
「小さくなっても頭脳は同じ、迷宮なしの名探偵 真実はいつもひとつ!」
人気アニメ『名探偵コナン』劇場版でおなじみの台詞です。高校生探偵の工藤新一が黒ずくめの組織によって幼児化され、江戸川コナンを名乗って難事件の数々を解決していくミステリーシリーズです。
1996年に日本テレビ系で始まったTVアニメシリーズが高視聴となり、1997年からはGW期に東宝系で劇場アニメ版が公開されるのが恒例となっています。最新作『名探偵コナン 隻眼の残像』の公開を4月18日(金)に控え、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では「コナン祭り」と称して、3週連続で劇場版がオンエアされます。4月4日(金)はシリーズ第2弾『名探偵コナン 14番目の標的』(1998年)が放映されます。
ここ数年は興収100億円を突破するモンスター級の人気を誇っている劇場版『名探偵コナン』ですが、「国民的アニメ」と呼ばれることには抵抗を感じる人もいるのではないでしょうか。「コナンといえば、宮崎駿監督の『未来少年コナン』だね」という捻くれた人たち向けに『名探偵コナン』が近年メガヒットするようになった要因と、人気に比例して膨らんでいる矛盾点に触れてみたいと思います。
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乱歩賞作家も参加した本格的ミステリー
原作漫画が「週刊少年サンデー」(小学館)での連載が始まったのは1994年です。1992年に「週刊少年マガジン」(講談社)で始まった『金田一少年の事件簿』が猟奇的な殺人事件を扱うことが多かったのに対し、『名探偵コナン』は謎解きの明快さが売りでした。見た目は小学生の江戸川コナンがトリックを解く鮮やかさから、若年層を中心に幅広く人気が広がっていきました。
劇場アニメ版でも、ミステリーとしての面白さが主体となっていました。シリーズ第6弾『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』(2002年)ではコナンたちは仮想体験ゲーム機を使って、御本家『シャーロック・ホームズ』が活躍した19世紀末のロンドンへ。実在した連続殺人鬼・切り裂きジャックと対決することになります。本格ミステリーとアニメ作品ならではのフレキシブルさを融合させた快作でした。
脚本を手掛けたのは、江戸川乱歩賞受賞作家でもある人気シナリオライターの野沢尚氏。小学生だった2人のお子さんが『名探偵コナン』のファンだったことから、野沢氏から逆オファーして実現した企画でした。野沢氏が2004年に自死を遂げたため、『名探偵コナン』への参加は『ベイカー街の亡霊』だけで終わったことが実に惜しまれます。
シリーズ初期作品である『名探偵コナン 14番目の標的』も、かなり本格的なミステリー作品です。江戸川コナンが居候している私立探偵の毛利小五郎の周辺で、ボウガンなどを使った襲撃事件が連続して起きます。被害者の名前はみんな、トランプのカードに関係しています。はたして犯人は誰か? アガサ・クリスティやエラリー・クイーンといった海外のミステリー作家へのオマージュを感じさせる内容です。
ミステリー要素を薄くしたことで、逆にメガヒット
そうしたミステリー要素で人気だった『名探偵コナン』ですが、シリーズが続くにつれて内容が変わっていきます。大転機となったのは劇場版第20弾となった『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016年)でしょう。
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黒ずくめの組織が絡む大掛かりなパニックサスペンス大作となった上に、公安警察の安室透が初登場し、FBIの赤井秀一との対決が評判となり、興収63億円の大ヒット作となったのです。SFアニメ『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイと「赤い彗星」シャア・アズナブルを模した安室と赤井を「推しキャラ」にする、若い女性ファンが急増したそうです。
安室が所属する公安警察を前面に押し出した第22作『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018年)はさらに興収を伸ばし、91億円のメガヒットを記録しています。それまでの謎解き中心の展開から、イケメンキャラクターたちの活躍を売りにしたアクションエンターテイメントに舵を切り替えたのです。
長年にわたる人気シリーズなので、変化するのは仕方ありません。でも、本来は主題だったミステリー要素を薄味にして、メガヒット狙いになったことに対して不満を感じている旧来のファンは少なからずいるようです。
バブル以降の日本人像と重なる工藤新一
振り返ってみれば、主人公の工藤新一はバブル経済が崩壊した直後の1994年から日本で起きた凶悪犯罪の数々を間近で見てきたわけです。工藤新一こと江戸川コナンは目先の事件の解決に追われ、黒ずくめの組織の核心にはなかなか迫ることができずにいます。工藤新一の帰還を待ち侘びているガールフレンドの毛利蘭との関係性も、そのままの状態です。一時的にコナンから新一に戻るエピソードもありましたが、待たされ続けるヒロインの心境はいかほどでしょうか。
現状の生活に満足し、子どものふりをした工藤新一は根本的かつ面倒な問題はすべて先送りにしているようにも思えてしまうのです。コナンのままでいれば、大好きな推理にだけ没頭することができるからです。工藤新一を「現代のピーターパン」のように感じてしまうのは自分だけでしょうか。
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江戸川コナンが、いつ工藤新一に戻るのか気になるところです。工藤新一も、『名探偵コナン』で育ったファンも、そしてバブル経済でつまずいてしまった日本社会も、そろそろモラトリアムを終える時期が近づいているのではないでしょうか。
文=映画ゾンビ・バブ