日本のスタバは、なぜ「絶好調」なのか 米国本社が不調なのに、成長を続けられているワケ

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2025年03月31日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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国内外のスタバは、何が違うのか

 国内でスターバックスの好調が伝えられる一方、世界では苦戦しています。2024年には米国本社のCEO交代もあり、どこに行っても混雑している国内とは反対に、経営の立て直し中なのです。


【画像】貴重すぎる米国のスターバックス1号店


 世界では苦戦しているのに、日本のスターバックスだけなぜ好調なのでしょうか。筆者は一消費者として世界中のスターバックスを利用しており、その違いは、ミッションに対してどこまで忠実なのかに尽きると考えています。


 流通小売り・サービス業のコンサルティングを約30年続けてきているムガマエ代表の岩崎剛幸が、マーケティングの視点から分析していきます。


●米国スタバでは「リストラ」「メニュー減」も


 この2月、米国のスターバックスが1100人の人員削減を発表したというニュースがありました。対象者は本社や管理部門を中心とするサポートパートナー職。また、数百件の採用を予定していたポジションも採用停止にするといいます。さらに、北米リーダーシップチームの体制を見直すだけでなく、ヴァイスプレジデントレベル以上の役職者に対して、週3日の出社義務を課すといった組織運営形態の見直しも始めています。


 同じく米国のスターバックスでは、3月4日から「フラペチーノ」の一部や「ロイヤルイングリッシュブレックファストラテ」など、売れ行きが悪いものや作るのが難しいドリンクをメニューから外し、簡素化を図ると発表しました。


 メニューの削減により、顧客の待ち時間を減らして短時間で商品を提供することを目指しているそうです。米国ではこのように、人と商品のリストラでなんとか業績回復しようと必死です。


 なぜこのような状況に陥っているのでしょうか。まずはスターバックス全社の業績を見てみます。


 全世界におけるスターバックス売り上げは、2024年9月期で日本円換算(1ドル=150円)すると5兆4264億円。前年度比で100.6%です。前年水準をギリギリでクリアしたことが分かります。原価は減少したものの販管費は伸びており、結果的に営業利益は前年度比で8%弱の減少、純利益も8.8%減です。


 スターバックスは営業利益率が15%程度ある優良企業ですので「落ちている」といっても高い収益体質を維持しています。しかし、これまでの傾向とは明らかに異なる経営実態になり始めています。


●日本のスタバは生産性が高い


 不調の大きな原因は、売り上げの7割以上を占める北米エリアの伸び悩みです。ここに中国の消費減退による不振が加わり、全社レベルの低迷となりました。


 一方、日本国内は絶好調です。


 直近の売上高は、2023年比で111.1%、2019年比で159.9%です。営業利益も2023年比で115.4%、純利益は122.5%と2ケタの増収増益です。店舗数と売上高を比較すると、実態がより明確になります。


 スターバックスの国内店舗数は2023年比で105.4%ですが、売上高は111.1%の成長です。店舗数と比べて売り上げの伸びが高く、1店舗当たりの売り上げが伸びていることを意味します。さらに、1店舗当たりの売上高は1億6200万円。2023年比で105.4%です。


 スターバックスは日本のあちこちにできているので、店舗数を増やして売り上げを伸ばしている印象がありますが、実は店舗数以上に1店舗当たりの売り上げを伸ばし、成長しているのです。このような店舗の生産性が、国内の好調を支えています。


 では、世界に広がる店舗網のうち、日本のスターバックスはどの程度の規模なのでしょうか。数字でいうと、全世界にある店舗のうち、国内店舗が4.9%を占めます。


 これを売り上げと店舗数構成比で見ると、さらに実態が分かります。


 日本のスターバックスは店舗数構成比では4.9%ですが、売上構成比では5.9%となっています。売り上げ貢献度は高いのですが、家賃などが高いためか、利益貢献度が低いのは課題といえるでしょう。


 いずれにせよ、日本のスターバックスは店舗売り上げが高くなる工夫をしているということです。それはどのような取り組みなのでしょうか。


 筆者は、国内のスターバックスが好調の理由は次の3つにあると考えています。


ポイント1 日本独自の新商品開発力


 日本のスタバといえば、季節限定の商品開発や地域ごとの「ご当地メニュー」開発などが有名です。日本人の好みに合わせた新商品を次々と提供する商品開発力が優れているのです。


 例えば、2025年春の限定商品として「春空 ミルクコーヒー フラペチーノ」 を販売しています。フラペチーノに入っているいちごのボールを割り、味変を楽しめる新商品です。700円超で決して安くはありませんが、各店で人気商品になっているようです。


 このようなきめ細かい商品開発を、季節ごとに投入するのが国内スターバックスの特徴です。フラペチーノ季節限定シリーズは月に1〜2回のペースで発売してSNS上の話題を作り、確実に売り上げにつなげています。


