限定公開( 15 )
サイゼリヤは2月、グランドメニューを改定した。ポップコーンシュリンプを使ったグラタン、ドリアなど新メニューを追加するとともに、引き続き値上げは行わず「ミラノ風ドリア」は300円、「カルボナーラ」は500円を維持している。低価格路線に対する消費者の評価は高く、SNSではサイゼリヤに対する批判が逆に炎上することも多い。
【画像】さまざまな工夫をしているサイゼリヤのメニュー表(全2枚)
値上げを避ける一方、長期的にはメニューの絞り込みを行ってきた。かつて提供していた「カントッチョ」のような珍しい料理は少なくなり、限られた商品数で効率化を図る様子はファストフードの様相だ。
●終売が惜しまれるメニューも
サイゼリヤは2024年10月にもメニュー改定をしており、四角い小さな「カリッとポテト」の終売が話題となった。この2月の改定ではポップコーンシュリンプを使ったグラタンとドリアを追加したほか、4等分の「プチフォッカ」を1枚の「フォッカチオ」に変更している。小さなフランスパン様の「ミニフィセル」は終売した。
|
|
コロナ禍以降、外食各社が値上げを進める一方でサイゼリヤは値上げせず、低価格路線を継続している。最新の価格改定は2020年7月に行った「99円」などの端数表示終了で、それでも値上げのほとんどはわずか1円だ。
定番のミラノ風ドリアは300円、単品メニューのほとんどは500円以下。サイゼリヤの客単価は800円台であり、外食1000円時代においても安さを維持している。
●値上げラッシュでも「据え置き」を貫けるワケ
同社は頑なに値上げしない方針を貫いている。安さを売りにしているからだろう。サイゼリヤの味はスタンダードで、特段味が特徴的でもない。値上げをすれば、客が離れる可能性は確かにある。
価格を維持しているにもかかわらず、客単価は上昇し、2020年8月期の741円から、2024年8月期には822円へと上昇した。他社が値上げを進める中でサイゼリヤの安さが目立ち、高単価な飲酒客などが流入したことも背景にあると考えられる。「割安感が目立ったことで、追加メニューを注文しやすくなった」と分析する意見もある。
|
|
値上げせずに戦えるのは、徹底的にコスト削減策を進めてきたからだ。2020年に「手書きオーダー」制を導入。客が口頭で注文する方式から、手書きメモを渡す方式へと切り替えた。コロナ禍での感染防止対策という名目だが、店員を呼んでから料理を選ぶ行為を防止し、効率化の目的もあったとされる。
現在はQRコードを使ったスマホ注文方式を始め、2025年8月までの全店導入を進めている。一部店舗では配膳ロボットもみられる。
●「純粋に料理を楽しむ店」ではなくなった?
メニュー改定では新商品の追加もあるため認識しにくいが、長期ではメニューの絞り込みを行ってきた。およそ30年前、1997年のメニューと現在のものと比較すると、差は明らかだ。
サラダメニューは「肉サラダ」や「生ハムサラダ」がなくなって8種類から3種類に減少。4種類あったグラタンは現在、1種類しかない。3種類あったステーキも消滅した。
|
|
スパゲッティやピザなどイタリア料理の数は、全体として大きく変わっていない。しかし、内容面で変化がみられる。
近年提供していた「パンチェッタのピザ」や「アンチョビとルーコラのピザ」は現在無くなっている。パスタの大盛りも2022年12月に終了した。
2023年には秋のメニュー改定に合わせ、通常メニューを141から101品目に大幅削減した。現在のメニューブックでは「よく一緒に注文されているメニュー」欄を追加し、メニューが減ったことで隙間が増えたように見せない工夫がうかがえる。
珍しい商品も、徐々に姿を消している。カントッチョや「真イカのパプリカソース」といった独特のメニューが姿を消しており、飲食業界関係者は次のように話す。
「サイゼリヤは効率化のために特徴的な料理を減らしてきました。以前は低価格目当ての客以外に、イタリアンを楽しむ客層が多かったのですが、現在は減ってしまいました。もはや純粋に料理を楽しむ客層をターゲットにしていないかもしれません」
●国内の苦境が続けば、値上げもやむなしか
サイゼリヤは、ファストフードとレストランの中間に位置する「ファストカジュアル」化を進めているといわれている。ファストカジュアルとは、メニューをファストフードのように絞る一方、昼間だけでなく夜間の客も取り込もうとする業態だ。2000年以降、米国で拡大した。
しかし、メニューを削減するといっても限界がある。同社は2005年以降、パスタなど1ジャンルに絞ったファストカジュアル業態をいくつか開発したが、本格展開に至っていない。仮に現在のサイゼリヤで肉料理を廃止すれば、客離れが進んでしまうだろう。
国内事業の業績も芳しくない。2024年8月期の国内事業は売上高が1465億円、営業利益は27億円と前年の赤字から脱却したが、同793億円・116億円のアジア事業と比較して利益率はかなり低い。削減策が限界となれば、今後は値上げに踏み切る可能性も十分ありそうだ。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。