「食べ残しの持ち帰り」は日本でも浸透するか しゃぶ葉やガストで進むユニークな取り組み

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2025年03月24日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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すかいらーくのフードロスに関する取り組みとは?

 すかいらーくホールディングス(HD)が運営するしゃぶしゃぶ店「しゃぶ葉」は、客がきれいに食べ終わった写真を撮るとクーポン券を提供する「こまめどりプロジェクト」を行っている。食材の余りがなく、鍋の中にも食材がなければ券をもらえる仕組みだ。


食べ残しを詰める「もったいないパック」、きれいに食べたことを提示してクーポンをもらう仕組み(計3枚)


 すかいらーくグループ全体でも、2020年から「もったいないパック」の提供を開始している。フードロスは環境面への負荷だけでなく、店舗の負担にもなっているはずだ。同グループの取り組みは、収益面にどのような影響があるのか。施策の狙いや成果を聞いた。


●海外では「ドギーバッグ」を使って持ち帰る


 海外の一部では、飲食店で食べ残した料理を持ち帰る文化が定着している。食中毒になっても店側は責任を負わず「あくまでペット用に持ち帰る」体裁を保つため、英語圏では持ち帰り容器を「ドギーバッグ」と呼んでいるようだ。


 日本ではそもそも食べ残しが良くないことだと認識され、店側も容器を置いていないことが多い。当然、拒否する店もある。


 そんな中、すかいらーくHDでは先述の通り2020年からもったいないパックの提供を開始しており、食べ残した場合の持ち帰りを推奨している。ガストやバーミヤン、ジョナサンなど各店舗に配布し、客はタブレットで容器を注文して自分で詰める仕様だ。ただし、食べ放題メニューや生ものは対象外としている。また、以前は無料だったが2023年に有料化している。


 なぜこのようなサービスを開始したのか。


 「以前から、お子さまが食べきれず残してしまったときや、多く頼み過ぎてしまったケースなどを想定し、持ち帰り用の容器を提供していました。認知度をあらためて高めるべく『もったいないパック』と名付け、2020年9月からデジタルメニューブックで注文できるようにし、推奨動画の配信も始めました」(広報担当者)


 出荷数は1日約3200個、年間で約117万個と意外に多い。以前は持ち帰れるのを知らなかった客も多く、あらためて命名して利用者が増えたとも担当者は話す。


●飲食店のごみは、多いほどコストに


 飲食店が出すごみは「事業系一般廃棄物」であり、家庭ごみの集積所には出せない。料金は自治体によるが、東京23区の場合、1キロ当たりの手数料が46円だ。食品ロスが多ければ多いほど、事業者にとっては負担になる。


 特に厄介なのは廃油などの産業廃棄物であり、処理業者に委託する必要がある。余談だが、ラーメン店で残ったスープを処理するにはグリーストラップで水と油を分離するか、設備がなければ固めて産廃として出す必要がある。ラーメン店がご飯を無料提供するのは、集客の他にスープを減らしたい狙いがあるためとされる。


 これらの事情を踏まえてすかいらーくHDにおける食品ロスや食べ残しの負担について聞いたところ「そこまで大きくはない」と担当者は話す。


 「その日に必要な食材を毎日発注し、翌日配送する仕組みがあるため、店舗に多くの食材在庫が生まれてロスになることはありません。ただ、食べ放題業態では食品ロスの課題があり、削減の取り組みを推進していく考えです」


●写真を撮影し、要件を満たせばクーポンがもらえる


 食べ放題業態の課題を解消するべく、2024年4月からしゃぶ葉で実施しているのが、冒頭のこまめどりプロジェクトだ。


 こまめどりプロジェクトでは、食事終了後に客がテーブルの様子をスマホで撮影。完食した様子を店員に見せると、人数分のドリンクバークーポンをもらえる。皿に肉・野菜などの残りがなく、鍋の中に「箸で取れるもの」がなければ要件を満たす。汁物は残しても良い。


 現状、客数に対するこまめどりプロジェクトの利用率は取得していないものの、前述のドリンクバークーポンの利用率は5%で、一定の利用があるという。店舗でも完食する客が増え、利用者からは「食育に良い」などの意見も出ているようだ。


 こまめどりプロジェクトのような施策は、食品ロスもさることながら消費者にポジティブな印象を与え、宣伝やリピート率向上の効果もありそうだ。サステナビリティやSDGsといった単語が定着している昨今、客の協力も得やすい。単にクーポン券を渡すだけの施策より、イメージアップや宣伝の効果は大きいかもしれない。


●消費者庁・厚労省がガイドラインを発表


 もったいないパックやこまめどりプロジェクトなどの食品ロス対策を始めたきっかけについて、担当者は次のように話す。


 「国連が定めたSDGs目標には『2030年までに世界の食料廃棄を半減する』というものがあり、約3000店舗のファミリーレストランを展開する当社でも食品ロス削減を経営上の重要課題として近年あらためて認識し直しました。2030年までに、2018年比で食品廃棄を半減する目標を立て、その一環としてこうした取り組みを始めています」


 ちなみに2024年12月には消費者庁と厚生労働省が「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン 〜SDGs 目標達成に向けて」を発表した。ガイドラインでは持ち帰りをあくまで消費者の自己責任が前提であるとし、食材の移し替えは発熱や下痢等の体調不良のない大人が行うこと、といった留意事項を定めている。


 ガイドラインを機に、食品ロス関連の施策は、今後レストラン業態で広がっていくのか。各社の動きに注目したい。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



このニュースに関するつぶやき

  • 飲食店が持ち帰りを拒否していた理由は食中毒の責任を飲食店に転嫁する客の存在なんだが
    • イイネ!64
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