“コメの高止まりは流通の問題”はウソ 主食用のコメは40万トン減っている【報道1930】

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2025年05月02日 17:04  TBS NEWS DIG

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コメの価格が一向に下がらない。備蓄米は市場に出回らない。これに対し江藤農水大臣は“コメが足りない認識は持っていない”とし、流通が間に合っていないなど理由を上げていた。巷では、精米が遅れているとか、もしくは誰かが値上がりを狙って止めているなど憶測が飛び交う。だが、農業政策が専門の宮城大学、大泉名誉教授によれば「コメの価格が下がらない原因の一つは2023年の猛暑でコメの白濁(品質不良)が増え主食用のコメが減少したから。去年6月時点で主食用米は約40万トン減っている」のだいう。

【写真でみる】ドローンで撒く肥料も稲の生育状況を見てAIが…

何かとよくわからないコメ事情をコメの生産者をスタジオに招き繙いた。

「茶碗一杯25円が40〜50円になっただけ。農家の手間を考えたら高いですか?」

コメは本当に不足しているのか? 政府は何故“コメはある”と言い張るのか? スタジオに来てくれた大規模農業でコメ生産を担う徳本氏に話を聞いた。

農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「この2年間は異常な猛暑とコメの天敵であるカメムシが異常発生した。物理的に主食用のコメはかなり減っている。日本人はコシヒカリが大好きでしょ。コシヒカリは特に暑さに弱いんです。農水省は作況指数を毎年出す。収穫量の指数なんですが、去年も一昨年も100〜101って出てるんですよ。でも僕らの肌感覚ではまずそんなに採れてない。そこが1割ぶれただけでも40〜50万トンのブレが出る。供給の試算がかなり(政府は)甘いなぁと…(中略)一方で思うのは、コメはずーっと安かった。何十年も米価は上がらず、僕らの肥料代とか種代とか機械代とか上がり続けてる。そういう中でコメ農家は利益が出せなくてどんどん潰れていった。高い高いって言ってもお茶碗一杯25円だったのが40〜50円になっただけ。農家の手間を考えたらこれが高いですか?適正価格という言葉が正しいかわからないが、農家の手取りを考えるとこれくらいで…。メディアでも高い高い言うけど、そんな高くない…」

以前から農水省の言うことはウソ。コメは足りていないと言い続けてきた加谷珪一氏も言う。

経済評論家 加谷珪一氏
「この問題が発生した当初から、私色々な番組に呼ばれ『なぜ米がこんなに高いんですか』と聞かれるたびに米が足りないんです、農水省がウソをついているとずーっと言い続けて来たんですが、メディアも中間業者が買い占めているとか農水省の言い分垂れ流しで…誰かのせいにしたいんですが、根本的にコメが足りないんです。どうしてかというと日本人がコメを食べなくなった。昭和の時代に比べて消費量は半分。市場が小さくなっているところでちょっと増産したら価格が暴落して破産するわけです。だからぎりぎりの生産量にとどめ置く。(中略)こういう状態で(猛暑で)生産が減ったり(インバウンドで)需要が増えたりすると経済学的にはボラティリティと言いますが価格が大きく変動するんですよ。経済学的には当たり前…」

加谷氏によれば農水省も農政事態を抜本的に変えないといけないことは承知しながら、高齢者が多い農家に痛みを伴う農政改革は難しい。そこをだましだましやってきた結果が現在のコメ事情だという。

総面積150ヘクタールと言っても…、237区画に分割されている

平均年齢71歳オーバーという高齢化、後継者不足、半減した市場での生産性の不確実性…。それが稲作農家の現実だ。今、農業は過渡期にある。注目されるのが大規模化だ。

平均作付面積1.8ヘクタールという狭い田んぼで手間暇かける稲作から、機械化と効率化の稲作を経営する。農家から農業経営者への変革だ。しかし、そのために乗り越えなければならない問題がいくつもある。千葉県の大規模農家を取材した。

千葉・柏市で東京ドーム約32個分150ヘクタールの農地を持つ染谷さん。農業をやめた人から土地を買ったり借りたりして大規模化してきた。大規模農業のメリットを聞いた。

『柏染谷農場』染谷茂社長
「(大きな)機械が使える。小規模だと機械の償却が厳しいですよね」

大型の耕作機械は1000万円を超えるものが多い。作付面積が広ければそれも償却できるという。しかし、買い足して広げてきた染谷農場。一面の巨大農地ではなく、小さな区画の集合体だ。その結果…。

『柏染谷農場』染谷茂社長
「1区画の作業が終わってまた道路に上がって移動して次の場所に入る。機械の効率はやっぱり良くないね」

総面積150ヘクタールの水田と言っても、農道や畦道で区切られたり、途中に他人の農地があったり、などなどの理由で237区画に分割されている。田植えにしても農薬散布にしてもとにかく効率が悪い、それが現状だ。

