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<フィギュアスケート:世界選手権>◇28日(日本時間29日)◇第3日◇TDガーデン(米マサチューセッツ州ボストン)◇女子フリー
【米ボストン=松本航、藤塚大輔】ショートプログラム(SP)5位の坂本花織(24=シスメックス)から世界女王の肩書が外れた。
フリー2位の146・95点で、合計217・98点の銀メダル。60年まで5連覇のキャロル・ヘイス(米国)以来、66年ぶりの4連覇に届かず、今季復帰したアリサ・リュウ(米国)が222・97点で初優勝した。
千葉百音(木下アカデミー)が3位、樋口新葉(ノエビア)が6位。日本女子は上位2人の順位合計を「13」以内の「5」とし、26年ミラノ・コルティナ五輪の出場枠最大3を確保した。
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号令などなかった。
約1万8000人収容のTDガーデン。坂本の演技終わりを待ちきれず、満員の観衆が最終盤のスピン中に立ち上がった。
ここは米国。言葉など必要なかった。
「最後まで、これが鳴りやまないでほしい」
拍手がジャンプ全7本の着氷を支えた。SP5位から懸命にはい上がり「自分でもよく頑張った」と思いは伝わった。
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続く出番は樋口だった。
同い年の24歳。前日27日の公式練習後、男子の応援へ向かう道中で笑い合った。
坂本「スケーターって、人の3倍のスピード感やと思う。15歳が人間の45歳。(大学生で引退する)22歳が66歳。私らもうすぐ25歳。もうおばあちゃんやわ」
樋口「よくやってるよ」
一夜明け、樋口からメーク中にLINEが届いた。
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「頑張ろうね。絶対に表彰台にみんなで乗ろうね」
五輪の枠取りが懸かる大舞台。泣きそうになった。そんな友が好演技で続いた。今大会からリンク脇に設けられた暫定1位が座る席で見て、涙腺が崩壊した。
立場は3連覇中の女王。追われる状況が3年間続いた。所属チームでは同い年で、小中高と同じの籠谷歩未が今季限りで引退。世界選手権前に自らサプライズで手渡す寄せ書きを集めた。練習で演目をかけるのは五十音順。自身の「さ」前の「か」がいなくなったのが、寂しかった。仲間に寄り添い、泣き、悩みを相談し、今のキャリアがある。
だから、ライバルの偉業を心から喜べた。最終滑走。自身を上回ったリュウと涙を流しながら抱き合った。
「競技から離れて復活して、こうやって世界チャンピオンになれたのは、本当にすごいことです。相当、努力をしたんだろうなと思います。彼女を尊敬しています。感動して、うれしくて、本当に『おめでとう』という気持ちだったんですが『おめでとう』と言った瞬間、悔しくなっちゃった。どの涙か、分からなくなっちゃいました」
世界女王の肩書が移った瞬間だった。「だいぶ荷が重かった」と本音も出た。
来季は3度目の五輪イヤー。中野園子コーチは「神様が『もうちょっと頑張れ』と言っている。本当に頑張らなきゃいけないために、ここが2番である必要があったのだと思います」と涙の意味を見いだした。24歳の元世界女王は、未来を努力で変えられると知る。
「追いかける立場。この悔しさは、きっと必要な経験なんだろうと思います」
坂本だけの魅力は、2位で色あせない。【松本航】
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