
最近、「謝りながらオールドメディア批判」が定着した感がある。何らかのスキャンダルを報じられたり、批判をされた側がその非をある程度認めたうえで「お騒がせして申し訳ありません」と謝罪しつつも、報じた側への批判も同時に行うのだ。そのうえで支持者からは「そうですよね、マスゴミは最悪ですよね。私は〇〇さんのことを信じています!」という激励を多数受けるのである。この手法に込められた意図は以下の通りである。
「確かに私は悪かったよね。でもね、あいつらだって問題ありますよね。私にも同情されるべき点はありますよ。だから私の過ちはその時点で相殺されてもおかしくないですか?」
本稿ではその手法が定着しつつある背景を、令和ロマン・高比良くるまの「不倫報道」と、斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題に関し、日本維新の会の3人の兵庫県議が「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏に情報漏洩するなどした件を具体例に挙げたうえで解説する。
令和ロマン・高比良くるまの「メディア批判」
高比良くるまについては、オンラインカジノ賭博への関与を認め、活動自粛を発表した。その2日後にあたる2月21日に「NEWSポストセブン」によって既婚者で子どもがいるA子さんと半同棲関係を送っていたことを報じられた。他にもくるまがA子さんの子どもとも仲が良かったことなどや、さらに、離婚後の生活に希望を持たせるような発言をくるまがしていたものの、その後別れを切り出したことも紹介されていた。基本的には「女心をもてあそんだ」的な論調だ。
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これに対し、くるまはXで声明を発表。内容としては、不倫報道について騒がせたことを詫びたうえで、記事には事実と異なる点があると切り出す。A子さんとの交際は事実だが、不倫関係はないと述べ、別の女性に「乗り換えた」事実や、担当編集者マンションで一晩を過ごしたという別件については「仕事上の関係です」と男女関係を否定。
他にも報道について「事実と異なる部分」を列挙し、「大絶叫」や「不法侵入」をしたという記者の取材手法に恐怖を覚えたことも表明した。締めとしては、A子さんや編集者に迷惑をかけていること、ファンや関係者に心配をかけていることを謝罪。そのうえで、NEWSポストセブンを含めたメディアにA子さんとその家族、編集者やその周辺への取材を控えるよう要請した。
これに対しては、ファンから多数の応援の声と、マスゴミ批判が書きこまれた。
「いい加減、虚偽の記事や報道したマスコミに刑事罰与える法律作った方がいいと思う」
「もうメディアや週刊誌は信じてない。くるま信じてるで!大丈夫や」
白井孝明議員「間違ったことが報道されている」
また、兵庫県の維新議員3人の情報漏洩について、謝罪はしつつもその中で白井孝明県議は「今まではオールドメディアがすべてで正しいとされていた。しかし今回、間違ったことが報道されている」(25年2月23日付産経新聞)と、“オールドメディア”と限定して批判した。
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基本的にネットでマスコミは「マスゴミ」扱いされているし、強引な取材手法は批判の対象となる。熱愛スクープ等で芸能人を追いかけると、最近は「いい年した大人なんだから、そっとしておいてやれ」というのが定番のコメントだ。テレビのロケ現場に遭遇すると、「はい、ここで止まってくださいね〜」と通行を制止されたり、突然の街頭インタビューをお願いされるなど、その存在を煩わしいと感じた人も少なくないだろう。
さらには、旧ジャニーズ事務所の性加害問題を知っていたくせに報じなかったことなど、特定テーマについて「報道しない自由」の権利を履行することなども批判される。フジテレビの10時間半記者会見で、一部記者の詰問調での質問や、持論を延々述べるなどしたことも「マスゴミ」扱いを加速させた。嫌われる業種としてはトップクラスであろう。まぁ、皆、マスコミを通じて有益な情報を得ているのではあるが。
結局、今やマスコミ批判というものは、世論を味方にするチャンスなのである。オンラインカジノの件で警察の事情聴取を受けた件について警察批判をする空気は皆無である。時々態度の悪い飲食店店員らがネットで炎上することはあるが、それはその人物の態度が悪すぎたのと社会通念上、あまりに非常識だったからである。だが、マスコミの場合は、異議申し立てをしたい人が批判的論調で声明を発表したら一気に“味方”が「マスゴミ」の大合唱となって批判が盛り上がる。自分の思想とはまったく合わない報道は日々登場するわけで、誰にとってもマスゴミは不快な存在になり得る。だからこそ社会にとって不要、いや、社会悪といった扱いを受ける。
昨今の「謝罪しながらマスゴミ批判」の風潮は、嫌われ者のマスコミを批判することにより、憎悪をマスコミに向けるほか、支持者からはさらなる応援が寄せられるという賢い謝罪方法なのであろう。でも、マスゴミ批判する人々だって、興味を持っているからさまざまな報道に接しているわけですよね? 風俗店でコトを終えた後に「こんな仕事をするんじゃない」と説教するオッサン的なにおいを感じなくもないのですが、ま、今後こうした流れが続くのかどうかは注目していきたい。
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(文=中川淳一郎)