トランプ相互関税がASEANを直撃 カンボジア49%、ラオス48%、ベトナム46% 中国による対米迂回輸出の遮断が狙いか

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2025年04月08日 19:10  まいどなニュース

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トランプ氏/americanspirit(c)123RF.COM

2025年4月、アメリカのトランプ大統領が発表した相互関税政策は、世界貿易に大きな波紋を投じている。特に東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々は、カンボジア49%、ラオス48%、ベトナム46%、ミャンマー44%、タイ36%などのように非常に高い関税が掛けられた。これらの税率は、従来の自由貿易の枠組みを覆すものであり、その背景や狙いには中国製品の米国市場への流入を阻止する戦略が深く関わっている。

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トランプ政権がASEAN諸国に高関税を課す背景には、米中貿易戦争の進展とそれに伴うグローバルサプライチェーンの変容がある。

2018年から始まったトランプ第1期政権の対中関税政策は、中国からの直接輸出に最大25%の追加関税を課し、多くの企業が生産拠点を中国からASEAN諸国に移転させた。ベトナムやカンボジアは、低廉な労働力と地理的な近接性を活かし、いわゆる「チャイナ・プラス・ワン」戦略の主要な受益者となった。米国商務省のデータによれば、2019年から2023年にかけて、ベトナムの対米輸出は約80%増加し、カンボジアも同様に急成長を見せた。

迂回路になったASEAN諸国

だが、この移転は単なる生産拠点の移動に留まらず、中国製品がASEAN経由で米国に流入する迂回路としての役割を果たすようになった。

例えば、中国で製造された中間財がASEAN諸国で軽微な加工を施され、「原産地」としてASEAN諸国から米国へ輸出されるケースが増加した。米税関・国境保護局(CBP)は、2023年にこうした「原産地偽装」を摘発する事例を報告しており、特にベトナムやカンボジアからの輸入品に中国製部品が含まれる割合が高いと指摘している。この迂回路の存在は、トランプ政権が目指した対中関税の効果を弱め、米国の貿易赤字削減という目標を達成困難にしていた。

さらに、ASEAN諸国の対米貿易黒字が拡大したことも、高関税の背景として見逃せない。2024年の米国貿易統計では、ベトナムの対米貿易黒字が約500億ドルに達し、タイやカンボジアも同様に黒字を拡大させている。トランプ政権は、これを不公正な貿易慣行とみなし、相互関税を通じて是正を図る姿勢を示した。特に、カンボジアやラオスといった経済規模の小さい国々が突出した税率を課されたのは、こうした迂回路としての利用が顕著であったためと考えられる。

トランプ相互関税の主要な狙いは、中国製品の米国流入を阻止するための迂回路封鎖にある。政権は、ASEAN諸国を経由した迂回輸出が、中国に対する関税政策の実効性を損なうと認識している。ホワイトハウスの発表によれば、今回の関税率は「相手国の関税率や非関税障壁を反映した相互性」を基に設定されており、ASEAN諸国への高関税は、中国との経済的結びつきの強さを反映したものと言えるだろう。例えば、ベトナムやカンボジアは、中国からの輸入に依存するサプライチェーンを構築しており、これが迂回輸出を助長しているとみなされている。

製造業の国内回帰どこまで?

この政策は、単に中国への圧力強化に留まらず、米国経済の保護と製造業の国内回帰を促す意図も含む。トランプ大統領は演説で、「米国の産業を再生し、勤勉な米国民に繁栄をもたらす」と強調した。ASEAN諸国への高関税は、企業に対し、迂回路としてのASEAN依存を見直させ、米国への生産回帰や代替拠点の模索を迫るメッセージでもある。しかし、現実には、米国への製造業回帰はコストやインフラの観点から短期的には難しいだろう

また、高関税はASEAN諸国に対する抑止力としての役割も担う。カンボジア49%、ベトナム46%といった税率は、これらの国々が迂回路として利用されることを経済的に割に合わないものとし、米国への輸出依存からの脱却を促す。タイ(36%)のように比較的低い税率が設定された国もあるが、これは産業構造の多様性や米国との交渉余地が考慮された結果と推測される。

米国消費者に負担増の恐れ

そして、この高関税政策は、ASEAN諸国と米国双方に深刻な影響を及ぼすだろう。ASEAN側では、対米輸出の減少による経済成長の鈍化が懸念される。特にベトナムやカンボジアは輸出依存度が高く、関税によるコスト増は企業収益を圧迫する。一方、米国では輸入品価格の上昇がインフレを加速させ、消費者の負担増につながる可能性がある。自動車への25%追加関税と合わせた場合、米国のGDP成長率が0.2〜0.5%押し下げられるとの試算もある。

結論として、トランプ相互関税におけるASEAN諸国への高関税は、中国製品の米国流入を阻止するための迂回路封鎖を主眼としつつ、米国経済の保護と貿易赤字削減を目指した戦略である。カンボジア、ベトナム、ラオスといった国々が突出した税率を課された背景には、チャイナ・プラス・ワン戦略の恩恵を受けつつ迂回輸出を助長した経緯がある。しかし、この政策がグローバル経済に与える影響は複雑であり、意図した成果を上げるにはさらなる調整が必要である。ASEAN諸国と米国の関係は、今後新たな均衡点を探る局面を迎えるだろう。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

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  • 思いつきでこれだけ矢継ぎ早に関税政策打てるわけがない。対中政策を考える上でよほど以前から準備していたんだろうな。
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