 2020年から始めた日本独自のティー専門店「スターバックス ティー & カフェ」も人気です。コーヒーも紅茶も楽しめる「二刀流」のコンセプトで、すでに15店舗(2月時点)まで増えています。


 各国に広がるスターバックスですが、米国本社の管理下にあるのはミッションなどのブランド方針、コーヒー豆の生産、使用するコーヒーマシンのみです。フラペチーノなど新商品の開発や接客、店づくりはすべて日本法人に任されています。こうした裁量の大きさが、独自の商品開発力やリピーターを生む原動力となっています。


ポイント2 立地、客層に合わせた店舗開発力


 日本のスターバックスは、立地に合わせた店舗が全国にいくつもあります。中でも富山県にある「世界一美しいスタバ(富山環水公園店)」は訪日外国人の間で有名です。渋谷のスクランブル交差点に面したSHIBUYA TSUTAYA 2F店も、窓からスクランブル交差点が見下ろせるというクチコミが広がり、訪日外国人が集まるメッカとなっています。


 変わったところでは、以前の記事で紹介した越谷イオンレイクタウン mori 3階店、通称「子連れスタバ」があります。子連れでも利用しやすいソファ席を多用しているほか、子ども向けメニューを用意し、テーブルも低くしています。客導線は広く、ベビーカーでも利用しやすい店内にするなど工夫をした店舗です。


 日本のスタバは社内に店舗設計部門を持ち、一級建築士の資格を持つメンバーも複数います。これが立地や客層に合わせた最適な店舗開発を可能にしています。


ポイント3 デジタル対応強化によるCX戦略


 日本のスタバが近年力を入れているのが、デジタル化です。顧客体験価値(Customer Experience=CX)を高め、より利用しやすいサービス開発を進めています。その一環として、2016年に公式モバイルアプリを導入し、2020年には「モバイルオーダー&ペイ」を全店舗で導入しています。


 モバイルオーダー&ペイは、2019年6月に都内56店舗でスタートしましたが、コロナ禍を契機に全店舗へ導入し、今では同社の定番サービスとして定着しています。全国どの店舗でも、店頭で待つことなく商品をテークアウトできる点が評価されています。


 同社のアプリでは購入金額に応じてポイントがたまり、ドリンクやフードと交換できる「スターバックス リワード」というプログラムがあり、固定客化を図っています。2024年5月からは、会員登録しなくてもモバイルオーダーを利用できるサービス「App Clip」という新サービスも導入し、新規客開拓につなげています。


 こうしたデジタル化を大胆に進められたのは、2015年にTOBによって米スターバックスの完全子会社化となり、上場廃止したことが影響しています。米国本社の子会社になったのが、日本のスターバックスがより自由に成長できるきっかけになりました。


●「ミッション経営」に何より忠実なのが日本だ


 ここまで3つの戦略に触れましたが、国内スターバックスの店舗力向上を支える一番の要素は、ミッション経営の徹底にあります。


 米スターバックスは「中興の祖」と呼ばれる元CEOハワード・シュルツ氏が経営者となって以降、ミッション経営を実践してきました。日本のスターバックスも、その姿勢を忠実に守り、むしろ米国本社以上に徹底しているからこそ、成長していると筆者は考えています。


 スターバックスのミッションは「この一杯から広がる、心かよわせる瞬間、それぞれのコミュニティとともに― 人と人とのつながりが生みだす無限の可能性を信じ、育みます」というもの。1990年の策定以降、表現は異なるものの同じようなニュアンスのミッションを現場に伝え続けています。


 筆者がシアトル本社に行った際も、幹部社員はまずミッションを語ってくれました。このミッションがスターバックスでは商品開発、店舗開発、サービス開発などの軸になっています。


 日本のスターバックスでも、従業員に対して徹底的に教育しています。コーヒー豆やブランド教育に約40時間をかけているというのだから驚きです。もちろん姿勢だけでなく、現場で実行に移し、商品や店舗に生かすところまでこだわっているのが、国内スターバックス好調の一番の理由だと考えています。


 筆者は米国はもちろん、欧州やアジア各国に行っても、必ずスタバを利用します。その中で、多彩なメニューかつ最大限のサービスで、かつスピーディーに対応してくれるのは日本が一番だと感じます。日本のスターバックスこそが、ミッションにある「コミュニティ」なのではないかと感じています。


 スターバックス全社は、2025年度第1四半期決算で売り上げがほぼ横ばいでしたが、営業利益率の低下や既存店売上高の減少などがあり、特に北米では店舗力や商品力の課題があらためて問題視されています。


 反対に好調な国内スターバックスの店舗数は今や2000店に達し、2026年には創業30年を迎えます。日本の成功モデルを、今後世界中のスターバックスに注入できるかどうかが、同社の目指すミッション経営を徹底する一番の近道なのではないかと思います。


 今後、世界のスタバがどのような戦略をとっていくのか、注目しましょう。


(岩崎 剛幸)



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