「ミズノらしさ」を消して2000万円売れたシューズ 思い切った決断の背景

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2025年03月05日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ブランドは時に「選ばれない理由」になる

 企業にとって「ブランド」は大きな強みです。特に多くのファンを抱えているスポーツブランドであれば尚更でしょう。しかし、それが時に「選ばれない理由」になることもあります。


【画像8枚】「ミズノっぽさ」を極力なくした機能性ミニマルシューズ(1万3200円)


 ミズノのスニーカー「THE MIZUNO ENERZY」はアスリート向けに開発された商品で、優れたクッション素材とそのユニークなデザインが話題を呼び、発売直後から売り切れが続出するほど人気を博しました。


 しかしそのデザイン性の高さは裏を返すと、普段使いを求める層にはアプローチすることが難しいものでもありました。特にビジネスシーンにおいては、ブランドの主張が強いデザインは選びにくいと思う人が多いのではないでしょうか。機能性には興味があっても、ブランド特有の見た目のスポーティさが購入のハードルになっているのです。


 ミズノはこのシューズはスポーツシーンだけでなく、普段の生活でもその性能を発揮できるシューズだと考えていました。そこでミズノは、思い切った決断をします。ブランドのアイデンティティーともいえるデザインを「引き算」し、新たなターゲット層に向けたミニマルなシューズを開発したのです。


 新しいシューズ「THE MIZUNO ENERZY ULTRA LIGHT」では、既存の「THE MIZUNO ENERZY」に搭載されたクッション機能を日常生活向けにチューニングし、デザインも大胆に変更しています。ロゴを目立たせず、装飾も排除し、どんな服装にもなじむミニマルなルックスに仕上げ、スポーティで特徴的なスニーカーから、「いつでもどこでも履けるシューズ」への転換を図りました。


●ターゲットも大幅に変更


 また、ターゲット設定も大胆に変更しました。これまでのミズノのメインターゲットであるスポーツユーザーではなく、日常で履ける快適なシューズを求めるビジネスパーソンやカジュアル層に向けたのです。履き心地に定評のあるミズノの技術を生かしながら、ブランドの強い主張をあえて抑えることで、「ミズノの靴を履いたことがない人」にも手に取ってもらえるよう設計しました。


 大胆なデザイン変更がされた新モデルは応援購入サイトMakuakeで先行販売され、結果として2000万円以上を売り上げるヒットとなりました。さらに、一般販売に移行してからも人気を維持し、ECサイトでも売れ続けています。


 「ミズノの靴を履いたことがない人」にも手に取ってもらいたいという狙いの通り、購入者の応援コメントの中には「ミズノを買うのは初めて」といった声がいくつも見られました。加えて、一般販売時の購買層についても、既存商品の主要顧客層とは異なり「ビジネスシーンでも履ける」「ミズノの靴は久しぶりに買ったが、履き心地がいい」といったコメントが相次ぎ、新たなターゲット層に届いたことが明らかになりました。


 今回のミズノの挑戦は、ブランドの持つ技術力を生かしながら、デザインやターゲットを変えることで新たな市場を切りひらけることを証明したといえます。


 重要なのは「何を変えて、何を残すか」という視点です。ミズノは機能性という最大の強みはそのままに、デザインという「見た目のハードル」を取り除くことで、これまでリーチできなかった層にアプローチしました。ブランドらしさにこだわるのも戦略ですが、時には引き算の発想が新たな成長の鍵となります。


●著者プロフィール:早川将司(はやかわ・まさし)


株式会社マクアケ MIS事業部 新規事業開発プロデューサー


1986年生まれ。2009年法政大学卒業後、ブライダルプロデュース会社、マーケティング会社、デザインコンサルティングファームを経て2020年に株式会社マクアケに参画。入社後からはMakuakeでの先行販売時におけるコンサルティングだけでなく、新商品やサービスの企画・開発段階から新規事業立ち上げに至るまで一貫した支援を行うMIS事業部にて新規事業開発プロデューサーとして従事。



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