「私、どう考えても日本人じゃないよね」20歳ではじめて自分が“ハーフ”だと知った女性の“出生の秘密”

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2025年05月27日 18:31  日刊SPA!

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モデルのエリさん
「自分は“他の子と違う”とは思っていたのですが、“ハーフ”と知ったのは20歳の頃でした」
白人女性の卵子と日本人の父の精子を体外受精し、当時54歳の母の体内から自然分娩で生まれたエリさん(28歳)。今でこそハーフモデルとして活躍する彼女だが、幼少期には“菌”と呼ばれていじめられ、自分の顔を鏡で否定し続けた。

20歳のときに明かされた出生の秘密、父の介護をきっかけにうつや摂食障害を発症、そして母の死——。それでも今、彼女は「正解なんてない」と断言し、自らのルーツを発信している。その人生の軌跡をたどった。

◆小学4年生からはじまったイジメ「“菌”扱い」

——自分は“他の子と違う”と自覚したのはいつ頃でしたか?

エリさん(以下同):小学4年生です。いじめられてた子をかばったら、今度は私が標的になりました。「髪がくるくる」「ハーフでしょ」と言われて、“菌”扱い。小6までずっと続きました。

当時はみんなストレートヘアだったので、私は毎朝1時間くらいかけてアイロンで伸ばしていました。母も「縮毛矯正かけてみれば?」って言ってくれて、中1からずっと縮毛をかけていました。

くせ毛のままだと浮いてる気がして、「ストレート=正解」だと信じ込んでいたので。「日本人らしい顔=正解」だと思って、鏡の前で鼻をつぶしたり、目をひっぱって細くしたり、日本人っぽくなりたくてたまりませんでした。

——お母さまが高齢出産だったことについては、どう感じていましたか。

母が54歳で私を産んだので、周囲から「おばあちゃん?」って言われることがよくありました。母は「この子、竹から生まれたのよ〜」と明るく返していたけど、それを見るのがつらくて。母のことを何か言われるのが、自分のことより嫌でした。

——人間関係にも影響がありましたか?

いじめのボスが男子だったので、小4から中学卒業まで、男子とは全く話せませんでした。

でも、高校ではバドミントン部の部長になって、話さないと回らない状況に。ラーメン屋での接客バイトでも、おじいちゃんから「かわいいね」って言われて、男性と話すのが怖くなくなっていきました。

大学1年のとき、街を歩いていたら美容師さんに声をかけられて、ヘアモデルをするように。そこから人生が大きく変わりました。

◆20歳で“ハーフ”だと告げられて「涙が止まらなかった」

——モデルとしての活動を始めて、どんな変化がありましたか?

そのときはまだ縮毛をかけていたんですけど、徐々に「くせ毛を生かしたほうがいい」って言われて、3年かけて縮毛をやめて、地毛に戻しました。これで、外見に対する意識も変わったんです。

それまでは“他の子と違う”ことが恥ずかしかったけど、モデルをやっていると、メイクさんやカメラマンさんが「くせ毛もハーフ顔も素敵だね」と褒めてくれる。自分の“違い”を個性として見てくれる人たちに出会って、はじめて自分の外見を肯定できるようになったんです。

SNSでの発信もその頃からです。撮影データが増えてきたので、プライベートとは別のアカウントでInstagramを始めたら、「撮らせてください」と声がかかるようになって、仕事が増えていきました。

——ご自身の出生を知ったのは、いつでしたか?

20歳の頃、母が買い物に出かけていて、父と二人きりのタイミングで私が「私、どう考えても日本人じゃないよね。もう20歳になったし、いい加減に教えてよ」って言ったんです。そしたら父が「ハーフだよ」と。

「お母さんの子じゃないんだ!」って涙が止まりませんでした。母が帰宅して「そんなことない!」って叫んだとき、初めて母が“拗ねた”姿を見ました。あんなに取り乱した母を見たのは、後にも先にも、あの時だけでした。

——詳しいことを知ったのは?

父から聞きました。母は卵子提供を受けようとしたら、当時の日本で行われていない技術だったため、アメリカまで渡ったそうです。アジア圏の提供者がおらず、やむを得ず白人女性の卵子を選択。父の精子と体外受精して、母の体で私を産んだそうです。今と違って、あの頃は国籍や人種も選べなかったとのことです。

DNA鑑定でルーツを知りたい気持ちもありますし、ドナーに会えるなら感謝を伝えたいです。「あなたの卵子で私は生まれて、今こうして生きています」と。「たぶんフランス人じゃない?」と言われることが多いけど、どうかな(笑)。

◆ヤングケアラー、介護うつ、摂食障害で「人生のどん底」

——大学卒業後、どんな日々を過ごしていましたか?

