“洋画離れ”でもヒット続くディズニー “観客の琴線に触れる”国内戦略を明かす

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2025年03月05日 09:11  クランクイン!

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興行収入50億円超の映画『モアナと伝説の海2』  (C)2024 Disney. All Rights Reserved.
 日本映画製作者連盟が、今年1月に発表した「2024年(令和6年)全国映画概況」で、邦画の好調が大きく取り上げられた一方で、洋画作品が伸び悩む状況も併せて取り上げられた。洋画において興行収入が10億円を超えた作品が2023年は15本であったのに対し、2024年は10本と減少。振り返ると2010年代後半は邦画と洋画の興収比率は5対5ほどだったが、コロナ禍を経て7対3ほどになり、ハリウッドをはじめとする海外発の作品のヒット数や公開規模が縮小傾向にある。そのような状況の中でも洋画すべてが低調ではなく、ディズニーは昨年夏の公開作から今年にかけてコンスタントにヒットを重ね、洋画全体興収の実に43%を占めている。映画『インサイド・ヘッド2』や『モアナと伝説の海2』は、なぜ興行収入50億円を突破できたのか? ディズニー映画の配給機能を統括する、ウォルト・ディズニー・ジャパンの佐藤英之ゼネラルマネージャーが国内戦略を明かした。

【写真】『モアナ2』ではアクアボールづくりなどを実施

 佐藤氏は、賞レースでも話題になった『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のような骨太な実写映画から、『インサイド・ヘッド2』や『モアナと伝説の海2』をはじめとするファミリー向けのアニメーション作品を幅広く取り扱うディズニー映画の配給機能を統括する人物。そんな佐藤氏は、若い世代と洋画の間に生まれた距離について、 「邦画に親近感を覚えやすいこともあるでしょう。家族や友人など身の回りのストーリーとして見ることができ、自分ごとに捉えやすいテーマも多いことが魅力」と話す。

 まだ記憶に新しいが、2023年のハリウッドでは、全米脚本家組合と米映画俳優組合の約半年におよぶストライキにより映画製作が停滞し、洋画大作の供給が減速。強力な作品不足によって洋画全体の興行が下がったのが実態と言える。加えて、コロナ禍の洋画供給が滞った時期に、邦画の実写大作やアニメの話題作がシネコンのスクリーンを独占し、大作以外の洋画の上映機会が激減していることも、観客が洋画に触れる機会が少なくなった理由の1つとして考えられる。

 そんな洋画にとって向かい風が吹く中でも、ディズニーは昨年夏の公開作から今年にかけてコンスタントにヒットを重ね、洋画全体興収の実に43%を占めている。2024年に日本で公開されたアニメーション作品の興行収入は『インサイド・ヘッド2』(53.6億円)と『モアナと伝説の海2』(公開中/50億円超)、また実写映画でも『ライオン・キング:ムファサ』(21.1億円)と『デッドプール&ウルヴァリン』(20億円)がそれぞれ1位、2位にランクインするなど、多くの邦画実写をしのぐ大ヒットとなっている。

 前述の日本映画製作者連盟の発表では、洋画復活の糸口として、「多様な作品性」と「10億円規模ヒットの安定的な供給」を掲げていた。昨年のディズニーはまさにそれを実現し、洋画興行を下支えしつつシーンをけん引する存在になっていると言える。

 ディズニーがヒットを生み出し続ける背景には、観客と作品をつなげるタッチポイントの多さにある。グッズや音楽、テーマパークなどリアルな体験も含めて、人々の生活のなかで作品の世界観やキャラクターに触れる機会をどのように提供し、増やしていくかが重要な役割を果たしている。その最たる例が、ディズニー公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」。過去作品をいつでも視聴でき、日常的にキャラクターに触れられるタッチポイントを提供することが、『インサイド・ヘッド2』や『モアナと伝説の海2』のようなシリーズ作品への関心を高める要因になったといっても過言ではないだろう。

 同時に、ここ数年ディズニーが注力しているのが「ローカル戦略」。全国各地で映画館を運営する興行主と協力し、映画を見る前後に作品の世界に没入できる取り組みを展開している。

 『インサイド・ヘッド2』では風船でキャラクターを作るバルーンアート制作、『モアナと伝説の海2』ではガラスの瓶にモアナたちの浜辺のシーンを再現するアクアボールづくりなど、映画館やショッピングモールなど全国12ヵ所で実施し、500名以上が参加。また沖縄では男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」とコラボレーションし、試合のハーフタイムに地元の高校生が『ライオン・キング:ムファサ』の主題歌を合唱するイベントを行うなど、ファミリー層や若い世代への“体験”を通じたコミュニケーションによる思い出作りに尽力した。

 佐藤はこれら施策の成果に確かな手応えを感じており、「作品の世界観に没入できるさまざまな体験からは、親子のたくさんの笑顔が生まれます。子どもの頃の楽しかった記憶はずっと心に残り続けるでしょう。そしてそれがまた次の作品でも映画館に来たいと思う原動力になると同時に、次世代にファンをつなげていくことにも繋がります」と振り返り、国内戦略において都市圏以外のローカルエリアでの取り組みに意欲を見せる。

 ローカル戦略を仕掛ける担当者は「今年はディズニーアニメーションやピクサーのアニメーターを海外から招き、講演やイラスト教室のようなイベントを各地で行うツアーも企画したい」と、子どもたちのとびきりの笑顔が思い浮かぶ新たな構想にも言及した。

 作品ごとの宣伝を兼ねた施策と同時に「パートナー戦略」にも注力しているそう。今年1月、イオンシネマ全国24劇場では、ディズニーを象徴する「ディズニー」「ピクサー「マーベル」「スター・ウォーズ」の個性豊かなキャラクターが描かれた特大オリジナルアート(シーニック)を掲示しはじめた。ディズニーの世界観に没入できる特別な体験が、映画館を訪れる人々にブランドへの愛着を育み、映画体験をより豊かにすることを目指してこの取り組みがスタートしたという。

 イオンエンターテイメント代表取締役社長・藤原信幸氏は「ディズニーとのパートナーシップをさらに強化することで、映画鑑賞を超えた感動体験を創出し、映画を通じた新たな出会いや海外文化との触れ合いを提供していきます」と語り、ディズニーとともにエンターテインメントの可能性を探求しながら、洋画の楽しさを広く伝えていくことを掲げている。

 佐藤は、「いかに観客の琴線に触れる体験機会を作り出すかが重要だと考えています。マーケティングや宣伝部隊とも連携しながら、よりよい作品を世にお届けし、それらがすべて噛み合うことで観客数の伸びに繋がっていくと信じています。今年は昨年からの良い流れを引き継ぎ、ヒット作品を着実に積み重ねていくことがディズニーとしての挑戦です」と語った。

 2025年は、ディズニー以外では、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』、『ジュラシック・ワールド/復活の大地』といったハリウッドが誇るビッグタイトルが目白押し。洋画作品の魅力を伝え続けることが求められるなか、今年『白雪姫』(3月20日公開)や『リロ&スティッチ』(初夏公開)、『ズートピア 2』(冬公開)などの話題作を擁するディズニーが、豊かな映画体験や、多様なタッチポイントの拡充を通じて、洋画市場を活性化させ、映画業界全体の発展を後押しすることが期待されている。

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