
「またお父さんか、と正直思ってしまいました」
現役保育士がそう嘆いたのは、福岡で起きた転落事故だ。
福岡市博多区のホテルで3月15日未明、4歳の男児が父親の不在中に転落死した。福岡県警博多署によれば、父親が男児を寝かしつけて買い物に出た後で部屋に戻ると男児の姿がなく、ホテル前の路上で倒れているのを見つけるという痛ましい事故だった。
その後の調べで男児は宿泊していた3階の部屋を出て1人でエレベーターに乗り、10階の非常用扉まで移動。屋外に出たところで誤って転落したことが捜査関係者への取材でわかった。
「子どもの行動力を軽くみてはいけない」
「深夜でぐっすり眠っているということで安心してお父さまも外出したのでしょうが、パニックになったときの子どもの行動力を軽くみてはいけない」(同・保育士、以下同)
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このようなケースはたびたび起きている。2022年には千葉市のタワーマンション25階のベランダから2歳男児が転落死する事故が起きた。同年、東京・江戸川区の都営住宅12階のベランダからも4歳男児が転落死。消費者庁によると、マンションなどのベランダから転落して死亡する事故は1〜4歳が全体の6割を占め、東京消防庁の管内では2017年から2021年までの5年間に5歳以下の子ども62人が住宅などの窓やベランダからの転落により、医療機関に救急搬送されたという。
「ほとんどの事故が、父親がみていたり祖父母が子どもを預かっている間に起きているんです。悪気はなく『少しの時間なら1人にしても大丈夫だろう』という思い込みから発生しているんですね。認識を改めていただかないと」
この保育士がこれまで見てきたケースを挙げる。
「0歳のときからお預かりしている、当時4歳のA君という子がいました。その日はお父さまが面倒をみるので保育園には来ない予定でしたが、気がつくとお昼寝の時間にA君がいたんです。驚いてお母さまに電話すると、お父さまの運転する車からA君がいなくなり、警察の捜索が行われるところだというんです。
実際は、寝ているA君を車に残してお父さんがコンビニに立ち寄った間に、目を覚ましたA君が知らない場所にパニックになってシートベルトを自分で外し、ドアを開けて車を降り、お父さまを捜し回っているうちに保育園にたどり着いたんです。誰かが誘拐したわけでもないし、連れてこられたわけでもない。
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自宅の近所にあるそのコンビニから保育園までは2キロほど。小さい子どもが一人で歩けるわけがない、と親御さんは言っていましたが園の防犯カメラには施錠された門の隙間から中に入ってくるA君の姿が映っていました。子どもはパニックになったときに親も想像できない行動力を発揮するものなんです」
続けて、
「保育園でお昼寝している園児は目を覚ますと、まず周囲が知っている場所かどうか確認します。そのとき親がいないと泣きだす園児もいます。寝起きは不安な気持ちになりやすく、見知った場所ではなく保護者もいないとパニックに陥る。ですから『幼児だから何もできない』などと思わず、1人にしないことが大切です。
A君は無事だったからよかったものの、その一件から夫婦関係に亀裂が入ったようで、その後離婚されています。幼い孫を預かっている間に不慮の事故で亡くしてしまった祖母が、責任感から自死されたという痛ましい出来事もあったといいます」
一瞬の油断が一生を左右することを、肝に銘じたい。
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