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NTTドコモが、6月5日に新料金プランを導入する。2023年に開始したデータ容量無制限を売りにした「eximo」と、低容量向けで他社のサブブランドに対抗した「irumo」を刷新する形で、オンライン専用プランのahamoは現行のままの形でサービスを継続する。料金プランは時代やその時々の利用シーンに合わせて変えていくものだが、eximoやirumoは開始から2年もたたずに終了してしまう形になる。
サービス名称はこれまでより分かりやすくなり、データ容量無制限を主軸にしたものが「ドコモ MAX」、小容量プランは「ドコモ mini」と名付けられた。また、ポイ活プランには新たにデータ容量20GBの「ドコモ ポイ活 20」も加わる。既存の料金プランを整理しつつ、ポイ活プランを新設した格好だ。ここでは、新料金プランから見えてくるドコモの狙いを読み解いていきたい。
●eximoとirumoを刷新、ドコモ MAXは値上げの一方でサービスを大幅拡充
新料金プランは現行のeximo、irumoを刷新した形になり、それぞれの大きな役割は変わっていない。ドコモ MAXは、データ容量無制限を売りにしたヘビーユーザー向けの料金プラン。対するドコモ miniは、データ容量が少なく、料金にセンシティブなユーザー向けだ。ドコモがメインブランドとして提供する料金プランだが、KDDIのUQ mobileやソフトバンクのY!mobileといったサブブランド対抗と見ていいだろう。
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ただし、それぞれの金額に加えて、中身は大きく変わっている。より経済圏との連携を重視しつつ、サービスを盛り込んだ一方で、料金自体はやや値上げになっているのがポイントだ。その方向性がより分かりやすいのは、ドコモ MAXやここにポイント還元の仕組みを加えた「ドコモ ポイ活 MAX」だろう。ドコモ MAXの“素の料金”は、3GB超で月額8448円(税込み、以下同)。現行のeximoは7315円(税込み、以下同)のため、1000円を超える値上がりだ。
一方、割引が増えたことで、各種割引適用後の価格は220円の値上げにとどまっている。まず、家族や親族でまとめて3回以上契約した際の「みんなドコモ割」を、1100円から1210円に増額。ドコモ光やhome 5Gとのセット割も、1100円から1210円に上がっている。「dカードお支払割」も187円から550円になり、「dカードPLATINUM」や「dカードGOLD」が条件になった。年会費無料の「dカード」は、220円に割引額が下がる(が、キャンペーンで550円に増額される)。
既存の割引が増額されたことに加え、ドコモの契約が10年以上の場合は110円、20年以上の場合は220円の割引が受けられる「長期利用割」が新設された。また、「ドコモでんき」にもセット割が設けられ、110円が割り引かれる。既存の割引の増額と割引の新設によって、全て適用した際の値上げ幅を抑えた格好だ。その意味では、GOLD以上のdカードやドコモでんきなど、同社の経済圏とより密接にひも付いたといえる。逆に、回線を単独で利用しているユーザーには不利な条件が増えたという見方もできる。
もっとも、家族で3回線以上契約し、dカードGOLDで料金を支払い、かつ家にはドコモ光を引いて、電気サービスもドコモでんきにしたうえで、さらにドコモを20年以上契約していたとしても、eximoから220円の値上げになる。その分、eximoにはなかったサービスを強化しているのが、ドコモ MAXの特徴といえる。目玉になっているのは、スポーツ動画配信サービスの「DAZN for docomo」が、無料になることだ。
ドコモとDAZNは、2017年に提携を開始。ドコモユーザー向けに料金を月額980円に抑えたDAZN for docomoを提供してきた。一方で、ここまでの間にDAZNは大幅な値上げを繰り返しており、現在の料金は最大で4200円と4倍近い金額になっている。ドコモ MAXやドコモ ポイ活 MAXを契約すると、この料金が無料になる。DAZNを契約している人や、料金の高さでDAZNの契約をためらっていた人には、魅力的な料金プランだ。既存のeximoユーザーが、ドコモ MAXに乗り換える動機にもなる。
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もう1つは、ahamoで好評だった国際ローミングの無料化を取り入れたことだ。ローミング時に使えるデータ容量は30GBに制限されるが、出張や旅行での通信をまかなうには十分。24時間あたり980円(非課税)かかる「世界そのままギガ」は必要なくなる。しかも、国際ローミングのスペックはeximoをそのまま引き継いでいるため、対象となる国や地域がahamoより多い。DAZNや国際ローミングなどの特典が利用形態にハマれば、値上げ以上のメリットがある。
●付加価値を盛り込み最上プランを差別化、ahamoはシンプルさを売りに
ドコモの代表取締役副社長でコンシューマサービスカンパニー長を務める齋藤武氏は、「データ容量に応じたさまざまなプランを提供してきたが、一方でニーズは多様化している」と語る。こうしたニーズに応えるため、「興味関心やさまざまなバリューを盛り込んだプランに一新する」というわけだ。斎藤氏は「価値を入れ込んだ料金プランにして、価値を選んでいただく。そういうコンセプトで変えていこうというのが、一番大きな狙い」と話す。
単純なデータ容量と金額のバランスだけではなく、コンテンツなりサービスなりをバンドルしていくという考え方は新しいものではないが、月額料金が高額なDAZNをセットにしてきたところはインパクトが大きい。また、「若い世代の人は、約9割が何らかの形でスポーツを観戦、視聴している」(同)といい、幅広いユーザーに訴求できる可能性もある。ドコモが新規事業として、競技場やアリーナの運営や興行に乗り出していることで相乗効果も狙いやすい。
