BUAさん(33歳)日本での生活に息苦しさを感じて海外移住を考える人は少なくない。タイ・バンコク在住のBUAさん(33歳)もその一人だ。
「日本ではみんなが一生懸命働きすぎていると感じました。タイでは無理をせず、“生活を楽しむこと”が大切にされています」
現在、8歳の子どもを育てながら、SNSで在住者目線のタイ生活情報を発信中。東京出身のBUAさんが、タイ移住を決意したのにはどのような経緯があったのだろうか。
◆子育てをしながら働くことの難しさを実感
「高校卒業後、本当は大学に進学したかったのですが、片親家庭で育ったため、経済的な負担を考えて断念しました。奨学金を借りることも返済が不安でしたね。その後、接客業やモデルの仕事を経験しながら、映画『サヨナライツカ』『ザ・ビーチ』『ハングオーバー2』など、タイを舞台にした作品を観るうちに自然とタイに惹かれていきました」
タイに興味を持ち、初めて訪れたのは22歳のとき。
一人旅ということで不安もあったが、異国の文化が新鮮で楽しかったという。また、当時は円高の影響もあり、お得に旅行ができたことから、3〜4ヶ月ごとに訪れるようになった。
「もともと『いつか海外に住んでみたい』という思いはありましたが、強く意識するようになったのは結婚し、子どもが生まれてからです。日本では待機児童問題が深刻で、保育園に入れるのは3〜4歳からと言われていました。すぐに仕事をしたかったのですが、面接で『何日何時間働ける?』と聞かれても、まだ入園できる幼稚園や保育園が決まっておらず、答えられませんでした。その結果、不採用になったんです。こんな状態が続くのかと思うと、モヤモヤした気持ちが募りました」
それなら、いっそ海外で子育てをしたほうがいいのではないかと考えたBUAさん。子どものパスポートを取得し、2人でタイに旅行した。すると、一人旅のときとは違う視点でタイの魅力を感じるようになったという。
「タイには、子どもをとても大切にする文化があります。日本では子育て中に肩身の狭さを感じることが多かったのですが、タイでは乗り物で席を譲ってくれたり、子どもが泣いても笑顔で接してくれたり、周囲の人たちが自然に手を差し伸べてくれる文化があります。
さらに、シッターの費用も比較的安く、働きやすい環境が整っていました。日本にいるときのような息苦しさを感じなくていいんだなって。タイで子育てをしたいと強く感じたんです」
◆「褒めて伸ばす」タイの教育環境
29歳で家族そろってタイに移住したBUAさん。実際にタイの教育環境に魅力を感じたという。
「学生時代、日本の学校では怒られることが多かったのですが、タイでは『褒めて伸ばす』教育が主流です。日本が謙遜や同調を重んじるのに対し、タイでは自己肯定感を育む文化が根付いています。学校では子どもたちが積極的に意見を求められ、自然と発言する習慣が身につくため、自分の考えをしっかり伝える力が育まれると感じました」
BUAさんの子どもが通うのは、エスカレーター式のインターナショナルスクール。教師の国籍も多様で、異文化に触れる機会が多く、生徒もアジア圏だけでなく欧米など、さまざまなバックグラウンドを持つ。
そうした環境の中で、子どもたちは広い視野で物事を考える力が養われるという。また、日本と比べて学校生活の規則も比較的自由なのだとか。
「日本では服装や髪型に厳しいルールがありますが、タイでは比較的寛容な雰囲気があります。欧米の影響もあって髪色に関する規則もゆるやかで、大学生はカジュアルなサンダルで登下校したり、流行に合わせた服装をしたりと、個性が尊重されています。一時期『鬼滅の刃』が流行した際には、タイの小学生たちに主人公・炭治郎などのキャラクターの羽織がブームになっていました(笑)」
◆生活費は家族で月6万5000バーツ(約28万7000円)
BUAさんは日系企業に現地採用で勤務する夫とともに、バンコクの中心地で暮らしている。
