若者の“宝くじ離れ”が進む一方で…「当選確率はゼロに近い」のに一発逆転を狙う”氷河期世代”の悲哀

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2025年03月06日 09:30  日刊SPA!

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 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 バレンタインジャンボ宝くじの販売が3月10日で終了になります。1等賞金2億円、前後賞合わせて3億円という夢のチケット。この宝くじですが、購入する若者が減少し、勢いを失っています。将来的には一発逆転志向が強い氷河期世代がすがる、貧困の罠の温床ともなりかねません。

◆“宝くじ離れ”の要因は?

 2023年のジャンボ宝くじの販売実績額は3197億円。2003年は5497億円でした。およそ4割の減収。20年で2000億円以上が蒸発したことになります。

 その要因の一つとなっているのが、若者の宝くじ離れ。2010年の調査で「最近1年間の宝くじ購入者」における18〜29歳の割合は13%でした。2022年の調査ではわずか7%。30〜39歳も19%から13%ほどに減少しています。

 一方、50〜59歳は19%から24%、60〜69歳は18%から24%、70歳以上が15%から22%へとそれぞれ増加しているのです。また、就職氷河期世代が大半を占める、40〜49歳の購入比率も16%から20%に増加しています(「宝くじ」に関する世論調査)。宝くじのメインターゲットは人生がひと段落した年齢層の高い人へとスライドしました。

 若者が宝くじを購入した背景として、「toto」などのスポーツくじの台頭や、窓口販売がメインであることなどがあると言われています。確かに要素の一つとしてはあるかもしれませんが、価値観の変化が最も大きいのではないでしょうか。

◆氷河期世代の若者はツキと運を重視

 博報堂は30年の間で変化した若者の価値観に関する調査を実施しています(「若者調査」)。これは1994年と2024年とで、19〜22歳未婚男女を対象に調べたものです。

「今一番欲しいものランキング」において、今も昔も1位は「お金」。金銭欲という感覚は普遍的なもので、これは変化していません。注目したいのは2位で、1994年が「ツキ・運」であり、2024年は「時間」。現代において、「ツキ・運」は7位にまで落ちています。

 就職氷河期世代は1993年から2005年に学校を卒業した人たち。手書きのエントリーシートを100社送って、1社でも内定が出ればいいという時代でした。いわゆるブラック企業であっても内定をもらえれば御の字。就活で魂を削る思いをした人も少なくないでしょう。

 その一方で、現在は超売り手市場。初任給30万円は当たり前の時代になりました。多くの若者がワークライフバランスを重視し、条件のいい会社を当たり前のように選ぶ時代になっています。

 氷河期世代はツキと運、現代の若者は時間を重視するというのは、その時代背景を如実に表しています。

◆成りあがりストーリーは、もはや絵空事…

 岩手銀行によると、NISAの口座総数のうちで10〜20代の割合はおよそ10%。30代は17%でした(「利用者数や年代別の平均買付額は?」)。宝くじよりも若者が積極的に投資信託や株式投資に参加をしているのです。若者は特につみたてNISAの比率が高く、堅実に資産運用する様子が伺えます。

 氷河期世代は一発逆転思考が強く、何者かになりたいという強烈な想いにとらわれている人が少なくありません。これには文化的な背景もあり、90年代は「カメレオン」や「疾風伝説 特攻の拓」など、冴えない主人公がひょんなことから成りあがるマンガが大ヒットしました。一発逆転する様を描く「賭博黙示録カイジ」の連載が開始したのも1996年でした。

 最近ヒットしたマンガに「東京卍リベンジャーズ」があります。これも典型的なヤンキーの成りあがりマンガですが、主人公は26歳のフリーターで、2005年にタイムリープするという内容。氷河期世代が現実と重ねていた成りあがりストーリーは、今や日常とは隔絶されたあり得ない世界のエンタメとして消費されているのです。

 一発逆転や成りあがり思考が強い氷河期世代は、非正規社員の比率が高いという別の問題も抱えています。総務省「労働力調査」によると、45〜54歳における非正規雇用比率は7%。25〜34歳は4%でした。なお、1988年の45〜54歳の非正規雇用比率は4%です。

 氷河期世代は特に不本意な非正規比率が高いとされており、政府はキャリアアップ助成金や、地域就職氷河期世代支援加速化交付金などによって支援を継続してきました。しかし、この世代のひきこもりの人数が突出していることからも、そもそも地道な努力を重ねてキャリアアップをするという思考が弱く、将来を諦めている人が少なくありません。
 
◆「1000万分の1」確率はどのくらい?

 宝くじは年収の低い人が好んで買うことで知られています。インターネット関連事業を手がけるトイントによると、宝くじを購入する年収で比率が最も高かったのは年収が299万円までの人で、全体のおよそ6割を占めています。1000万円以上の人はわずか1%。

 宝くじは夢を買うと言われていますが、その通りでバレンタインジャンボ宝くじの1等当選確率は1000万分の1。

 麻雀で、配牌時にすでにテンパイしており、第一ツモであがる役満に「天和(テンホウ)」があります。最難関の役満としてよく知られていますが、この確率が33万分の1。ゴルフのホールインワンの確率が3万3000分の1。ボウリングですべてストライクを出すパーフェクトゲームを出す確率が上級者で200分の1と言われています。

 1000万分の1という確率はゼロに近いのです。

◆貴重な生活費を削り、貧困が加速

 宝くじは売上全体の47%ほどを当選金として支払っています。宝くじを買い占めた場合、それだけが戻ってくるというわけです。一方、パチンコ・パチスロや競馬は80%ほどと言われています。宝くじは還元率も低いのです。しかし、一発逆転を狙いたいという強い思いを持ち、自分は当たるに違いないと考えて、宝くじを購入する層は減ったとはいえ絶えません。

 自分が貧しいと感じ、所得が一定水準以下だと過剰なリスクを負う傾向があることもわかっており、そういう人ほど宝くじを買いやすいのです。そして貴重な生活費を削り、貧困が加速するわけです。

 価値観や時代背景、辿ってきた道のどれをとっても氷河期世代と重なります。

 貧困は経済的な成功を促すスキルや能力、知識がないために引き起こされると考えられがちですが、貧困そのものが知的資源を減らすという見方もあります。つまり、お金がないことで社会への興味関心を失い、知的範囲を制限することで貧困が引き起こされてしまうというものです。明るいイメージのある宝くじですが、時代に変化とともにその色合いが変化しています。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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  • 1000万円以上の「人」は、全人口の5.4%なので・・ >1000万円以上の人はわずか1%。
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