ただ、DAZNのようなスポーツコンテンツに興味がなかったり、海外に出る頻度が低かったりすると、eximoより複雑で割高な料金プランになってしまう。「バリューは今後、どんどん進化させていく」(執行役員 コンシューマサービスカンパニー統括長 鈴木基久氏)というように、サービスや特典が追加されることも示唆されているが、現時点ではeximo以上に“人を選ぶ”料金体系になっているといえそうだ。
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ahamoをahamoのまま残しているのは、そのためだ。ドコモ MAXや後述するドコモ miniは、「店頭でフルサポートしてお選びいただくプラン」(齋藤氏)という位置付け。対するahamoは「ターゲットなり、使い勝手なりが、店頭をご利用いただている方と違う」といい、「極めてシンプルなオンライン専用プラン」(同)としてコンセプトをキープした。ユーザーから好評のahamoがあるため、最上位プランはよりサービスをバンドルする方向にかじを切れたと見ることもできる。
実際、ahamoはもとのデータ容量が30GBと大きく、「大盛りオプション」を付ければ4950円で110GBまで増量可能。ドコモ MAXのような使い放題ではないものの、スマホ単体で利用するのであれば十分なデータ容量だ。“使い放題”や“無制限”とまでは言い切れないが、それに近い感覚で利用できる。ahamo大盛りであれば、家族での契約やdカード、ドコモ光などはなくてもこの料金で済む。その意味で、ドコモ MAXはこれまで以上にahamoとの差別化を図った料金プランといえる。
経済圏にどっぷりつかり、データ使用量も多く、しっかり料金を払ってくれるという点では、ドコモにとっての“優良顧客”だが、ドコモ MAXでは、こうした層への還元をより手厚くしてニーズに応えた格好だ。良くも悪くも、顧客と呼べるユーザーを選別しているようにも見える。こうしたコンセプトは、低容量、低価格を売りにしていたドコモ miniにも踏襲されている。
●ドコモ miniは容量二択に、値上げ&割引強化は吉と出るか凶と出るか
サービスを大幅に拡充して料金を上げたドコモ MAXに対し、ドコモ miniはirumoからデータ容量の選択肢を大きく減らしている。irumoは通信方式、速度に制限のある0.5GBに加えて3GB、6GB、9GBの4つでサービスを提供しているが、ドコモ miniは4GBと10GBの二択。しかも、各種割引適用前の料金は4GBが2750円、10GBが3850円と、容量の近いirumoの3GBや9GBより大きく値上げされている。4GBの金額は、2827円の6GBに近いほどだ。
一方で、dカードお支払い割が187円から550円に、ドコモ光やhome 5Gとのセット割が1100円から1210円に増額されており、ドコモでんきセット割も新設された。これらを加味すると、4GBは880円でirumoの3GBと同額になる。また、10GBの各種割引適用後の料金は1980円で、こちらはirumoの9GBより安く、かつデータ容量も1GB増加する。固定回線やクレジットカードとの連動性を、より高めたというわけだ。
さらに、新規受付を終了したOCN モバイル ONEの受け皿として用意されていたirumoの0.5GBプランが廃止になった。大手キャリアの回線を特別な条件なく550円で維持できる異例の料金プランだったが、「OCN モバイル ONEからの移行先としてある程度来ていただけたので、役割を終えたと思っている」(コンシューマサービスカンパニー マーケティング戦略部長 山本明宏氏)として、提供終了に至った。
維持費が安いことで、MNPの“弾”としてキープされていた側面もあったようだ。齋藤氏も、「ご指摘の部分はあった」とそれを認める。データ通信をほとんどしない、電話中心のユーザーには適した料金プランだったものの、必ずしもその思惑通りには使われていなかったことがうかがえる。ドコモにとって収益が少ない、いわばもうからない料金プラン。MNPの弾にされ、販促コストがかかれば赤字にもなりかねない。OCN モバイル ONEからの移行が一定数程度進んだ状況を見計らって、“止血”を図った格好だ。
経済圏や他サービスとの連動を強化し、格安で持てる0.5GBを廃止したという点では、ドコモ miniもirumoより優良顧客重視に路線を方向転換したといえる。各種割引適用後の料金は安く抑えつつ、通信料金以外の固定回線やクレジットカードで収益を確保できるように設計されていることが、それを物語る。ドコモは、irumoの導入によってARPU(1ユーザーあたりの平均収入)が下落していたが、ここに歯止めをかける狙いも透けて見える。
一方で、irumoは、他社のサブブランドを契約するユーザーを奪ってくる役割も担っている。持株会社のNTTからシェア35%以上を死守するよう厳命されているだけに、低容量の分野で競争力が落ちてしまう点には不安も残る。実際、サブブランドの代表格であるY!mobileは、光回線とのセットとPayPayカードがあれば、4GBの料金は1078円になり、ドコモよりやや高いが割引の適用条件は緩い。同様に、UQ mobileもau PAYカードとauでんきか固定回線のどちらかがあれば、4GBが1078円になる。
対するドコモはdカードお支払割の比重が高く、さらに固定回線とのセット割やでんきセット割も込みでようやく880円まで下がる。条件を満たすハードルは、Y!mobileやUQ mobile以上に高い。齋藤氏は、「極めてリーズナブルな880円や1980円でやっているので、競争力は十分維持できると思っている」と語っていたものの、条件の多さでユーザーから敬遠されるリスクは残る。サブブランドは獲得競争の主戦場なだけに、優良顧客重視の方針があだになる可能性もありそうだ。
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ドコモが料金プラン刷新したワケ(写真:ITmedia Mobile)74
ドコモが料金プラン刷新したワケ(写真:ITmedia Mobile)74