“香水砂漠”日本で香りが花開く? 2年で1.9倍に膨らむ市場の秘密

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2025年06月02日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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1本3万円超えも! 独創的すぎる香水ボトル

 「香水・オーデコロン市場」が、2年で約1.9倍に急拡大している。経済産業省の生産動態統計調査によると、2021年の同市場の販売金額は約47億円だったが、2022年は約65億円(前年比約1.4倍)、2023年は約90億円(同約1.4倍)とコロナ禍を通じて伸びている。


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 国内では、指定の香水を少量で購入できる月額数千円からの「香水サブスク」や、1000円以下から購入できる「香水量り売り専門店」なども登場している。


 そんな香水市場で注目度が上昇しているのが、調香師の個性が表現された少量生産の「ニッチフレグランス」だ。シャネルやディオールといったラグジュアリーブランドが発売する大規模生産の香水とは、対照的なカテゴリーだ。


 2017年に創業したニッチフレグランス専門店「NOSE SHOP」(ノーズショップ)は、国内13店舗とECサイトを運営(2025年5月現在)。売り上げを見ると、2022年は前年比36%増、2023年は同34%増と安定した成長が続いている。香水初心者をターゲットにしているが、客単価は2万円弱に達するという。


 欧米などと比べて日本人は強い香りを好まない傾向があり、日本は香水が売れづらい市場とも言われるが、なぜ「香りの需要」が拡大しているのか。ノーズショップ社(東京渋谷区)の中森友喜社長に、「事業戦略」と「香水市場が伸びている背景」を聞いた。


●香水が売れない日本で、なぜ「香水専門店」なのか


 新卒で国税局に入局後、アパレルのベンチャー企業で代表を務めた経歴を持つ中森社長は、2011年にBIOTOPE社(ビオトープ、現ノーズショップ社)を創業し、コスメ領域の事業を経て、2017年にノーズショップを開業した。


 香水市場がそれほど盛り上がっていないなか、なぜ「ニッチフレグランス」を専門的に扱うことにしたのか。


 「欧州では、インターネットによる情報革命と物流革命の影響で、2000年代からニッチフレグランスのムーブメントが始まりました。開業当時、そのムーブメントは日本に全く届いておらず、欧州のマーケターには『日本はラグジュアリーブランドの香水さえも売れない”香水砂漠”』だと評価されていました。そこで、当社が先導してニッチフレグランスを広めていけたらおもしろいなと思ったんです」


 ニッチフレグランスは独創的な世界観を重視し、中森社長いわく、「対象となる人を極小に定めたようなつくり方をしている」そうだ。


 大規模生産の香水では使えないような贅沢(ぜいたく)な天然香料を使っていたり、あえてトレンドの天然香料ではなく合成香料を軸に据えたり、業界の常識を打ち破るような制作スタイルを採用したり。ボトルデザインにも細部までこだわり、オブジェのような見栄えの商品もある。


 世界ではニッチフレグランスのブランドが5000を軽く超え、計測不能なほど拡大しているという。同市場が最も盛り上がっているのがイタリアで、ミラノでは世界最大級のニッチフレグランスの展示会「Esxence(エクサンス)」 が毎年開催されている。


 ノーズショップで扱うニッチフレグランスは約80ブランド、約2500種類にのぼる。平均単価は3万〜4万円と高額だ。日本で香水文化を広げ、定着させることを目標に据え、ニッチフレグランスをまとめて提案・販売することで、ムーブメントにつなげたい考えだ。


●百貨店やファッションビルに13店舗


 なぜ日本では香水が売れないのか。ノーズショップでは「売り方に課題がある」と仮説を立てて店舗設計をしてきた。香水文化が成熟した欧州の売り方を、そのまま日本で展開しているのが原因ではないかと考えたのだ。


 開業当時、香水を扱う店舗にはハードルが高い印象があった。きらびやかな装飾のなか、カウンター越しに店員が接客。ムエット(試香紙)に香水を吹きかけて香りを試すのが一般的で、自由に商品に触れたり、試したりするのが難しい。そのため、一部の愛好者だけが楽しむ傾向があったという。


 「ノーズショップは香水初心者をターゲットに据え、アートギャラリーのように香水を展示した近未来的な空間としました。セミセルフ式の接客スタイルで、気軽に香りを試せるよう香りを吹きかけた『試香カップ』を設置しています。また、各商品の世界観を100字で伝えるキャプションを添え、好みを見つけやすいよう工夫しました」


 ノーズショップは、人目につきやすい百貨店やファッションビル内への出店を精力的に進めている。新宿、渋谷、銀座、横浜といった関東だけでなく、札幌、大阪、福岡など全国的に13店舗を展開する。


