
生体販売を行うブリーダー。その規模はブリーダーごとに異なるものの、一説によれば静岡県のとある地域では少なくても200匹以上、多いところでは1000匹以上の繁殖犬を抱えていると言います。
それだけの数のワンコが商売道具にさせられているわけですが、さらに1匹ごとに適切なケアをするブリーダーは稀。たいていは病気になっても治療されることはなく、「商売道具にならない」と認められれば、そのまま放置されるようなひどい環境が多いものです。
しかし、その環境にいるワンコたちはあくまでもブリーダーの所有物。第三者がその尊い命を救ってあげたいと思っても、そう簡単に手を出すことができないのが歯がゆい現実です。
「乳腺腫瘍が悪化しているのに治療してもらえない」
そんな中、動物保護団体、アニマルフォスターペアレンツの元にある相談が寄せられました。
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とある繁殖場の内部事情を知る方からのもので、「乳腺腫瘍が悪化しているにかかわらず、劣悪な環境で治療もしてもらえないケリーブルーテリアのメスのワンコがいる。何とか救い出してもらえないか」という相談でした。
情報を受けた団体はそのブリーダーと掛け合い、何とか譲渡してもらうことに成功。生きているうちに救いだせたことを喜ぶのと合わせて、最初の相談者や協力者たちに感謝しました。
「生きてほしい」という願いを込めて付けられた名前
ケリーブルーテリアは初めて会う人間の前にも、健気に尻尾を振って近寄るような人間が大好きな穏やかな性格でした。しかし、その体に触れて見ると、コブシ大の腫瘍がボコボコと幾つもあります。また、特に大きな主要は痛みからか自壊しており、出血や膿も見られました。
団体メンバーはすぐに掛かり付けの動物病院へと連れて行きました。
獣医師も「これは酷い」とすぐに手術を実施。腫瘍の数が多すぎるため、2回に分けて手術することにしました。まずは左側の主要を全て摘出し、後日右側という順序ですが、仮に全ての乳腺腫瘍を摘出できたとしても、転移している恐れが残ります。
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犬の乳腺腫瘍は50%が悪性と言われ悪性の場合は半数がリンパ節や肺、腹腔などに転移する可能性があります。
最悪の事態を想像すると気が遠くなりますが、ここで団体メンバーは「生きてほしい」という強い願いをこめてこのケリーブルーテリアに「エバ」という名前をつけてあげました。ラテン語で「命」「生きるもの」という意味を持つ言葉です。
これからの毎日こそが本当の犬生
エバの手術は無事に終わりましたが、乳腺腫瘍は悪性でした。しかし、転移は認められず、腫瘍全てを切除することで命には別状なく過ごせることとなりました。
「エバが生き続けてくれる」ということに団体メンバー、獣医師もとても喜びましたが、その後、エバの元にさらに嬉しい連絡も入りました。
エバの経緯を知った心ある人からの「うちの家族になって欲しい」という里親希望の申し出でした。過去、劣悪な環境で商売道具として使われ続けたエバの元に「本当の家族」が現れたのです。
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もちろん、元々がお利口さんで穏やかな性格のエバなので、新しい環境にもすぐに馴染み今では幸せを噛み締める日々を送るようになりました。
「命」「生きるもの」という願いを実現させたエバ。これからの毎日こそが、エバにとっての本当の犬生です。優しい里親さんの元で、いつまでも穏やかで幸せな日々を送り続けてほしいと思いました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)