『6Pチーズ』が今年2回目の値上げ、インフレ加速『第2の波』を深読み【播摩卓士の経済コラム】

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2025年05月31日 14:03  TBS NEWS DIG

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円形のチーズを6つに割った形のロングセラー商品、雪印メグミルクの『6Pチーズ』。その希望小売価格が7月から値上げされることになりました。今年2回目の値上げで、食料品値上げラッシュの象徴的な出来事です。『6Pチーズ』の価格から見えるインフレ加速の風景をみてみます。

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食料品値上げ「第2の波」

『6Pチーズ』の希望小売価格は、今年3月に、それまでの437円から463円に、率にして5.9%引き上げられたばかりでした。雪印メグミルクは、28日、それを今年7月から476円に、率にしてさらに2.8%引き上げると発表しました。その理由として会社は、原料である乳価の引き上げや、包装資材、物流コスト、さらに人件費の上昇を挙げています。特に、酪農生産者の飼料やエネルギー価格の高騰を受け、原材料費である乳価を引き上げて生産基盤を守る考えを詳しく説明し、消費者の理解を求めていています。

ただ、3月の値上げも同様の理由で、人気のナショナルブランドを短期間で2回も値上げするのは異例と言えるでしょう。実は去年、2024年には『6P』の値上げはなく、前回の値上げは2023年の4月(385円→437円)でした。その前年の22年には2回も値上げされており、その意味では、2022年から23年にかけての値上げラッシュに次ぐ、第2の値上げラッシュが食料品の世界に押し寄せていることがうかがえます。

消費者物価3%以上上昇続く

5月の東京都区部の消費者物価(速報)は、生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.6%もの上昇率で、インフレ加速のほとんどはコメを含めた食料品で説明がつきます。

帝国データバンクによれば主要食品メーカーが6月に値上げ予定の飲食料品は1932品目にのぼり、値上げ点数は前年同月比の3倍です。円安の定着やコメ価格高騰を受けた、まさに値上げの第2の波です。

企業は価格転嫁に強気に

『6P』は、ゴロッとした食感で私も子供のころから慣れ親しんできました。永らく365円だった『6P』の価格に異変が生じたのは、2022年のことです。ロシアによるウクライナ侵攻が起き、エネルギーや穀物の輸入価格が急騰し、4月には日本の消費者物価がついに2%を超えた年です。

『6P』は、22年4月にまず385円に値上げされました。そして前述のように、この年の9月には2回目の値上げに踏み切ります。ただ、2回目の値上げは、希望小売価格の変更ではなく、内容量を減少の形で行われました。それまで108グラムだった『6P』は、102グラムと薄くなったのです。『6P』は1箱6個入り、つまり1個当たり1グラム減量したのです。減量率は5.6%で、その分、値上げされたことになります。

値上げラッシュの第1の波の頃には、こうした減量による、いわゆる『ステルス値上げ』が多くの商品で行われました。長いデフレ時代を経て、消費者の値上げへの拒否感は強く、多くの企業が、「額面価格は何度も上げられない」と感じていたからに他なりません。

しかし、今年はわずかな間に2回の値上げでも、堂々とした価格改定です。これ以上、チーズを薄くするわけにもいかなかったのかもしれませんが、企業が「消費者にも価格転嫁が受け入れられるだろう」とみていることがうかがえます。その点が、第1の波の時と大きく違うところです。

賃上げ先取りの価格転嫁の可能性も

また、具体的な証拠があるわけではないのですが、第2の波の現在は、これまでとは違って、今後の賃上げ分を先取りして価格転嫁する動きが出てきているのではないかと、私は推測しています。第1の波の際には、まだ賃上げの動きは顕在化しておらず、各企業は、まず実際のコスト上昇を転嫁し、渋々、値上げに踏み切りました。

しかし、この3年で風景は変わり、インフレが定着、実際に行われた賃上げ分を価格転嫁する動きが広がりました。しかし、極度の人手不足もあって、今や経営者の間では、今後も毎年賃上げを続けざるを得ないという認識が広がってきています。もちろん、トランプ関税による先行き不安もあるので、来年も過去2年と同様の高い賃上げができるかどうかはわかりませんが、それでも、かつての「ベアゼロ」が許される時代には戻れないというのがコンセンサスになりつつあるのではないでしょうか。

仮に今後の賃上げ分を先取りした価格転嫁が、行われ始めてるのであれば、「物価」と「賃金」の「循環」は、新たな局面に入ったと言えるかもしれません。

この3年の食料品値上げの凄まじさ

それにしても改めて感じるのは、この間の価格上昇の大きさです。2022年からの3年半で『6P』は、365円から476円へと、額面価格で30%、内容量の減量を加味した実質では38%もの値上げとなりました。毎日の食卓に上る生活必需品の上昇としては、凄まじい数字です。この間、賃金が38%も上がっていないことを考えると、実質所得の目減りの大きさがわかろうというものです。物価高対策に国民の関心が集まるのは当然です。

増量値上げの時代は来るか

さて『6Pチーズ』、1954年の誕生時は170グラムあったそうです。その後、消費者の嗜好の変化や、デフレ時代の消費者の厳しい価格許容度もあって、少しずつ減量され、前述のように2022年には102グラムにまで小さくなりました。

消費者マインドがインフレ時代に本当に変化するのであれば、値上げの際に、逆に増量することがあっても良いはずです。「価格は上がるけど価値も上がっているのです」というフレーズが、アピールにもなり得るからです。

『6P』が再び大きくなる時代が、いつかはやってくるでしょうか。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

このニュースに関するつぶやき

  • そりゃ、生乳の生産調整とかするからだろ…(-。-)y-゜゜゜
    • イイネ!3
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