「今住んでいる家は、プールとジム付きの2LDKのコンドミニアムで家賃は2万2000バーツ(約9万7000円)です。都心を離れればもっと安い物件も見つかりますし、築年数の古い物件を選べばコストを抑えることもできます」
実際の生活費はどのようなものだろうか。
「月の食費は私一人でひと月1万5000〜2万バーツ(約6万6000円〜約8万8000円)ほど。外食すると1日1000バーツ(約4400円)になることもありますが、ローカルの屋台などで食べると200バーツ(約880円)ほどで済むので、自炊もしながらバランスを取っています。家族全体の生活費はひと月6万5000バーツ(約28万7000円)ほどですね。また、別途で学費を月額換算すると、スクールバス代を含めて2万3000バーツ(約10万円)となり、家賃と同程度の負担感があります」
また、物価は上昇傾向にあるが、工夫次第でリーズナブルに暮らせるという。
「バンコクのカフェではコーヒーが150バーツ(約660円)することもありますが、ローカルのカフェなら35バーツ(約150円)ほどで楽しめます。ボートヌードル(タイの麺料理)は40バーツ(約170円)で食べられますし、ルンピニ公園には50バーツ(約220円)の食べ放題屋台もあります。タイ語や英語ができると、生活の選択肢が広がり、コストを抑えられる場面が増えると感じますね」
しかし、タイでは外国人に就学義務はないため、学校の費用はすべて自費である。そのため、日本と比べると、むしろ教育にかかる費用は大きな負担となる。
「それでも日本で何年も待機児童として過ごすより、タイで子どもをのびのび育てるほうが良いと判断しました。確かに諸々の大きな出費はありましたが、後悔はありません。子どもが自由な環境で成長できることを考えれば、それだけの価値があると感じます」
◆タイのドラマやYouTubeに出演
タイ語は移住当初に、“タイの東大”とも呼ばれるチュラロンコーン大学の外国人向けタイ語コースで学んだというBUAさん。現在はSNSで積極的に発信しているが、主な活動内容について聞いた。
「タイのレストランやホテルからの招待を受け、各地のレビューをしています。普段なかなか行けない場所や食べる機会のない料理など、毎回新しい発見がありますね。また、タイ語を学んだことでタイのドラマシリーズやYouTubeの撮影にも呼ばれるようになり、日本ではできなかった貴重な経験をさせてもらっています」
とはいえ、最初は言葉の壁に苦労もあったという。
「最初はタイ語も全くできず、日本人コミュニティとばかり関わっていましたが、自分らしさが見いだせず、無理をしていたのかもしれません。しかし、タイ語を学ぶことでローカルの友達もでき、タイの文化や生活に少しずつ馴染んでいきました。今では、日本人とローカルのバランスを取り、落ち着いて暮らせるようになったと感じています」
最後に、改めてタイの魅力を聞いた。
「旅行者にとっては、見ず知らずの人を信用しすぎないなど、最低限の警戒心は必要ですが、安全なホテルや行き先を選べば、とても楽しめる国だと思います。移住を考えているならば、肩の力を抜いて生きていきたい人には合うのではないでしょうか。バンコクからはパタヤやアユタヤなどの観光地まで週末旅行で足を伸ばせます。
子育てがしやすく、美容室やマッサージも親子連れで行ける点も気に入っています。
私にとってタイは、もはや『第二の故郷』です。初めて訪れたときに出会った友人とは今でも連絡を取り合っています。これからも、この国との縁を大切にしていきたいですね」
【BUA】
東京都出身33歳。2019年よりタイ・バンコクに教育移住。在住者目線の健康的なタイ生活やローカル巡りからカフェ、タイ旅行などタイ生活に関する情報を発信中。Instagram:@noon_bua、note:Bua in Thailand
<取材・文・撮影/カワノアユミ>
【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano