
大ヒットとなったガンダム最新作「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」は、ファーストガンダム=最初の「機動戦士ガンダム」の「仮想戦記」、つまり「もしもこうだったら…」=「IF世界」を描く物語です。しかし、IF世界を描いたのはジークアクスが最初ではないことをご存じでしょうか?
今回は、ファーストガンダムの「IF世界」を描く、小説やコミカライズ版の作品を紹介します。
●コミックで楽しむガンダムの「IF世界」
ファーストガンダムから連なる「宇宙世紀」と呼ばれる世界観を共有するガンダム作品には「公式設定」とされるものがあります。版権を持つサンライズの立場は「映像での表現を優先する」というものですが、ファーストガンダムのストーリーと流れが全く違うものは「公式」ではあっても、一筋の流れととらえることはできません。「IF」の作品でありながらも「公式」であるところが、ジークアクスの大きな魅力と言えるでしょう。
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そんなジークアクスの登場以前に「IF世界」を描いたものは、小説やコミカライズ作品では少なからず存在しています。中でも最も注目すべきは、富野由悠季監督が執筆した小説版「機動戦士ガンダム」でしょう。放映当時に執筆されたものですから、ガンダムにおける「IF」の元祖と言ってもいいかもしれません。
ファーストガンダムのキャラクターデザインなどを手がけた安彦良和氏による「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」も、TV版・映画版とは異なる展開がありますので、富野監督の小説版と並ぶ「IF」ファーストガンダムの二大巨頭と言ってもいいでしょう。
一方、紙媒体で本来のファーストガンダムのストーリーを楽しむ手段は少ないと言えます。過去には映像を元に漫画へと再編成した「フィルムコミック」や「ストーリーブック」、また原作に即した小説版も刊行されていましたが、現在は新刊では入手できません。アフレコ台本に関しても、テレビ版を収録した「台本記録集」、映画版を収録したケイブンシャの「映画版 機動戦士ガンダム大百科」などは入手困難となっています。とは言っても、それらはVHSのビデオデッキですら高級だった時代の物でもありますし、ファーストガンダムの正史は、現在は素直に映像で楽しむのが良いでしょう。
●小説版 機動戦士ガンダム:シャリア・ブルも大活躍! 歴史ある「IF」
小説版の「機動戦士ガンダム」は、初版が1979年に「朝日ソノラマ文庫」で発売され、1987年に角川書店に版元が変更、現在は「角川スニーカー文庫」で全3巻が発売されています。多くの部分でTV版・映画版と異なっており、同じキャラクターが登場するものの、全く別の話と言ってもよいでしょう。
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小説版では、アムロは最初から職業軍人で、セイラ・マスとの関係がより深いものとなっています。ジークアクスでは大活躍するも、映画版では登場せず、TV版でもたった1話しか登場しないシャリア・ブルは、この小説では重要な役割を担っています。また、クスコ・アルというジオンのニュータイプの女性も登場します。
メカも多くの部分で異なっており、スポンサーの意向で次々とテレビアニメに登場したとされるジオンのモビルスーツは、種類がかなり絞られています。一方、シャア専用リックドムや、アムロが乗るG-3ガンダムといった、小説独自のモビルスーツの登場はうれしいポイントです。
なお、小説版の「機動戦士Ζガンダム」へつながる話ではないので、もし小説版Ζを読むのであれば、おぼえておくとよいでしょう。
●機動戦士ガンダム THE ORIGIN:アニメ化もされた「元の絵」で読めるガンダム
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」は、ファーストガンダムでキャラクターデザインや作画監督などを務めた安彦良和氏による漫画です。「元の絵」で楽しめるファーストガンダムの漫画と言ってもよいでしょう。ガンダム専門漫画雑誌「ガンダムエース」創刊号(2001年6月発売)より2011年8月号(2011年6月発売)にかけて連載され、通常版・全24巻と愛蔵版・全12巻が発売されています。また、電子書籍限定でフルカラー版のコミックスも発売されています
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サンライズ公式設定や宇宙世紀の正史と異なった独自の設定などを盛り込んだ作品で、一種のパラレルワールドを描いた作品との位置づけで、「正史」とは異なる部分が多くあります。
一方、シャアの生い立ちや、ジオン・ダイクンの政治活動や暗殺、ジオンのモビルスーツ開発の経緯、ルウム戦役など、ファーストガンダムでは言葉や回想でしか語られなかった部分が、安彦氏が描く漫画で楽しめるというのはファーストガンダムファンにとっては、涙が出るほどうれしいものとなっています。
ファーストガンダムのアニメが描いた「一年戦争」以前の物語の一部はアニメ化されていますので、コミックスと併せて楽しむのも良いでしょう。
●機動戦士ガンダム0079:ミリタリー調のMSが渋いコミカライズ
アニメのファーストガンダムに比較的忠実な作品としては、ガンダムコミックの第一人者ともいえる近藤和久氏による「機動戦士ガンダム0079」があります。1992年にバンダイより出版されたコミック誌「サイバーコミックス」にて連載が開始されたもので、全12巻を電子書籍などで読むことができます。
近藤氏は戦争劇画のような画風で、老舗模型誌のホビージャパンに連載されていた小林源文氏の「黒騎士物語」などを思い出させる、ミリタリー色の強い漫画となっています。
「0079」の魅力は何と言っても、モビルスーツをはじめとするメカ。近藤氏ならではの独自解釈を加えたデザインは、特にガンプラを作り込むような層にはハマるのではないでしょうか。一方、ストーリーは基本的に正史に準じていますので、「メカがIF」なコミカライズ作品ともいえると思います。
近藤氏は他にも「MS戦記」「ジオンの再興」といったオリジナルのガンダム漫画のほか、Ζガンダムのコミカライズも手掛けています。また、Ζにおいてはメカニカルデザイナーとしても参加しています。
●機動戦士ガンダム サンダーボルト:ガンプラでも大人気のパラレルワールドガンダム
今回紹介している中で唯一、現在も連載が続いているのが、「MOONLIGHT MILE」などで知られる漫画家、太田垣康男氏による「機動戦士ガンダム サンダーボルト」です。青年漫画誌である「ビッグコミックスペリオール」の2012年4月13日号から連載開始され、既刊25巻が発売されています。
アムロやシャアといったファーストガンダムのメインキャラクターは登場しませんが、宇宙世紀におけるジオンと連邦の戦いを描いた物語で、大まかな世界観として宇宙世紀を踏襲しているものの、独自のストーリーで構成されるパラレルワールドを描いた作品と言えます。
独自解釈を加えて描きあげられたモビルスーツも非常に魅力的で、フルアーマーガンダムやパーフェクト・ジオングといったMSVなどでおなじみの機体も登場。ガンプラは専用のカテゴリ「HGTB」で展開され、人気を集めています。
一部はアニメ化もされており、第1シーズン全4話と第2シーズン全4話を、DVDやブルーレイ、動画配信サービスなどで視聴できます。