
トランプ政権の「留学生狩り」が加速している。イスラエルとハマスの衝突をめぐり反イスラエルの抗議行動を起こした学生を取り締まることが主な目的だったが、最近はデモに参加したことのない学生も標的になっているという。これまでに1500人以上の学生らがビザを取り消された。大方のケースで取り消された理由が明らかにされていないため、留学生は「次は自分ではないか」とおびえている。
トランプ政権のメディア攻撃が先鋭化 「包囲」された報道の自由
1500人以上がビザ取り消される 多くは理由告げられず
米国で学ぶ国際留学生は推定で150万人にのぼる。最も一般的な学生ビザは「F1」ビザで、米国内にある認定された大学などで正規の学生として学ぶことができる。また、国務省の交流訪問者プログラムの一環で学ぶ場合は「J1」ビザが発給される。
いずれも留学希望者は、学校またはプログラムをスポンサーとして申請し、米移民・税関捜査局(ICE)の審査に合格しなければならない。
このICEは不法移民の取り締まりを実施している機関でもある。そのため、留学生が米国に滞在することがふさわしくないとICEが判断すれば、事実上それだけでビザは取り消されてしまう。
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米国の教育関連のニュースサイト「Inside Higher Ed」によると4月21日現在、トランプ政権の元で少なくとも45州とコロンビア特別区の公・私立の約250の大学で、1500人以上の学生らがビザを取り消された。
ニュースや大学側の発表など、公表されたデータを積み上げた数値で、交換留学プログラムに参加した研究者や学者、教員らも含まれている。ビザを取り消された学生の国別の数字などは明らかになっていない。
国務省がビザを取り消し、その後、国土安全保障省(DHS)が学生・交流訪問者情報システムに登録されている学生らの記録を削除する。これにより学生らの法的地位がはく奪され、米国に留まると逮捕や国外追放となる。
ほとんどのケースで、ビザの取り消しや法的地位のはく奪について米政府から学生への説明はない。
当初は「親パレスチナ」摘発 その後、対象拡大か
トランプ政権は当初、イスラエルとハマスの衝突をめぐり、イスラエルの攻撃を非難したパレスチナ支持派の学生を取り締まるために、ビザ取り消しという手段をとっていた。ルビオ国務長官は3月27日、パレスチナ支持の学生デモについて「このようなおかしな人間を見つけるたびにビザを取り消している。毎日のようにやっている」と述べている。
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その後、トランプ政権は学生ビザを取り消す基準を拡大したとみられている。各地からの報道や裁判所に提出された資料などによると、ビザを取り消された学生の中にはデモに参加したことがない学生らも多く、最近は交通違反や何年も前の軽犯罪を理由に取り上げられたとしか思えないケースが目立っている。
国務省はこうしたケースについても明確な理由を公表していない。CNNの取材に対し「プライバシーへの配慮とビザについての守秘義務のため、個別ケースについての国務省の措置については原則としてコメントできない」と説明している。
こうしたビザ取り消しは、中東や中南米などからの留学生が対象だと思われがちだが、そうではないようで、日本人も巻き込まれた。
ユタ州ではブリガムヤング大学の博士課程の日本人学生がビザを取り消された。この日本人学生には2度のスピード違反などしか法律に違反する行為がなかったが、突然、日本への帰国が命じられた。日本人学生が連邦裁判所に提訴し、ニュースなどで広く報じられ、多くの市民が知ることとなり、最終的にはビザは回復されたが、だれでもビザ取り消しに巻き込まれる可能性があることを留学生は思い知らされた。
トランプ政権はさらに締め付けを強める構えだ。NBCによると、DHSは留学生のソーシャルメディアの履歴を調査するタスクフォースを設置したという。ビザ取り消しの理由を探るチームである。
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200人以上の学長が政府の締め付けに抗議の共同声明
こうした中、トランプ政権と大学当局との対立も深まっている。ハーバード大学は4月21日、トランプ政権による助成金凍結の差し止めを求めてマサチューセッツ区連邦地方裁判所に提訴した。
トランプ政権は4月11日に、多様性政策の見直しや「反ユダヤ主義的な活動」の取り締まり強化、学生らの政治活動のチェックを実施するようハーバード大学に求めた。大学側がこれを拒否したため、トランプ政権はハーバード大学への22億ドル(約3080億円)にのぼる助成金などの支払いを凍結することを決めた。
米国を代表する名門大学による政府に対する徹底抗戦は、他大学に影響を与えた。プリンストン大学やスタンフォード大学が相次いで「ハーバード大学支持」を表明した。さらに米国の200人以上の大学の学長が連名で、トランプ政権の締め付けに反対する共同声明を発表した。
「米国の高等教育を危機にさらしている前例のない政府の行き過ぎた介入に反対する。正当な監督には反対しない。しかしながら、キャンパスで学び、生活し、働く人々への不当な介入には反対しないわけにはいかない」
しかし、理由もわからずビザを取り消された学生の強制送還を大学側が阻止しようとすればトランプ政権の報復を招くとの大学側の警戒心は強く、大学側がどこまで学生を守れるのかは不透明である。
(文=言問通)