写真/産経新聞社開幕から2週間となる4月26日までの大阪万博来場者は137万9000人と伸びた。初週から70万人(一般来場者52万人)を突破し、’05年の愛知万博を上回るペースだが、主催者想定の半分にとどまる。ネパール館が建設費不払いで工事停止されるなどトラブルは後を絶たないが、万博グッズが高額転売されるなど人気ぶりを感じさせる話題もあるが、この大阪万博の動きはどう見ればいいのか。ノンフィクションライターの石戸論氏が、万博開幕で見えてきた課題と今後の成否について語る(以下、石戸氏の寄稿)。
◆来場者数70万人突破も、関西と他地域で生じる温度差
かつて都市開発の“負の遺産”とまで呼ばれた人工島「夢洲」を舞台に、大阪・関西万博が始まった。チケット販売の不振や一部パビリオンの建設の遅れなどが繰り返し報じられた影響か、関西はともかく東京を含めた他地域で関心が高まったとはおよそ言い難い。
日本維新の会代表の吉村洋文大阪府知事が万博の“顔役”としてPRしたことが、“反維新”層からの反発を買い、SNSも含めて論争の中心は開催の是非や経済効果の多寡にスライドしていった。
1970年の大阪万博ではSF作家の小松左京や文化人類学者の梅棹忠夫といった関西論壇を担った知識人たちが理念面を補強した。いかにも大阪らしく民間主導の勝手連ではあったが、メディアも巻き込むかたちで万博の理念とは何かを考えだし、主催者側も彼らの発信に耳を傾けた。今回との最大の違いだろう。
◆チケット総数「1800万枚」という損益分岐点
とはいえ、お金の話も重要だ。リアリズムに徹すれば2350億円もの建設費を投じたのに、人がやってこない、評判は悪い、で終わっていいわけがない。大阪のメディアで仕事をする際に、万博に行った人たちの話をたびたび聞いたが、各パビリオンが相応の力を入れていることもあって「イベント自体は楽しめた」という声は多い。これはプラス面だ。
この先、一つの目安になるのが、チケット総数「1800万枚」という数字である。ここが損益分岐点になることは、吉村知事自身が記者会見で明かしている。万博主催者側の想定は会期中の来場者が2820万人に達することだが、そのためには単純計算で一日平均15万人が来場しなければいけない。
万博は総じて会期後半のほうが駆け込み需要で伸びる。最初は平均を下回っても、’05年の愛知万博には約2200万人が訪れたことを考えれば、決して達成不可能ではないというのが彼らの思惑だが……。
先の話をすれば、会場跡地の再開発こそ今後の争点だ。アクセスが悪く、軟弱地盤とも指摘される夢洲にIR施設を造って人は集まるのか? 維新にとっても、夢洲問題が鍵を握ると見る。吉と出るか凶と出るか。注目したい。
【石戸 諭】
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)