
長年芸能ニュースに携わってきたベテランの敏腕テレビマン・A氏にインタビューすることで芸能界の裏側に切り込む連載企画(全3回)。1回目は最近の芸能界では激減した「記者会見」の重要性について、2回目は「会見を開いていれば中居正広は引退しなくてよかった」をテーマにお送りした。
最終回となる3回目は、記者会見がスターをつくり上げてきた芸能界の仕組みと、中居氏の問題でもクローズアップされたテレビ局の隠蔽体質についてA氏が語る。
<第1回>
敏腕テレビマンが今だから言う「記者会見」の効果と重要性…なぜ「会見なし」が当たり前になったのか
<第2回>
中居正広氏、会見を開ければ「引退避けられた」 敏腕テレビマンが指摘する最大のミス
結婚は「会見で発表すべき」の理由
記者会見というと「不祥事タレントの謝罪の場」というイメージが強いが、かつての芸能界では結婚などのおめでたい話題でも会見を開くのが当たり前だった。しかし、最近は人気タレント同士の結婚であっても、SNSなどで短いコメントを発表するだけの「あっさり報告」が主流となっている。
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「昨春に俳優の山田裕貴と元乃木坂46の西野七瀬が入籍を発表し、売れっ子同士の結婚として話題になりましたが、発表自体は双方のSNSなどで連名のコメントが公開されただけでした。彼らに限らず、結婚発表で会見を開くことはほとんどなくなりました。会見がなくとも、昔だったらイベント出演時などに出待ちしたり、去り際に質問を浴びせたりといったことがありましたが、それも今はほぼありません。
これでは芸能ニュースが盛り上がるわけがなく、それはメディア側だけでなく、実はタレントや事務所にとっても大きなマイナスです。とくに結婚発表の場合、文書などで自ら発表するよりも『第三者に聞かれて答える』ということがとても大事なんです。
異性のファンが多いアイドルや俳優が自ら結婚を発表すると、いくらファンに配慮しようとしても『幸せアピールをしている』『ファンを裏切った』といった見方をされてしまうことがある。しかし、会見で第三者である記者から聞かれる形だと『本当はファンのためにも公表したくないし、話したくもないけど、マスコミがうるさいので仕方なく会見を開いた』というイメージにすることができます。ファンにしても『マスコミに追い回されて可哀そう』という印象になり、ショックが和らぐでしょう」
A氏によると、昔はなにかニュースが流れると本人に話を聞くためにマスコミ各社が自宅や仕事先に集まっていたため、困った事務所やタレントが「会見を開くか、姿だけを撮らせる」ということを提案し、その代わりによほどのことがない限り自宅や仕事先には集まらないという約束を交わしていた。
そうした慣習から「なにか発表がある時は記者会見を開く」という流れが定番になったようだ。もともとは「仕方なく」という側面があったわけだが、結婚会見を開けばタレントはイメージ低下やファン離れを抑えることができ、ファンは必要以上のショックを受けずに済み、メディアは芸能ニュースのネタができる。A氏はそうなれば「全員がwin-win」だと力説する。
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「国民的スター」のつくり方
さらに、A氏は記者会見やメディアの直撃取材が「スターをつくってきた」と指摘する。
「昔はスターに熱愛報道が出ると、仕事場から出てきた時にワイドショーの記者が直撃し、そのタレントさんが『そっとしておいてもらえたら』などとひと言くらいしゃべって車で去っていくという流れの映像がよくありました。そういった映像や記者会見は、タレントのスター性を高める効果があるんです。
たとえば、SMAP時代の木村拓哉が工藤静香と交際していた時はマスコミからの追っかけられ方がハンパではありませんでした。テレビや週刊誌がスクープを競って木村を追いかけ、雑誌や番組で盛んに取り上げられた結果として『別格の国民的スター』というイメージが強まった。本物のスターというのは、いつでも何かと騒がれたり、マスコミが寄ってきたりしているものですから」
