
怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、ノリでプログラミングに取り組んだら、教授にホメられ、論文が海外で評価され、ソフトウエアエンジニアとして就職できた――。『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』の著者・大塚あみ氏を直撃!
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――取材に2時間遅刻。不真面目で怠け者という前フリは嘘でなさそうで安心しました!
大塚 大学生の頃から、遅刻する癖というのはあんまり変わってないですね。でも、普段は5分とかですよ? 今回はカレンダーに入力する時間を間違えてしまったんです。
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――プログラミング未経験だった大学4年生がChatGPTと出会ったことで人生が変わり、エンジニアとして就職にも成功。夢のある話です。
大塚 ChatGPTに出会っていなかったら今頃ニートだと思うので、危なかったです。
――ChatGPTとの出会いは?
大塚 経済学部で理系でもなかったんですけど、授業で偶然触る機会があって。「これなら面倒な作業を最小限に抑えて、レポートや課題を終わらせられるのでは」と使い始めたんです。
――ChatGPTに打ち込んだ最初の言葉は?
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大塚 「大学のレポート課題をサボる方法を教えて」ですね。そしたら「学問には真面目に取り組むべきだ」って趣旨の説教をされました。
そこから「ジョークとしてとらえて考えてみて」と言えばちゃんとサボり方を教えてくれるとか、レポートを代筆してもらうときに私の過去の失敗談を伝えればリアルに大学生が書いたような品質の文章が出力されるとか、手探りで試行錯誤を繰り返していきました。
――その後、毎日ChatGPTでアプリを作りXに投稿する「#100日チャレンジ」が教授や学会に評価されました。
大塚 授業中に暇潰しでオセロのアプリが作れたことで「これは簡単に自分の価値を高めるチャンスなのでは」という勘が働いたんです。
誰でもできることだけど、100日続ける人はほとんどいないはずなので、終わったときに何かしら実力がついているかもしれないし「100日チャレンジをした人です」と言えるだけでも肩書になりそうという打算もありました。
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――100日継続はスゴいです。実はコツコツタイプなのでは?
大塚 いえ。本来私は何かをやろうと決めても気づけば数週間放置してしまっているタイプ。だからこそ、SNSのような他者が見張ってくれる場所で「毎日発表します」と宣言し、自分にプレッシャーをかけたのが有効だったと思います。
一定期間強引に努力を継続すると、コンコルド効果(損失が発生しているにもかかわらず、過去の投資や努力を惜しんで継続してしまう心理現象)みたいな感じで続けられちゃったりもすると思うので、取りあえず始めることって大事です。
――そして卒業して1年がたちましたが、どうですか?
大塚 面白そうなことをなんとなくやっていれば、仕事になり、お金をもらえている......こんないい未来が来るとは想像もしていなかったです。
――会社に入って大変だったことはない?
大塚 出社ですね。最初の3ヵ月間は研修で出社しなきゃいけなかったので、それだけはAIを使ってもどうしようもなくて。もう二度と出社したくありません。
――会社業務は面倒でした?
大塚 もちろん面倒ですよ。業務命令に従わないといけないって法律に書いてあるから仕方なくやっていただけで。だから、効率化して、余ったほとんどの時間はChatGPTを触っていました。
――効率化とは?
大塚 例えば新人って日報を書かされるじゃないですか。私は初日からプログラミングをして、ガイダンス資料などをChatGPTに貼りつければ自分が書いたようなテキストが日報提出システムに自動的に記入されるアプリを作りました。だから私、一度も自分で日報を書いていません。
――徹底していますね。会社からはどう評価されている?
大塚 まず、業務をAIで効率化していることは基本的に会社に一切伝えていません。効率化していることがわかったら「デキるね」と言われるかもしれませんが、結局求められる仕事量も増えてしまうので。
効率化する前の段階でノルマを設定してもらい、こっそり効率化して、頑張っているフリをしながら楽に終わらせる。生まれた時間でさらにChatGPTを使って効率化できることを探すというスタイルです。
――それってAIに疎い人間でもまねできますか?
大塚 誰でもできると思いますけど、AIは魔法じゃないので、すぐ使いこなせるとは思わないほうがいいですね。私もこうして楽をできるようになるまでに、相当な時間と労力をかけていますから。
――ですよね。
大塚 私が怠け者の中で違いがあるとしたら、サボるためになら全力でエネルギーを投下できるところだと思います。最初にChatGPTを触ったのは授業の課題をサボるためでしたけど、うまく使えないから結局100時間くらいかかっちゃった。
それならAIを使わず自力で課題をやったほうが早いんで、普通の人なら2、3時間トライしてうまくいかなかったら諦めてると思います。でも、私はやり切ったから、その方法を次回以降も応用しながら、いつの間にか授業の課題が一瞬で終わるようになっていた。
――プロの怠け者ですね。
大塚 実は昔から「手を抜くために全力を尽くせるのがプログラマーの才能」という言葉があるらしいんですけど、これからの時代、それってプログラミング以外の領域でも言えるんじゃないかなって思っています。
――AI時代は怠け者が逆転しやすい時代だと?
大塚 はい。「怠け者は才能」、私自身もこの言葉を教授に教えてもらってから、自分の性格や特徴をポジティブにとらえることができるようになり、いいサイクルに入れたと思います。これまで「楽ばかりしようとして」などと上司から怒られていた方がいたら、それは才能があるということなので、ぜひAIを使ってほしいと思います。
――最後に、初めてAIを触る人にアドバイスをください!
大塚 「1万時間の法則」というのがありますが、それはハードルが高いので、まずは50時間を目標に触ってみてください。ポイントは使用目的をひとつに絞ること。私が「レポートをサボる」という目的に絞ったことでサボりに特化したスキルを身につけられたように、一点集中で50時間使ってみたら次の世界が開けているかもしれません。
●大塚あみ
2001年生まれ、愛知県出身。合同会社Hundreds代表。大学の課題をサボるためにChatGPTを使い始める。毎日プログラミング作品をXに投稿する「#100日チャレンジ」を実施し、その成果が電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会に評価され、スペインで開催された国際学会「Eurocast2024」で発表。2024年3月に大学を卒業し、IT企業にソフトウエアエンジニアとして就職
■『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』
日経BP 1980円(税込)
怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、ノリでプログラミングに取り組んだら、教授にホメられ、論文が海外で評価され、ソフトウエアエンジニアとして就職できた。毎日1本、ChatGPTで新しいアプリ(作品)を作り、Xに投稿する......暇潰しで始めた「#100日チャレンジ」によって彼女が得られたものとは? Z世代の著者によるAI駆動型プログラミング学習探究記!
取材・文/黄孟志(かくしごと) 撮影/三浦えり