トランプ米大統領(左)とベセント財務長官(中央)、ラトニック商務長官=9日、米ワシントン(AFP時事) 【ワシントン時事】トランプ米大統領が打ち出した相互関税の上乗せ分は、発動からわずか13時間余りで90日間の停止に追い込まれた。背景には、相互関税発表から始まった金融市場の動揺がある。米メディアによると、関税政策では穏健派とされるベセント財務長官がトランプ氏に直談判し、各国との取引に集中するよう説得。軌道修正を主導し、存在感を示した。
「少し恐れているようだ」。9日、ホワイトハウスで記者団の前に現れたトランプ氏はこう語り、相互関税の一部停止について、金融市場の混乱に配慮したことを示唆した。
米政権が2日夕に相互関税を発表すると、景気悪化懸念が強まり、米株価が急落。代表的指標のダウ工業株30種平均は、8日までの4営業日で4500ドル超下落し、世界同時株安を招いた。通常、株価下落局面では安全資産とされる債券は買われ、金利は低下する。しかし、今回は関税がインフレ激化や財政悪化をもたらすとの懸念を背景に債券も売られ、金利が急上昇した。
市場関係者によると、債券、株、ドルが同時に売られる「米国売りリスクと呼ばれる厄介なシナリオ」(オランダ金融大手ING)が意識され、「海外勢だけでなく、米国内投資家も債券売りに動いた」(米金融大手)。ただ、トランプ氏は「時には『薬』を飲まなくてはならない」と、関税を病人となった米国を治す薬に例え、市場混乱を意に介さない様子だった。
米メディアによると、金融市場の不安定化が危機に発展することを恐れたベセント氏は6日、トランプ氏が南部フロリダ州の邸宅「マールアラーゴ」からワシントンに戻る際、大統領専用機に同乗。「市場は確実性を必要としている」とトランプ氏に説いた。
トランプ氏はその後、企業経営者や共和党議員らとも会談。改めて景気悪化への不安を聞かされ、方針転換へと傾いていったという。政権で穏健派と目されるラトニック商務長官は、トランプ氏とベセント氏の3人で細部を詰めたと説明した。米メディアによると、関税政策を主導してきた強硬派のナバロ大統領上級顧問は、その場に同席しなかった。
ただ、トランプ氏が今回の市場混乱を教訓として心に刻んだと考えるのは早計だ。関税の一部停止を発表する数時間前、株価急落のさなか、SNSに「買いの絶好機だ!」と投稿。インサイダー取引を助長しかねないとの批判も上がった。
各国・地域ごとに関税率を決める相互関税は、トランプ氏が掲げる関税政策の集大成とも言える。トランプ氏は9日記者団に、一部停止を伝える発表文は「心を込めて書き上げたんだ」と述べ、関税へのこだわりを改めて示した。