アイドル出身だと、結婚後はカリスマ性がある程度薄まってしまうもの。だが、木村は国民的スターとしての輝きをまったく失わなかった。
「木村はSMAPメンバーの中で唯一、結婚会見を開いていますが、その時の振る舞いは堂々たるもの。デキちゃった婚であることを突っ込まれてもまったく動じず、マスコミも世間も『さすがキムタク』と感心した。木村は結婚後も変わらずにスター性を維持していますが、それはメディアに追いかけられたり、会見を開いたりすることで『国民的スターのイメージがつくり上げられていった』ともいえるでしょう」
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ですから、私としては最近の芸能事務所の若いマネージャーさんたちに言いたい。テレビ番組や映画、CMに出たりするだけで『本物のスター』をつくることはできるのかって。『スター不在の時代』といわれていますが、いま国民的なスターを生み出すためには、芸能事務所がもっと会見やメディア対応に積極的になり、業界全体で話題を振りまき続けるようにするべきだと思いますね」
テレビ局はどこも「不都合な情報を隠す」
最近の芸能界では、中居正広氏の女性トラブルを発端に「テレビ局の隠蔽体質」がクローズアップされた。長らくテレビ業界に身を置いてきた立場として、A氏は業界の隠蔽体質についてこう証言する。
「本当にテレビ局は嫌になるくらい隠しますよ。自分たちの不祥事やトラブルに関して外部はもちろん、内部にすら情報を隠そうとする。たとえば、中居氏のトラブルへの関与が一部で報じられたフジテレビの編成幹部が人事局付に異動になったと報じられましたが、知り合いのフジ関係者に聞くと『報道で知った』と言っていました。
ただ、今はフジテレビばかりが責められていますけど、隠蔽体質はどこの局も変わりません。ですから、他局がフジテレビを批判するような報道をしていることについては、私は冷ややかに見ていますよ。自分たちの局で問題が起きたら、やっぱり裏でコソコソとやっているわけですから、どの局もフジのことをとやかく言える資格はないでしょう」
テレビ局や芸能事務所が「隠蔽」する理由
なぜテレビ局は情報を隠したがるのか。
「これはテレビ業界に限ったことではないでしょうが、情報を隠蔽しがちになってしまうのは、『バレなければよい』『他だって隠している』『ウチだけ正直に発表するのはバカバカしい』といったところが根本にあります。
それと、やはりテレビ局がいろいろと守られてきたからだと思います。政治家、各業界の大物などとのつながりによって、何かあっても最悪の事態は免れることができていた。だから『隠蔽』が優先されてしまう。実際、昭和〜平成のころはその傾向が強かったです。近年は昔ほどの隠蔽体質はなくなり、どこもある程度は改善されてきていると思います。『週刊文春』の影響力をはじめ、ネットでの情報拡散も含め、世の中に対してごまかしが効かなくなってきていますからね。
情報をずっと隠し通すのが難しい時代になったことで、隠蔽体質の弊害がはっきりと見えてきました。フジテレビ問題で浮き彫りになった弊害がまさにそれで、トラブルなどの情報を一度隠そうとしてからバレてしまうと、取り返しのつかないダメージになる。隠蔽体質は組織の硬直化や腐敗も招きます。今回の問題を教訓にして、各局が今後どうするか、これから試されていくのではないでしょうか」
テレビ局だけでなく、芸能事務所にも隠蔽体質が根強く残っているという。
「正直なところ、芸能事務所も隠蔽だらけです。自社の利益を守るため、タレントの不祥事や不適切な行為などの裏の部分を隠そうとします。どんな事務所でも程度の差こそあれ、ほぼ裏があると思っていいでしょう。テレビ局は仕事上、芸能事務所やタレントと切っても切れない関係ですから、やむを得ずですが芸能事務所の隠蔽に付き合わされます。構図的には、中居氏とフジテレビの問題と変わりません。もしフジテレビの問題と同じようなことが他の局でも発覚したら、叩かれ方は今回の比ではないでしょう。ですから、われわれにとっては『明日は我が身』なのです」
記者会見などで業界を盛り上げると同時に、不都合な情報でも隠さずにオープンにすることが今後の大きな課題となりそうだ。テレビ業界が変わるなら今しかない。
(文=佐藤勇馬)