
大人になって仕事や育児に追われる毎日では、「忘れ物が多い」「集中力が続かない」といった日常の些細なミスは、つい見過ごしてしまいがちです。単なる不注意だと思っていたことが、医療機関での診断を通じて、実は発達障害などの特性によるものだったとわかるケースもあるようです。
【漫画】「家族から放置されて発達障害に気づかないまま大人になりました」全編を読む
コミックエッセイ『家族から放置されて発達障害に気づかないまま大人になりました』(原作:ネコゼ、作画:モンズースー)は文字通り、原作者のネコゼさんが大人になって発達障害が発覚した時の様子が描かれた一冊。以前X(旧Twitter)に同作の一部が投稿されると、多くの人の関心を集めて約8000もの「いいね」が寄せられていました。ちなみに、同作はネコゼさんが小説投稿サイト「魔法のiらんど」で公開した『重度強迫性障害とADHDですが、なんとか生きてます』を原作とした作品です。
子どもの頃から「手を洗うことがやめられない」「大人の男性がすれ違うだけで怖い」といった強迫観念による不安に悩まされてきたネコゼさん。
その後、「強迫性障害」と診断されて治療を受けることに。治療を続けてしばらく経ったある日、担当のA先生が別の病院へ移動することになりました。
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ネコゼさんは、頼りにしていた先生がいなくなることに大きな不安を抱えたものの、パートナーである夫の「転院するのもいいんじゃない?」というひと言がネコゼさんの背中を押し、以前セカンドオピニオンでお世話になったメンタルクリニックに行くことを決断します。
後日、メンタルクリニックに行くと、当時の担当医であるB先生はネコゼさんのことを覚えており、快く診断を始めます。そして、ネコゼさんが自身の症状について書いた紙をB先生が目を通すと、表情を一変させて「発達障害って言われたことない?」と尋ねるのでした。
その後、B先生の判断によって知能検査などが実施された結果、ネコゼさんは「混合型のADHD」と診断されます。さらに「今まで治療を続けてきた強迫性障害は発達障害の二次障害という可能性があります」とも告げられるネコゼさん。
B先生はネコゼさんの家庭環境に目を向けた際、家族からネグレクトや精神的虐待を受けていたことに気づきます。そして、それらが原因で発達障害や強迫性障害の症状に気づかれなかったと、ネコゼさんに伝えるのでした。
同作はADHDの解説に加え、ネコゼさんが幼少期から経験した家庭での辛い出来事なども描かれ、SNS上には「ADHDについて知らなかったことが分かって勉強になった」「B先生が気づいてくれて本当に良かったと思った」などの感想が。そこで原作者であるネコゼさんに、同作について話を聞きました。
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―同作の原作小説を描き始めたきっかけをお教えください。
大人になってからADHDの混合型と診断され、同時にアスペルガー症候群のグレーゾーンも判明して、さらにネグレクトや兄弟姉妹間の精神的虐待を受けて育ったことを知ってから、過去を振り返ることが多くなりました。
もともと小説など物語を書くことが好きなので、自分が今までどのように生きてきたのか、備忘録を残すような感覚で執筆を始めたことがきっかけです。
―原作小説をもとにした同作が誕生したきっかけも教えてください。
執筆を始めてから徐々に「今までの生きづらさの原因の多くに発達障害が絡んでいる」ということに気がつきました。そして「もしかしたら同じような経験をして、生きづらさを感じている人がいるかもしれない」と思ったことが大きなきっかけとなりました。誰かの目に留まってもらえたらと、コンテストに作品を応募したところ、ありがたいことに特別賞の受賞や書籍化のお話をいただき、本格的に執筆を始めました。
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―原作小説を漫画化するにあたって特に気をつけたことや意識したことはあるでしょうか?
原作小説を書くにあたって病気・障害・虐待などセンシティブな事柄を取り上げていることから、これらについて「あくまで私個人の経験である」ということを強く意識しました。さらに、作品を通して伝えたいことに行き違いがないよう、打ち合わせで解釈に齟齬がないかを確認し、ネームを拝見させていただいて、表現や内容に誤解がないよう入念にチェックさせていただきました。
―読者にメッセージをお願いいたします。
生きづらさを感じて人知れず悩んでいる方の中には、私と似た経験をされた方も多いかと思います。心に受けた傷はそう簡単に癒えませんが、ほんの少し勇気を出して「よかったこと」や「楽しかったこと」を意識してみてください。そして、自然と自分を大事に思ってくれている人や、趣味などの好きなことに目を向けて、たくさん頑張ってきた自分を大事にして欲しいと切に願っています。
(海川 まこと/漫画収集家)