スタジオの大規模農業経営者、徳本氏も鳥取県で100ヘクタール、東京ドーム約21個分の農地を持つが、なんと500区画に分割されているという。

農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「田んぼっていうのは水口といって水を入れる口がある。500区画の田んぼの水を毎日管理するのってもの凄い労力。極端な話100区画だったら手間が5分の1で済む。投下労働時間というんですけれど、この人件費が田んぼが分散していることで上がってしまう」

他にも、徳本氏の場合農地を借りている場合が多く、地主一人一人との交渉が大仕事だという。使っていない土地でも貸したくないという人もいれば、将来宅地になれば値上がりすると見込んで手放したくないなど色々だ。

農地を集積しないと出口はない。そのため2013年に農地バンクという組織ができた。農地バンクとは農家を辞めた人や荒れ地となった土地を持ち主から集めそれを集積化してそれを農業経営者に貸付け大規模農業に転換していくことを推し進める組織で都道府県に1つ設置されているものだが、強制力はなくなかなかうまく行っていないという。

農水省事務次官でこの「農地バンク」を推進した奥原正明氏は、日本の米作の未来のためには政治が法律を作るなど抜本的な改革をし大規模化を進めなければならないという。つまり日本のすべての農地を農地バンクに貸し付けるような制度にし、所有は今までと変わらないが無駄な農地は農地バンクが貸し付けることができるようにするということだ。

「稲作コストは玄米1キロ当たり280円くらい。我々は3分の1くらいのコストで…」

日本の農業の大規模化はまだまだ障壁が多い。だが区画整理が実現し農業の大規模化が進めばコメ作りが根本的に変わるという。たとえば田植えをしない「直播」だ。苗を育て、水田に植える田植えは稲作の象徴的作業だが、徳本氏の大規模農場では水を張らない田に直接種を撒く。ひとつの大型耕作機械が、田を耕し、肥料を撒き、種を撒き、最後に除草剤を散布する。その上、機械はGPSによる自動操舵だ。田植えによるコメ作りに比べ圧倒的なコスト削減が可能だという。他にも液肥の散布にはドローンを導入していた。

農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「この10年間コメが本当に安い中、自分たちが農業経営者として生き残っていくために、今までのやり方を全部捨てました。完全にゼロベースで…(中略―――コストは削減できた?)農水省が出してる稲作コストは玄米1キロ当たり280〜300円くらい。我々は今その3分の1くらいのコストで…。人件費も機械の償却費も入れてですよ」

ドローンで撒く肥料も稲の生育状況を見てAIがどこにどのくらい撒くか判断しているという。さらに害虫の問題もAIが天候や気温など様々なデータから農薬をいつ撒くのか判断しそれを実践すると確かに収穫量は増えるのだという。 

宮城大学 大泉一貫 名誉教授
「アメリカのお米でも1キロ170円くらいですよ。徳本さんの方がはるかに安いですよ」

では、肝心の食味はどうなのか聞いた。

農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「これがですね、まったく遜色ないですよ。(―――品種は?)直播は倒れやすくて収穫量が少ない。倒れやすいコシヒカリとかは一切作っていない。我々は直播に適した、しかも収穫量が多い品種が日本でも増えてきたので、そういうものをチョイスして撒いている」

徳本氏はかつて消防士だった。IT企業を経て農業を志した。素人が始めてみると農業の常識は非常識に見えたという。その常識を破りながらコメ作りを続け6年でここまで来た。最も驚かされたのは、この東京ドーム21個分の田んぼでの稲作に従事している人員がわずか3人ということだ。

農業法人『トゥリーアンドノーフ』徳本修一氏
「機械のオペレーションは3人で回してます。従来の日本のコメ作りは1反当り投下労働時間が25時間と言われてるんですが、我々5時間くらいまで落とすことができた。それによっていい給料も払える。福利厚生も提供できて、それによってまたいい人材が集まる…。とにかく現場が儲からないと…日本は農家を守るのでなく、農業経営者を育てることに力を注ぐべきなんですよ。まだ政治を信頼していないので私たち民間で土地を買い集めて基盤整備しています」

経済評論家 加谷珪一氏
「間違いなく大規模化して増産して輸出もしていかなければならない。これはマスト。徳本さんのような優秀な経営者には資本市場でやれば資金も集まります。ただ日本にはボトルネックになる部分があって大企業でさえIT化は嫌だ異動は嫌だ転職は嫌だとなっているわけで、農業従事者だけに変化を求めるのは無理がある。日本全体が改革を勧めましょうというマインドにならないと政治も動かないのではないでしょうか」
(BS-TBS『報道1930』4月30日放送より)

このニュースに関するつぶやき

  • 去年も一昨年も同じなら、価格が2倍にまでならないよね?! おまけに、一昨年は豊作ぎみで、最初のころは例年よりもコメの値段が1割程度安かったぐらいだし・。収穫予想の制度はたかいと思うけど?
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