
2000年以降に生まれたアーティストやミュージシャンが反戦のメッセージを込めた楽曲を作りました。その名も「令和の反戦歌」プロジェクト。歌うのは、日常の“火種”や生活のそばにある“戦争の影”。その音楽と言葉に耳を傾けます。
「平和だけど戦争が間近で…」 “令和の反戦歌”を歌う若者たちメロディは、高校の授業中に思いついたという17歳のアーティスト・三栖(みすみ)さん。
三栖さん
「歌詞も同時に思いついていたので、これは反戦歌でいけるなって」
楽曲に“反戦のメッセージ”を込めました。
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♪「家路」より
「ある戦争映画のワンシーンで
撃ち抜かれたのが君じゃなくてよかったと思ってしまった
僕は普通じゃないのかい?
街の喧噪に揺られ
ため息をついても
世界が変わりやしないことを僕らは
知っているからさ目を逸らしたのだ」
三栖さん
「若者から見た反戦歌ということで、大事にしたい人、大事にしたい景色が思い浮かぶような曲にしたいなと。僕の素直な感覚」
「反戦」をテーマに曲を作ったのは、これが初めて。そのきっかけは、あるプロジェクトに参加したことでした。
“令和の反戦歌”をテーマに掲げる「from00」。2000年以降に生まれた世代による音楽プロジェクトで、4人の大学生が中心となって活動しています。
from00 A&R 神尾昴雅さん(21)
「現在、僕たちすごく平和に生きているけど、同時並行線上でいま戦争が間近で起こっているという、このいびつさに課題を持って」
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from00 A&R 田邉佑衣さん(21)
「反戦している人を見ることで、私も反戦の気持ちがあるぞって思ってほしいし、共感できるものであったりとか、お守りのような存在であるものを作りたい」
プロジェクトに賛同した同世代のアーティストたちと、これまで6曲の反戦歌を発表しました。
三栖さん
「10年後も20年後も良いと思うような楽曲になりました。すごく手ごたえは完成したときはありました」
音楽による反戦は、今に始まったことではありません。56年前の昭和44年、それはムーブメントとなっていました。
当時、若者たちを結びつけたものは、ベトナム戦争反対を訴えるフォークソングでした。
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この年(1969年)、デビューしたのがフォークシンガーの高田渡さん。
♪「自衛隊に入ろう」より
「みなさん方の中に自衛隊に入りたい人はいませんか」
楽曲「自衛隊に入ろう」では、自衛隊の募集の文句をそのまま歌詞に。自衛隊への皮肉を込めました。
♪「自衛隊に入ろう」より
「自衛隊に入ればこの世は天国
男の中の男はみんな自衛隊に入って花と散る」
反戦を歌うことについて、高田さんは生前こう話していました。
フォークシンガー 高田渡さん(2004年)
「僕はね、一番大事にしているのはね、いつもいるその風景が好きですね。その風景で、そこを歌うこと自体が本当の反戦だと思う」
2年前に亡くなった音楽家・坂本龍一さん。2001年のアメリカ同時多発テロ以降、「非戦」の思いを音楽と言葉で発信し続けました。
筑紫哲也キャスター(2004年)
「坂本さんは9.11以降、“非戦”、戦いに非ず、ということをずっと言い続けてきたわけですよね」
坂本龍一さん
「今、世界がこんなにちょっと雲行きがおかしいんで、平和・非戦とか言ってるけれども、それが目標になってしまうのもおかしな話」
東京・下北沢のライブハウス。この日、令和の反戦歌プロジェクトに参加する2人のアーティストがいました。Siglinen(シグリネン)さん(19)と、CARAMEL CANDiD おとさん(23)。
CARAMEL CANDiD おとさん
「令和の2000年代、私たちの世代が作ることって正直あんまりないなと思ったので」