スポーツジムで働いていましたが、22歳のとき、父の足が悪くなって、生活が一変しました。お酒とタバコをやめず、肺がんもあって介護レベルは「4」。「酒買ってこい!」って怒鳴られたり、コンビニで倒れて帰ってこなかったり。本当にしんどかったです。

一度「うるさい!」って思わず言ってしまって、「俺はこうなりたくてなったわけじゃない」って父に返されて、自己嫌悪に陥りました。家に帰りたくなくて、夜はジムでずっと走ってました。

——ヤングケアラーだったのですね。

食事は炭酸水だけで過ごす日々が続いて、2ヶ月で8キロ痩せました。でもそのあと、反動で今度は過食に。2ヶ月で15キロ増えて、体も心もボロボロでした。モデルの仕事も、ジムの仕事も、体が資本なのに、自分が壊れていく感覚でした。

周りの友だちはまだ介護をしていないから、誰にも相談できない。今思えば“介護うつ”だったんでしょうね。

——どうやって立ち直っていったのでしょうか?

うつを経験した友人に話を聞いてもらったり、自己啓発本を読みました。『3週間つづけば一生が変わる』という本に救われて、「ちょっとできたら自分をほめよう」と思えるようになったんです。スタバに行ったり、運動したり、好きなことを少しずつ増やしていきました。

◆母の死をきっかけに「体外受精で生まれた」と発信

——出生のことを発信しようと思ったのは、どんなきっかけがあったんですか?

母が亡くなったときに「母が亡くなりました」とInstagramに投稿したら、「もしかして体外受精ですか?」とDMが届きました。

その方も48歳で高齢出産をして、旦那さんは当時60歳。精子と卵子、両方とも提供を受けた“ダブルドネーション”で娘さんを産んだそうです。「誰にも言えずにいたけれど、あなたの投稿に救われた」と言われました。

それで「私は体外受精で生まれました」と発信することにしたんです。Threadsでは3万以上のいいねがついて、反響の大きさに驚きました。

——発信することに、不安はありませんでしたか?

ありました。「かわいそう」と思われたくない気持ちが強かったから。でも、私の存在が誰かの希望になるなら、意味があると思えました。「体外受精で生まれた私が今こうして元気に生きてますよ」って姿を見せたかったんです。

——発信して変わったことはありますか?

いろんな人がDMをくれるようになって、「この子を高齢で育てられるか不安だったけど、エリさんみたいに育ってくれたら嬉しい」と言ってくれたママもいました。「不安だけど産みたい」「諦めかけてたけど、選択肢として前向きに考えられるようになった」というメッセージもいただいています。

それって、母が私に命をくれたからこそできることなんです。母は、私を産んだ時には既に仕事はリタイアしていて、一心に愛情を注いでくれました。スマホも持たず、70歳からピアノを始めて、「何歳からでも遅くない」と背中で見せてくれました。母と私の人生が、誰かの未来につながるなら、こんなに嬉しいことはないですね。

◆「自分にしかないもの」に価値を感じる

——ご自身の外見やルーツが、恋愛に影響したことはありましたか?

恋愛面ではそこまで大きなトラウマはないんです。モデルになる前は内気で太っていて、人が寄ってこなかったです。今は電車で見られても「かわいいからかな」と思えるようになりました。昔は「何見てんの」と思ってたのに(笑)。

日本では「ハーフっぽい」って注目されるけど、アメリカに行ったら逆に埋もれちゃうくらい、あっちではよくある顔ですよね。今は「見た目もルーツも武器」と思えるようになりました。

——いまのエリさんにとって、「正解」とは?

ないです。だから、「正解なんてない」。

かつては「日本人らしくあるべき」と思い込んで、髪をまっすぐにしたり、他の子と同じに見せようと必死だったけど、今は「自分にしかないもの」に価値を感じています。

母も「子どもを産むのは若くなきゃいけない」と誰に何を言われても、行動していました。もちろん、不安はあって当然です。母も私の産後すぐに「こんな高齢で育てられるか不安」と自殺未遂をしたと聞いています。

でも、不安なままでいいから、とにかく動いてみてほしい。やってみたら、その先で何かが変わるんです。人生って遠回りした分、充実するから。イヤなことも、経験したほうが絶対楽しい。遠回りでも、不器用でも、自分のペースで生きていけばいいんです。

——エリさんは今年中に60キロマラソンや、富士山をひとりで登頂することにも挑戦する予定だ。「正解なんてない。だから私は、私のままでいい」そうまっすぐに言い切る彼女の笑顔は、「正しさ」に縛られがちな私たちの心を、そっとほどいてくれる。

<取材・文/綾部まと>

【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother

このニュースに関するつぶやき

  • 「どう考えても日本人じゃない」、自身の”日本人”のイメージと違うだけ。日本人とは、日本国籍を有するかどうかだから見た目は一切関係ないのだが。
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