KT - stock.adobe.com 経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回はコンビニ3社のPB(プライベートブランド)商品について取り上げたいと思います。
セブン-イレブン(以下、セブン)のPBといえば「セブンプレミアム」です。少し前まで“上げ底弁当”で物議を醸していたセブンですが、PB商品の味に対する評価は高いかと思います。一方で、ファミリーマート、ローソンのPB名を思い出せるでしょうか。認知度の差にはワケがあります。セブンがよりセブンプレミアムを打ち出す一方で、他2社はブランド名やロゴで迷走していました。日販(1日の店舗売上高)はセブンがダントツであり、PB戦略の違いが関係しているかもしれません。
◆セブン:商品の統一感が「目的買い」に寄与
セブン&アイHDのPB「セブンプレミアム」は2007年に誕生しました。当時はデフレ経済下で小売各社がPBを投入していた時代。PB品はメーカーのブランド名で販売されるNB(ナショナルブランド)品と比較して、低価格で廉価品というイメージが定着していました。
しかしセブンはNBメーカーと開発に注力し、品質面も訴求しました。菓子類やスイーツ、パンなどの味は、やはりセブンに軍配が上がります。2010年には上位ランクの「セブンプレミアムゴールド」を発売。「金の○○」という商品名がつく同ブランドは、PBの安っぽいイメージを壊しました。カップ麺を例にあげると、現在は通常のPB商品が200円前後である一方、一風堂やとみ田といた有名店とコラボしたゴールド品は354円で販売しています。
セブンがPBを強化しはじめたのは10年代後半から。セブンプレミアムの売上高は13年度に5,000億円、15年度に1兆円を超え、近年では1.5兆円弱を推移しています。現在では店舗に並ぶカップ麺の半分以上がPBであり、食品における比率は弁当などのフレッシュフードを含めると8割に及びます。
店舗は他社と比べるとPB商品ばかりの印象を受けますが、「目的買い」で訪れるコンビニにおいて、商品の統一感は重要です。品質もさることながら、何が売っているか分かりやすい点も後述する日販の差につながったと考えられます。
◆ファミマ:「ファミマル」に統一も、知名度はライバルに及ばず
アイブリッジ社の調査によると、各PBの認知度はセブンプレミアムが56%であり、「ファミマル」は38%、「ローソンセレクト」は41%と、差が開いています。認知度に差があるのは、他社が迷走していたためです。ファミリーマートは以前、「お母さん食堂」や「お母さん食堂プレミアム」、「FamilyMart collection」など、1店舗で様々なPBを販売していましたが、2021年にこれらを「ファミマル」に統一しました。
「FamilyMart collection」は2012年にスタートしたものの、セブンほど積極的に投入せず、認知度の向上に出遅れた印象があります。2017年に投入したパック商品、惣菜などのPBブランド「お母さん食堂」は一定の評価を得ましたが、同じファミマの中でブランド名のカニバリ(共食い)が生じてしまい、全体としてセブンプレミアムに引けをとってしまいました。
近年ではセブンプレミアムゴールドを意識したような「ファミマル PREMIUM」も登場。PB比率の向上を進めており、セブンの後に続く姿勢が窺えます。ただし、PBの商品力では依然として差があり、今後の開発力が問われるところです。
◆ローソン:新PB「3つ星ローソン」の行方はいかに
ローソンは2008年にPB「バリューライン」を発売しました。しかし2年後に「ローソンセレクト」を発売しました。現在、サイト上では「ローソンオリジナル」という名称になっています。また、ローソンのPBに関しては、20年5月にデザインを刷新した際、その分かりにくさが一部で批判されました。少ないイラストや、細いフォントは優しさを印象付けるものの、ぱっと見て何か把握しにくいというデメリットがあります。
そしてファミマと同様、ブランド名で迷走する動きを見せました。2011年から店内調理品の「まちかど厨房」を始めましたが、ファミマのお母さん食堂と同様、ブランド名から店名が思い浮かびません。その後、20年には旧ローソンセレクトから、新たに「L basic」と「L marche」の2ブランドが生まれました。セブンが「セブンプレミアム」一本で勝負する一方、他社は商品ジャンルごとに様々なブランドを発売したのです。
しかしローソンも統一感の重要性を認識したのか、今年から新PB「3つ星ローソン」をスタート。サンドイッチやお弁当類、まちかど厨房やL basicなどを全て「3つ星ローソン」に統一する方針です。
◆日販の差は「13万円」
コンビニ3社の日販(1日あたりの店舗売上高)はセブンが約70万円とダントツで、ファミマとローソンが同じく57万円です。日販の差は13万円もあります。セブンは長い間、日販で10万円以上の差を付けてきました。好立地をいち早く抑える立地戦略もさることながら、高品質のPBも要因ではないでしょうか。他社がPBのブランド名やコンセプトで迷走したことも、一因と考えられます。コンビニのPB比率が上昇し続けるなか、PB商品の分かりやすさや品質は、より業績に影響するようになるでしょう。
やっと他2社の名称も定まり、「セブンプレミアム」「ファミマル」「3つ星ローソン」の三つ巴となりました。後発の2ブランドには、セブンプレミアムより評価を得ている商品もありますが、全体的なレベル感としてはセブンプレミアムが高評価を得ています。PBの品質を高めて消費者に支持されるのか、ファミマ、ローソンの開発力が問われるところです。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_