 商品は、「日本初上陸」のブランドを多数そろえるほか、香りの文化を広げるために、世界のニッチフレグランスのトレンド訴求にも注力する。毎月のように新商品が発売され、ごく少量しか入荷しない商品もある。希少性が高い商品は争奪戦になることもあるそうだ。


●「人とカブらない」のが魅力


 ノーズショップは前年比30%増の安定的な成長を目指しており、売上高は2022年が36%増、23年が34%増、24年が30%増(見込み)で推移している。20代女性が主な客層で、客単価は2万円弱にのぼる。


 「一番の購入動機は、『他の人とカブらない』こと。自分しか付けていない唯一無二である点に価値を感じる方が多いですね。選ぶ基準は『香りの好み』だけでなく、『ボトルデザイン』や『ブランドストーリーへの共感』なども重要視されます。オブジェのような感覚で購入する方もいます」


 特に人気のあるブランドや商品を聞くと、 最近は世界的に注目されている「4つの香りのカテゴリー」が支持されているという。


 その1つが、“溶けるようなアンバーの香り”を意味する「モルテンアンバー」。甘く深みのある香りがアンバーの特徴で、重厚感のある香りよりソフトなアンバー調が人気を伸ばしているという。


 やわらかく心地いい昔ながらのムスクの香りを指す「ノスタルジックムスク」、抹茶やセサミなどアジアの菓子からインスピレーションを得た「ニューグルマン/ネオグルマン」、森の地面を連想させる「イン ザ ボスケージ」も注目株。中でも、ノスタルジックムスクに分類される「Nomenclature(ノーメンクレイチャー)」というブランドの「アデレット」は、2024年に日本初上陸後、一気に販売数が伸びたという。


 とはいえ、「1本数万円の商品を気軽に買えない」「種類が多すぎて選べない」という人もいる。そうした香水初心者を呼び込む施策として効果を発揮したのが、2018年に開始した「香水ガチャ」だ。


 約1〜2ミリリットルのミニ香水を、1回500円のワンコインで提供し、自身では選ばないような香りに出会えるとして幅広い層から支持を集めている。現在は900円に値上げしているが、累計販売数は54万個を超える(2024年11月末時点)。利用をきっかけに香りの好みの幅が広がったという声もある。


●コロナ禍を経て「香水市場」は急拡大


 なぜコロナ禍を経て「香水・オーデコロン市場」が2年で約1.9倍に急拡大したのか。


 「巣ごもり需要により自宅時間を快適にしようと、まず『ルームフレグランス』や『アロマキャンドル』が注目され、『いい香りは癒やしや気分転換になる』という価値観が広まっていきました。


 加えて、マスクを付けることで周囲の香りを感じづらくなったので、『この機会に自分の好きな香水を付けちゃおう』というムーブメントがありました。普段は周囲に迷惑をかけないようにと香水を控えていた人たちが、行動を変えたんです」


 「香り」への注目度が上がった結果、SNSでは「沼らせ香水」「モテ香水」といった投稿が目立つように。香水のサブスクや量り売りサービスも同時期に登場し、定着していった。


 「世界的な潮流では、かつてファッションやスニーカーの限定品などにかけていた3万〜5万円の予算を『香水』にシフトする傾向が見られるそうです」


 調査会社のIMARC Group(アイマークグループ、インド)によれば、グローバルの香水市場規模は2024年に396億ドル(約5兆6500億円)と評価され、2033年には613億ドル(約8兆7400億円)に達し、年平均5%の成長が見込まれている。


 国内では、百貨店がニッチフレグランスに注力する動きも。伊勢丹では、香水の需要拡大により2023年秋に本館フレグランスコーナーの面積を1.5倍に拡大。中でもニッチフレグランスは過去3年間で売上高1.8倍と好調だ。年1回の香りの祭典「サロン ド パルファン」も年々規模が拡大し、2024年は日本初上陸を含むニッチフレグランスを多くそろえた。


 大丸神戸店でも、2025年5月21〜27日にフレグランスの祭典「carre de parfum(カレドパルファム)」を実施。世界中からニッチフレグランスの注目ブランドを集めた。


 ノーズショップでは、引き続き店舗を拡大しつつ、いずれは日本発のオリジナルブランドをつくりたいと考えている。すでに、自社のフレグランスブランド「KO-GU(コーグ)」を展開しているが、香りそのものはフランスでつくっている。「日本の調香師による日本のブランド・香りとして世界に打って出たい」と中森氏は意気込みを示した。


 ノーズショップの調査によると、国内で香水を日常的に使用する人は約25%にとどまる(20〜40代の男女300人が回答、2025年2月に実施)。一方、20代女性に限ると約49%に上昇する。若年女性にとっては、香水の使用が一般的になりつつあるのかもしれない。


(小林香織、フリーランスライター)



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  • 人によって臭いが変わるから臭い輩も居る。
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