「テロの脅威、自衛隊の転機に」=駅除染、教団捜索の元陸自教官―風化懸念も・地下鉄サリン30年

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2025年03月19日 07:31  時事通信社

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時事通信社

インタビューに応じる中村勝美さん=2月、東京都内
 「化学テロの脅威に直面し、自衛隊の転機にもなった」。オウム真理教による地下鉄サリン事件から30年。陸上自衛隊化学学校の元教官で、地下鉄築地駅の除染を指揮した中村勝美さん(65)は当時を振り返り、「対策が進んだ一方で、危機意識は薄れつつある」と警鐘を鳴らす。

 事件当日、駅構内に入った中村さんは、惨状を伝える光景に言葉を失った。「無人のホームに靴や眼鏡が散らばり、車両に残る吐血や液体の痕が生々しかった」と話す。中和剤を噴霧後、最後は自ら防毒マスクを外し、体を張って安全を確認した。「少しずつ外気を吸い、異常がないか神経を集中した」。作業に自信はあったが、待つ時間は長かったと話した。

 前代未聞の化学テロだったが、予感もあった。事件前日、中村さんは陸自朝霞駐屯地で警察官約400人に防毒マスクの付け方や毒ガス対処法を指導。こうした訓練に前例はなく、目的や理由は知らされなかったが「近く何かある」と感じたという。

 サリンを量産した教団施設「第7サティアン」の捜索にも同行した。警察に協力する形でプラントを調べ、製造の痕跡を探した。「先端工場のように整然とした配管と、素人のような雑な区画が混在した異様な形状。全体的に赤くさび、『よくこんな場所で』と驚くしかなかった」と振り返った。

 事件は陸自化学科部隊にとって大きな転機となった。「専門研究は不用」として、廃止論もあった空気は一変。今では全国に対処力を強化した「特殊武器防護隊」などを置き、治療を目的とした部隊もできるなど人員も倍増した。検出・分析用の機器や除染機材も充実した。

 向上した能力が認められ、化学学校は昨年9月、化学兵器禁止機関(OPCW)の指定研究機関になった。化学兵器使用が疑われるテロや暗殺などで、原因物質を特定する世界でも一握りの機関だ。自衛隊だけでなく、警察など関係省庁でも専門部署や連携の仕組み作りといった体制整備が進んでいる。

 中村さんは、退官後もテロ対策や危機管理に関する講演活動を続けている。対策の充実を評価する一方で「担当者以外の真剣味は薄れているのでは」と危惧も感じている。ドローンの発達などでテロの危険度は増しているとし、「事件から30年を機に改めて目を向けてほしい」と呼び掛けた。 

地下鉄サリン事件で、築地駅の除染作業を終えた元陸上自衛隊化学学校教官の中村勝美さん(中央・当時)(陸自提供)
地下鉄サリン事件で、築地駅の除染作業を終えた元陸上自衛隊化学学校教官の中村勝美さん(中央・当時)(陸自提供)


地下鉄サリン事件で築地駅の車両の除染を行う陸上自衛隊員(陸自提供)
地下鉄サリン事件で築地駅の車両の除染を行う陸上自衛隊員(陸自提供)

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  • 北朝鮮には生物化学兵器が数千トン保有していると考えられている。金正恩の兄 金正男の暗殺も猛毒のVXガスが検出された。日本は次なる化学兵器テロに備えるべき
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