
第2次トランプ政権が発足して2カ月が経過し、日本企業は「トランプ関税」の動向に目を凝らしている。トランプ大統領は選挙戦で掲げた保護主義政策を早々に実行に移しつつあり、中国に対する関税引き上げは大きな注目を集めている。しかし、日本企業に対するコンサルティング活動を行う中、企業が注目しているのはそれだけではなく、米中の間で半導体覇権競争が過熱する中で、日本に対する同調圧力がバイデン政権時代以上に強まる兆しが見え、日中経済・貿易関係の悪化が懸念されている。最近筆者が参加した経済団体の会合でも、トランプ関税に対しては耐性を付けるしかないという意見が多く聞かれ、その分、半導体覇権競争の行方を懸念する声が筆者周辺では多い。では、トランプ政権下の半導体覇権競争はどうなっていくのか。
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まず、トランプ政権が半導体覇権を重視する背景を見てみよう。米国は中国の技術的台頭を安全保障上の脅威と捉え、先端技術の輸出規制や国内生産回帰を加速させている。トランプ氏は「Make America Great Again」のスローガンの下、半導体産業を米国の手に取り戻すことを公約に掲げており、その一環として日本や台湾、韓国といった同盟国に協力を求める姿勢を鮮明にしている。しかし、この「協力」は単なるお願いではなく、強い圧力を伴うものだ。例えば、日本が対中輸出を制限しなければ、米国市場へのアクセスに制裁を課す可能性も十分に考えられよう。これは、バイデン政権が築いた同盟国との協調路線とは異なり、より強硬で一方的なアプローチと言える。
日本にとって半導体は世界的強みを持つ分野だ。東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった企業は、半導体製造装置で世界シェアを握り、特に中国市場への依存度が高い。2023年の統計では、日本の対中半導体関連輸出は年間約1兆円規模に上り、中国の半導体産業拡大を支えてきた。しかし、トランプ政権が日本に「対中輸出の歯止め」を迫れば、この収益源が大きく揺らぐ。日本企業が米国の要求に従えば、中国との経済関係が冷え込み、報復として中国側が日本製品の輸入を制限するリスクも浮上する。逆に、トランプ政権の要求に素直に対応しなければ、トランプ関税による米国市場でのコスト増に直面するシナリオも考えられる。まさに板挟みの状況だ。
この影響は数字にも表れている。帝国データバンクの2025年1月調査によると、第2次トランプ政権による日本経済への影響を「マイナス」と見込む企業が43.9%に上り、特に輸出依存度の高い製造業で不安が広がっている。例えば、関税引き上げが実施されれば、原材料費の上昇やサプライチェーンの混乱が予想され、半導体関連企業だけでなく、自動車や電機産業にも波及する。特に、北米市場を頼りにするトヨタやホンダは、メキシコ経由の部品調達に25%関税が課されれば、コスト増と競争力低下に直面するだろう。
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さらに、日中経済・貿易関係の悪化は地政学的な緊張を増幅させる。中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、2024年の貿易総額は約50兆円に達する。半導体を巡る米国の同調圧力が強まれば、中国側は日本への経済的報復を強める可能性があり、例えばレアアースの輸出制限や日本企業の現地事業への規制強化が考えられる。こうした動きは、日本経済全体に暗雲をもたらし、特に中小企業にとっては深刻な問題となろう。
では、日本企業はどう対応すべきか。まず、地政学リスクの分散が急務だ。中国依存を減らし、東南アジアやインドといった新興市場への進出を加速させる戦略が求められる。実際、ベトナムやタイでは既に日本企業の投資が拡大しており、トランプ関税の影響を緩和するバッファーとなり得る。また、米国での現地生産比率を高める動きも有効だ。一部の日本企業の間では既にそういった動きが見られ、こうした行動は関税リスクを回避する一手となるだろう。
結論として、トランプ政権下の半導体覇権競争は、日本企業にとって非常に難しいものとなる。米国の同調圧力に従えば中国との関係が悪化し、従わなければトランプ政権からの圧力強化は避けられない。この二択を迫られる中、日本企業は柔軟かつ戦略的な対応を迫られている。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。
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