写真会社に巣食う問題社員によって同僚は疲弊し、職場は大混乱。時には退職者まで出し、業績を悪化させる。そんな「危険社員」を7種類の野生生物にたとえて、生態に迫った!今回は「ヒグマ型」危険社員について。
◆逃げると執拗に猛攻撃してくる
臆病なのに、相手が自分よりも弱いと判断すると鋭い爪と牙で誰彼構わず襲いかかるヒグマは、国内最凶と称される。その習性は、部下など立場の弱い者を攻撃する老害パワハラ社員に通じる。
「50代営業部長は、普段から『これはパワハラじゃねぇからな』と部下の人格を全否定するようなことを言う。『俺がオマエくらいの頃は、仕事取るために毎日取引先と朝まで飲んでから出社したもんだ』と激ギレしながらゴミ箱を蹴飛ばしていたことも。しかも粘着質で、深夜にスラックで業務連絡が届く。5分おきに1時間以上鳴り響くカチッという着信音で精神的に追い込まれ、休職した若手もいました」(広告・36歳・女性)
ヒグマは逃げ惑う相手ほど執拗に追いかける。ヒグマ型社員の攻撃も執拗だ。臨床心理士の杉山崇氏はこう話す。
「部下から尊敬されていると思い込み、特権意識が形成された結果、特定の人にはパワハラが許されると勘違いする。また、マウントで得られる高揚感は中毒性が強いため、言動は過激になりがちです」
人肉の味を覚えた子グマは、大人になると人を襲う。ヒグマ型危険社員を上司に持った部下もまた、同僚に対して攻撃的になる。労務士の石川弘子氏が解説する。
「彼らの危険性は上層部も認識はしているが、『俺もそうして成り上がったし』と放任しており、こうしてパワハラ文化は脈々と組織に受け継がれていく」
職場に猟友会を呼ぶべきか。
◆粘着質のヒグマ型性加害!
メーカー勤務の遠藤舞子さん(仮名・28歳)は、上司によるセクハラに悩まされたという。その振る舞いは凶暴なヒグマ型社員そのものだった。
「地方支店の社員を集めた研修があり、会社が借り上げたホテルに全員が寝泊まりすることになったんです。初対面の40代係長は女性社員に『スタイルがいい』などと当初からセクハラ気味でした」
上で述べたように、ヒグマは弱い相手ほど執拗に攻撃する。それはセクハラにおいても同様だ。乱婚制のヒグマのように、係長は見境なく女性にハラスメントを働いた。事件は、ホテルで毎晩のように開かれた飲み会の後に起きた。
「先に部屋に戻り寝ているとドンドン! と激しくドアを叩く音が。泥酔した係長が『飲み直そう』と言う。寝たふりをしていると『開けろ!』『サービスしろ』と発言はヒートアップし、最後は『一発ヤラせろ!』と大声を出してノブをガチャガチャと回してくる。生きた心地がしませんでした」
騒ぎを聞きつけた支店の女性社員が、警察に通報。係長は厳重注意され、その後、会社でも懲戒処分を受けた。初対面で遠藤さんに目をつけた係長は、ヒグマのように粘着しセクハラに及んだのだ。
遠藤さんが勤務するような中規模の企業では、大企業に比べてコンプライアンス意識が浸透しておらず、セクハラ事案が起こりやすい。
◆「ヒグマ型」の特徴
攻撃的な言葉を浴びせたり、机を叩いたりと相手を絶望に追い込む。その姿は、鋭い犬歯を剝き出して威嚇する人食いクマに通じる。
長く鋭い爪での攻撃は破壊力抜群。深夜のスラックでの業務連絡や、他部署の人たちの前で晒し者にするなど、被害者のメンタルに致命傷を負わせる。
ターゲットを定めて、ねちっこく攻撃するのも、ヒグマ型パワハラ危険社員の特徴だ。繰り返される攻撃に、メンタルが蝕まれていく。
対策:上層部からの指導→懲戒、それでもダメなら退職勧奨しかない!?
【臨床心理士 杉山 崇氏】
心理学者。神奈川大学教授。同大学心理相談センター所長。著書に『心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書』(双葉社)など
【社会保険労務士 石川弘子氏】
フェリタス社会保険労務士法人代表。ハラスメント防止コンサルタント。著書に『あなたの隣のモンスター社員』(文春新書)など
取材・文/谷口伸仁 取材/山本和幸 綾部まと 齊藤武宏 イラスト/神林ゆう
―[職場を壊す[危険社員]図鑑]―