店頭に並ぶiPhone=4月4日、米ニューヨーク(AFP時事) 【シリコンバレー時事】トランプ米大統領による高関税政策が、大手IT企業を中心としたエコシステム(生態系)をむしばんでいる。グローバルに構築された供給網や事業戦略は揺さぶられ、新興企業が株式上場を中止する動きが顕在化しつつある。不確実性の高まりがテック業界を圧迫し、技術革新に支えられてきた米経済の成長を下押しするリスクが高まっている。
「5兆ドル(約725兆円)の投資を新たに確保した」。ホワイトハウスはトランプ氏就任から100日間を迎えた4月29日、アピールした。アップルやエヌビディア、ソフトバンクグループ、トヨタ自動車など、投資を表明した企業名と金額を列挙し、成果を誇った。
ただ、公表額をうのみにはできない。4年間で5000億ドル(約72兆円)超というアップルの投資について、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、生産拠点を多様化する計画の延長線上にあり、政権発足前から「ほぼ確定済みだった」と指摘した。いかにして大統領の「トラ」の尾を踏まずに喜ばせることができるか。企業は頭を悩ませている。
一方で、米中貿易戦争などは事業に深刻な影響を及ぼしつつある。アップルは米国で販売するiPhone(アイフォーン)の大半の生産を中国からインドに移すと表明。4〜6月期には関税でコストが9億ドル(約1300億円)増えるとの推計を明らかにした。メタ(旧フェイスブック)は海外から調達するハードウエアの価格が上昇すると見込み、今年の設備投資計画を上方修正した。
影響は新興企業にも及ぶ。報道によると、チケット売買サイト運営の米スタブハブなどが米株式市場への上場を延期した。調査会社ピッチブックのアナリストは、政権の関税政策が生み出した不確実性により、上場の低迷は「下半期まで長引く恐れがある」と分析。資金調達環境の悪化が事業拡大を妨げかねない状況だ。
移民政策も技術革新に打撃を与える恐れがある。全米経済研究所によると、2020年には米起業家の3割弱が移民だった。今年1月、バイデン前政権時代に発表された政府報告書では、米国の人工知能(AI)分野の博士課程修了者の半数が外国籍者だとされた。生成AIブームが訪れる中、専門人材の需要は高まっているが、ビザ抹消などの強硬措置は人材流出を招き、米国のテック経済圏に打撃を与える可能性がある。