ラッパー Siglinenさん
「まずは身の回りの争いから。消極的な反戦歌ではある」
♪「k0t0nakare」より
「偉そうに ペラペラ コメンテーター
スクリーン フリップ に 声荒げてた
芸能人が不倫 炎上 してた
遠い国では 戦争起きてた
けど休みは ベッドで昼まで寝てた
ネットさえあればそれでよかった」
Siglinenさんは、日常の“小さな火種”を歌います。
ラッパー Siglinenさん
「思い切り胸を張って戦争反対って言うのは、やっぱり違和感があった。平和ボケをしている自分たちというのを内省的に見た曲」
♪「k0t0nakare」より
「受け身で学んだ戦地のリアル
世界平和 騙る正義にシニカル
デジタルで怒る二元論
アイロニカルに至る10言論
強制される 論争は勘弁
揉め事は結構 ことなかれ
馬鹿 じゃない? 馬鹿 じゃない?それ
それってお前の感想じゃん」
“反戦”という大きなテーマに「すごく悩んだ」という、おとさん。考え抜いた結果、こんな曲も作りました。
♪「我々贅沢品」より
「反出生の風潮が流れる世
2000年代 我々贅沢品」
歌うのは、生活のすぐそばにある、“戦争の影”。
♪「我々贅沢品」より
「スーパーから姿を消した果物は
あの国の戦争の影響らしい
『とりあえず争いは駄目だよね
私達にはあんま影響ないけどさ』
わかっている」
CARAMELCANDiD おとさん
「『スーパーから姿を消した果物はあの国の戦争の影響らしい』という歌詞があるんですけど、こんなに自分は戦争が身近にあるんだなって気づいた瞬間でもあったんです。(戦地は)ちょっと遠くにあるけど、身近な音楽を作ろうと思いました」
令和世代がつくる、等身大の“反戦歌”。プロジェクトのコンセプトは「青き、あきらめ。」を掲げています。
from00 A&R 神尾昴雅さん
「若い僕たちの『青い』、『あきらめ』が仏教用語で『物事を明らかに』して手放していこうっていう“前向きな言葉”」
偏見や主張などから距離をとるという前向きな「あきらめ」。それは、“2000年代生まれ”を表現した言葉でもあるといいます。
from00 A&R 小野凪さん
「こうあってほしいとか、こうだったらいいのになっていうのを求めるとすごくしんどくなる。そういったものを手放して、楽になっていくみたいなものが世界を通して僕ら世代めちゃくちゃそういう性質がある」
from00 A&R 田中美羽さん
「ネット上でもたくさんの議論・炎上とか、争い事から少し離れたい、離れようみたいな気持ちがすごく強いメッセージになるんじゃないか」
プロジェクトに参加する高校生の三栖さん。なぜ、いま反戦歌を作るのでしょうか。
三栖さん
「(終戦から)80年経っているわけなんで、日本では時間が経っていく中で戦争の意識が薄れるのは良くないことである。被害者の方もいますし、『戦争はいけない』っていう意識が薄れていくのも良くないことだと思うので、『よしやろう』というふうになりました」
♪「家路」より
「きっと流れた血には人生があって
もげた足には帰る家があるから
やめにしようもう僕らは疲れたんだ
広がる空に願いを叫んで
世界にいつか花びらが散ったなら
僕は君のこともっと大事にできる気がしたんだ
僕は君とならずっと歩いて行ける気がしたんだ」
上村彩子キャスター:
想像していた反戦歌とは違いました。聞きやすい現代風のメロディーに乗せて身近に感じたこと、そして、ネットでの争いなど、本当に等身大の歌詞で表現していましたね。
喜入友浩キャスター:
だからこそ、しっかりとまっすぐに心に届く感覚がありました。
令和の反戦歌プロジェクト「from00」のメンバーは「いまはSNSで戦争の映像を見ることができるが、『戦争はいけない』と声をあげない。楽曲を通じて戦争に対し、自分の意見を持ってほしい」とお話されています。
上村キャスター:
自分の視点を持ち、自分の言葉で発信するのは本当に素晴らしいことですよね。音楽を通じて、共感や対話の輪が広がってほしいなと思いました。