
製造業の品質管理部門で働くAさんは、ある日突然、尊敬する上司のBさんから衝撃的な報告を受けました。なんとBさんが会社から退職勧奨を受けたというのです。Bさんは長年にわたり部下の育成に尽力し、高い専門性と温厚な人柄で社内外から信頼を集めていました。そんなBさんが退職勧奨の対象になるなど、Aさんには信じられませんでした。
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心配するAさんに対して、Bさんはこの退職勧奨を毅然とした態度で断ったことを伝えます。しかしその数週間後、Bさんに対して突如として異動の辞令が出されました。その異動先は、なんと会社の駐車場警備という全く畑違いの職種です。
Bさんは最近の業務で特に大きなミスをしたわけでもなく、むしろ部門の業績向上に貢献していたはずです。それなのになぜこのような扱いを受けなければならないのか、Aさんには理解できませんでした。
この状況を目の当たりにしたAさんは、「これは退職勧奨を断ったことへの報復なのではないか?」と考え始めます。退職勧奨を断ったからといって、会社はこのような傍目から見て不当に思える異動をおこなっていいのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
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ー退職勧奨を断るとどうなるのでしょうか
前提として退職勧奨をおこなう前に、会社は解雇回避努力義務を果たさなければなりません。経費削減や給料の減額といった策を講じたり、従業員の配転・出向・転籍を実施するといった方法が求められます。
それでも人員整理が必要だとなった場合に、退職勧奨がおこなわれます。退職勧奨そのもの自体に法律上の前提条件はありません。不当な圧力を加えたり、従業員を侮辱したりすると違法と判断される場合もありますが、合理的な理由があれば勧奨自体に問題はありません。
退職勧奨を拒否した場合、従業員と企業側で今後について話し合いがおこなわれます。企業側は従業員の雇用を守るために、ほかの部署や関連会社への転勤、転属を打診したり、短時間勤務を提案したりします。企業から出された条件に対して納得できないのであれば、従業員は自ら退職せざるをえません。これまで通り働きたいと言っても、企業も無い袖は振れないため、授業員の希望は通らないでしょう。
退職勧奨を受け入れて退職した場合、失業保険では自己都合ではなく会社都合として扱われるため、失業手当は長期間受給可能です。
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ーまったく畑違いな仕事への降格は問題ないでしょうか
社内外から信頼を集めていたにもかかわらず、これまでの業務とかけ離れた駐車場警備への降格は、問題があると見られても仕方ないでしょう。ただBさんも処遇を受け入れていることから、表沙汰にしたくない事情もあるのかもしれません。
実際、東京地裁2021年(令和3年)12月21日判決では、降格処分を不服として損害賠償を求めた従業員に対して、原告の主張を認めませんでした。
判決によると、原告が期待される業績を生み出せなかった点と、企業が研修をおこなうなど降格を免れさせるための措置をとっていた点を鑑みて、企業側に過失がないと判断したようです。
退職勧奨の理由までは不明ですが、Bさんが降格を受け入れていることから、企業側には過失は無いのではないかと考えられます。
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いずれにせよ従業員のモチベーションや職場の雰囲気を担保するためには、可能な限り理由を開示した方がいいでしょう。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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