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オーストリアのインスブルック大学とカナダのウォータールー大学に所属する研究者らが発表した論文「Universal quantum computer from relativistic motion」は、アインシュタインの相対性理論の原理を応用した量子コンピュータの理論的基盤の確立に成功した研究報告だ。
量子コンピュータの研究は今まで主に地上の静止した環境で行われてきた。しかし最近では、衛星を使った宇宙空間での量子通信や、離れた場所にある複数のコンピュータを連携させる分散コンピューティングへの関心が高まっている。こうした背景から、アインシュタインの相対性理論と量子力学を組み合わせた「相対論的量子情報」(RQI)という新しい研究分野が注目されている。
相対論的量子情報の分野では、時空の特性を生かした量子もつれや量子エネルギーテレポーテーションなどの技術の開発が進んでいる。これらの技術を量子コンピュータに応用できないかというのが今回の研究の出発点だ。
従来の研究では、量子ビットの動きを相対論的に制御することで、1つまたは2つの量子ビットに対する基本的な量子ゲートを構築できることを示していた。しかし、これを実際の量子コンピュータとして使うには、いくつかの問題があった。
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1つ目の問題は、量子場を介した相互作用によってノイズが発生し、計算の精度が落ちる可能性があること。2つ目は、3つ以上の量子ビットを使った複雑な回路の設計方法が明らかでなかった点だ。
今回の研究では、これらの問題を解決するために「変分量子回路」(VQC)という手法を採用。VQCは最近の量子機械学習で広く使われるようになった手法で、量子回路のパラメータを少しずつ調整して最適な結果を得る方法だ。この手法を相対論的な設定に応用することで、研究チームは複数の量子ビットを時空内に分散配置した普遍的な量子コンピュータのモデルを構築した。
このモデルの特徴は、量子ビットの時空内での軌道をパラメータとして調整できること、一般的な時空でも使える非摂動的な(近似に頼らない)公式を導出したことだ。さらに、このモデルを使って「量子フーリエ変換」というアルゴリズムの実装し、高い精度で動作することを確認した。
Source and Image Credits: LeMaitre, Philip A., et al. “A Universal Quantum Computer From Relativistic Motion.” arXiv preprint arXiv:2411.00105(2024).
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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