーンゲームをするために、自宅から離れた場所のゲームセンターまで足を運ぶ方は、ほぼいなかったと思います。でも今は、お客様が『この商品が欲しいから、池袋のお店に週末行こう』という動機になるような景品もあります。さらに獲得してくださったときの喜びを提供できることも大事にしながら、企画や景品を考えています」
しかし、クレーンゲームはゲームであるだけに、確実に景品が取れるわけではない。取るためにはそれなりのお金も必要となるが、これについて長岡氏はこんな心強い言葉をくれた。
「よくクレーンゲームは取らせないようにしていると思われがちですが、取れないで帰るのでは何も面白くないですよね。もちろん、企業としては収益を考えなければいけませんが、その中でも僕らは獲得して帰っていただくことを大前提に、市場で販売している物より安く取れたから良かった!と少しでも感じていただけるような景品の企画を練っています」
さらに、推し活をしている人たちを対象にしているからこその、こだわりもある。
「推し活をされている方たちの大半は、限られたお財布の中身に合わせて、投資する優先順位を決められていると思いますが、物販店舗を含めるとクレーンゲームの優先順位は低いと思います。なので、もっと『欲しい!』と興味を持っていただける良いものを作らなければと思っています。『(クレーンゲームの)この商品が欲しいから、レストランに行かないでおにぎりを食べて節約した』とか、そのくらい推しに捧げる愛情や熱量を持ったお客さまに、応えられるような景品を作りたいのです」
■インバウンドがクレーンゲーム需要拡大に寄与、今後は世界各地へ進出
推し活グッズにおいては、ただ単に景品を作って提供するだけでなく、店舗を使ったプロモーションや、ファンが喜ぶメッセージボードを入れるなど、ファンが楽しめる空間作り、体験価値を高めることも意識しているという。
それを形にしたのが、池袋と原宿に設置した推し活を応援するためのショップ「fanfancy+ with GiGO」だ。メンバーカラーといわれる「推しの色」をベースにした商品はもちろん、マスコットを置いて撮影できるドールハウスや、クレーンゲームで取ったマスコットの服やアクセサリーも販売。人間用の服もお揃いで用意されているので、マスコットとのリンクコーデで写真を撮ることもできる。
これらの取り組みは、コラボする推し側にとっても、「様々なコンテンツがある中、GiGOと組むことでプロモーションが成功したり、より新たな宣伝効果を生むことができたりするよう考えている」と長岡氏。こういった取り組みは確実に成果を生み、今は、アーティストサイドからのコラボ企画の相談も増えているという。
もうひとつ、クレーンゲームの人気の拡大に影響を及ぼしているのが訪日外国人観光客だ。海外でも人気が高い日本のキャラクター商品が、クレーンゲームを楽しみながら手に入るとあって、インバウンドの増加とともに需要が拡大。「クレーンゲームの文化が海外にも浸透してきている」ととらえ、GiGOは海外にも進出を果たしている。
「今は北米と台湾とベトナムですが、ジャパニーズコンテンツの需要は高いので、その強みを力に、世界各地へ進出していきたいと考えています」
1回で景品が取れたら “推し”との絆を感じ、逆に10回目でようやく取れてもその労力は“推し”のためであり、“推し”への愛情表現となる――。クレーンゲームד推し活”が相乗効果で創り出す体験型エンタメは、さらに内容も規模も拡がりを見せてくれそうだ。
(取材・文/河上いつ子)