
「一緒に暮らしていくことは
経済的にも、体力的にも
二人の未来を考えた時、
限界だとの行政の判断は揺るぎなく…」
昨年11月12日、静岡県伊東市から「身寄りのない高齢の飼い主と飼い犬のサポートお願いしたい」などと、地元の動物保護団体「おっぽの会」に相談がありました。というのも、飼い主さんが施設に入所する予定で、飼い犬の甲斐犬おとわちゃん(雌・8歳)がひとりぼっちになってしまうことになるとのこと。まずは施設の入所日が決まるまで、散歩が困難な飼い主さんのために毎日お散歩のサポートをすることになったといいます。
「行政からの相談というのは、施設入所後、引き取りを前提におとわちゃんが今後も幸せに暮らしていけるようにと協力を仰がれたんです。飼い主様の施設入所が決まるまで私たちに慣れてもらうため、私たちがおとわちゃんのお散歩をすることになりました」
施設の入所日が決まるまでの4カ月。豪雨の日以外は毎日ずっと「おっぽの会」のボランティアらがかわるがわる保護シェルター業務と両立しながら、おとわちゃんの散歩へ通うことに。
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「最初は警戒していました。引っ張りも強く、尻尾もふらず、さっさとお家に帰っていく様子でしたが、少しずつ楽しそうにお散歩するようになりました。ドアを開けたら『お散歩!』と笑顔で飛びついて尻尾を振ってくれるようになって。お散歩も冒険が大好きなようで、もっともっととあちこちに行きたがるようになりました」
お散歩も冒険が大好きな甲斐犬、飼い主と別れて保護シェルターにきたが…
冒険が大好きで好奇心旺盛のおとわちゃん。穏やかでとても賢く、一見マイペースで控えめですが、甘えたい一面もあるワンちゃんだとのこと。飼い主さんに大切にされてきて、またおとわちゃん自身も飼い主さんが大好きだったそうです。そして4カ月が過ぎた3月29日。深い絆で結ばれていたふたりの「別れの日」がやってきました。
「飼い主様が入所する日を迎えました。おとわちゃんの顔は強張って、今まで誰も見たことのない顔でした。私たちのシェルターに連れて行き車から降りると、敷地から出たがって…ケージにも突っ張って入りたがらず、一晩中鳴き続けました。ずっと飼い主さんとふたりだったけれど、前触れもなくお別れを理解する時間もないまま、大勢の犬と知らない人たちとの毎日がはじまるんです。おとわの気持ちを思うと過酷でしかないことでしょう。今も不安からか常に鳴き、お散歩には行くものの、シェルター敷地に戻りたがりません。お散歩を楽しむというよりはどこかまだ不安げに右往左往する感じです」
シェルターでの生活はまだまだ慣れない様子だという、おとわちゃん。故意的な“別れ”ではなくとも、今回のケースも高齢者の「一般飼育放棄」だと「おっぽの会」代表は訴えます。
「愛情を持って飼育していた以上、飼育放棄ではないと言われたりもしますが、手続き上は立派な飼育放棄です。飼い主様とのお別れの日…明るい笑顔のおとわから一転、放棄されて心を閉ざした彼女を目にして、なんとも言えない気持ちになりました。保護までの一部始終の私たちの認識と、おとわの認識は一致するはずがありませんので当然ですが、そこに愛があっても、現実を受け入れなければいけないのはいつだって残された動物…。
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高齢であってもなくても、自身に何かあったときに、飼育する犬猫をどうすればいいのか事前に考えることは、ペットを飼う上での必須事項です。身内にお願いするのか、信託など文章や契約を残しておくのか、保護施設に相談しておくのかなど、選択肢はたくさんあります。この投稿をエンタメとして消費せず、いち飼い主として、もういちど全ての人が考えるきっかけになれば幸いです」
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)