●この記事のポイント
・小米(シャオミ)のEV、中国市場では昨年4月以降の「SU7」の累計販売台数が米テスラの「モデル3」を上回った。
・あらゆる面でSU7はモデル3を上回るように作られている。
・中国のメーカーと同等の能力を備えた運転支援機能を提供しているのは、欧米のメーカーでは現在のところ米テスラだけ。
昨年(2024年)3月にEV(電気自動車)事業に参入した中国のスマートフォンメーカー、小米(シャオミ)。中国市場では、参入後の同年4月以降の同社「SU7」の累計販売台数が、今年3月に米テスラの「モデル3」のそれを上回ったことが注目されている。シャオミのEVの特徴、および躍進の理由は何なのか。また、シャオミの自動運転技術が欧米メーカーと比較しても遜色がないほどのレベルだという評価も聞かれるが、実際のところ、どうなのか。そして、中国BYDとテスラが首位争いを繰り広げている世界EV市場において、シャオミがそこに分け入り、世界シェアトップに浮上する可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
シャオミがEVへの参入を発表したのは21年3月のこと。同年にはEV事業の「小米汽車」を設立し、23年12月には2種類の中大型セダンのEV「SU7」「SU7 MAX」を公表。BYD製のリチウムイオンリン酸鉄(LFP)電池と中国電池大手・寧徳時代新能源科技(CATL)製の三元系電池を搭載し、運転支援機能も搭載。昨年3月に発売された。
シャオミのEVの特徴について、自動車技術のコンテンツ制作を専門とするオートインサイト株式会社代表で日経BP総研未来ラボの客員研究員を務める鶴原吉郎氏はいう。
「シャオミのSU7とテスラのモデル3を比較してみると、あらゆる面でSU7はモデル3を上回るように作られています。例えば車体のサイズをみてみると、全長で約20cm、幅は約10cm、SU7のほうが大きく、ホイールベースという前輪と後輪の距離もSU7のほうが約10cm長くなっています。なのでSU7のほうが、室内が広くなっています。
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また、両者の最も低価格のモデルを比較してみると、発車から時速100kmに達するまでの時間が、テスラが約6秒、シャオミは約5秒となっています。1回の充電で走行できる航続距離は、テスラが約500kmなのに対し、シャオミは約700kmです。そして中国での価格はテスラが約500万円なのに対して、シャオミは約450万円です。
今の中国の消費者、特に若い世代はブランドにあまりこだわらず、機能や客観的データを重視する傾向があり、モーター出力が高いほうがいいとか、三気筒エンジンより四気筒エンジンのほうがいいとか、インフォテイメントの面でいうと車内のナビゲーションやオーディオなどをコントロールする半導体の性能が高いほうがいいといった具合に、数値に表れるスペックを重視します。その観点で比較すると、すべての面でテスラよりもシャオミのほうが優れているので、シャオミのほうが選ばれるのは当然ということになります。
デザインに関しても、シャオミの車は前から見るとマクラーレンのスポーツカーに、横から見るとポルシェのタイカンに似ているといわれており、欧米の有名なスポーツタイプの車とデザインの類似性が指摘されながらも、スポーティーでよくまとまっているとおもいます。
シャオミは技術力に加えてコスト競争力が高いのも企業としての特徴です。もともとスマホのメーカーとして世界第3位ぐらいのシェアを握るほどに躍進した理由が低価格とコストパフォーマンスの高さですが、経営陣が利益率を5%以下に抑えるというポリシーを掲げ、シェア拡大を優先するという企業体質も強みになっています」
シャオミの自動運転技術が欧米メーカーを上回っているという評価もあるが、実際のところ、どうなのか。
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「中国には新興EVメーカーの御三家と呼ばれるNIO(上海蔚来汽車)、Xpeng(小鵬汽車)、Li Auto(理想汽車)があります。またスマホの大手メーカーのファーウェイは、自社ではEVの製造を手掛けていませんが、多くの自動車メーカーに自動運転技術を供与しています。これにシャオミを加えた5社が、現在のところ中国EVの自動運転技術を牽引しています。
このうちファーウェイは、自動運転技術に加えて、電動駆動システムやカーナビのようなインフォテインメント技術も提供しており、インテルインサイドにちなんでファーウェインサイドなどと言われています。もともとエンジン車を作っていたような国営自動車メーカーが、ファーウェイの技術を導入してEVを作っているというケースが結構増えています。
日本で多く導入されている運転支援機能は、動作範囲が高速道路だけに限られています。これに対して、中国で導入が増えているNOA(Navigation on Autopilot)と呼ばれる運転支援機能は、高速道路以外の一般道でも動作するのが大きな違いです。一般道での運転は、信号で止まったり、直進車を避けて右折したりとシチュエーションが複雑で、高速道路よりもはるかに難易度が高くなっています。中国の自動車メーカーはソフトウェア技術が非常に優れており、NOAでは生成AIの技術を活用しています。
中国で実用化されているNOAは、こういう複雑なシチュエーションで、ハンドルから手を離して自動運転ができます。ただし中国で普及しているNOAは今のところはレベル2であり、人間が必ず運転支援システムの動作の状況を監視して、何かあった時には人間がステアリングを操作したり、ブレーキを踏むといった操作が必要になります。このあたりの技術は人命がかかる点でもあり、多くの欧米や日本のメーカーはまだ、実用化には慎重な姿勢を見せています。中国のメーカーと同等の能力を備えた運転支援機能を提供しているのは欧米のメーカーでは現在のところ米テスラだけです。
総合的にみると中国のEVメーカーの自動運転技術は、実用レベルでは欧米や日本のメーカーの2歩くらい先を行っている状況です。ただし中国の自動運転技術も完璧ではなく、シャオミやファーウェイでも事故が起きたりしていますが、それでも国全体として新しいものを積極的に取り入れていこうという風潮が強いです。日本だと自動運転システムの誤作動で事故が起きたりすると車が売れなくなったり、企業イメージが落ちてしまうことを恐れ、開発・実用化のスピードで中国に後れを取っているという事情があります」(鶴原氏)
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では、近い将来、シャオミが世界のEV市場でBYDやテスラを抜いてトップに躍り出る可能性はあるのか。
「24年の世界販売台数をみると、BYDは400万台以上なのに対し、シャオミはまだ10万台を超えた程度で、大きな差があります。また、中国全体の新車マーケットでも、今年はEVとPHEVの比率が5:5くらいになるとみられており、BYDと違ってシャオミはエンジンの技術は持っておらず、PHEVに参入しようとすれば時間がかかるでしょう。また、BYDはEVのカギを握る車載電池を自社で内製していますが、シャオミはBYDやCATLなど外部のメーカーから電池を買っており、コスト競争力でBYDのほうが有利です。よって、シャオミが近い将来、BYDに追いつくことは考えにくいでしょう」(鶴原氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)
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