
一体いつまで頑張り続ければいいの?
「周りに相談しても、『親孝行のチャンス。今が頑張り時だね』と言われるばかり。一体いつまで頑張ればいいのでしょうか」そんな相談をくれたのは、ユウコさん(仮名/50代女性)。一人娘で、両親と3人で同居生活を送ってきましたが、1年前に父親が脳梗塞に。介護が必要になり、体が思うように動かない父は、ストレスで怒りっぽい性格になったといいます。母親はただ泣くばかりで、家事も介護も手につかないとのこと。
仕事を続けながら父親の介護を1人で背負い、同時に母親の面倒も見る日々。身近な存在である友人や職場の上司にもその苦労を分かってもらえず、心身ともにボロボロになりながら孤軍奮闘しているユウコさん。もう十分に頑張っているはずなのに、周りから言われる「頑張って」が彼女を追い詰めていました。
今までの自分を褒めて、心身を休ませて
筆者がかけたい言葉は、「もう頑張らなくていい。今までの自分を褒めて、心身を休ませて」、これに尽きます。ユウコさんは1人で介護と向き合いながらいろいろな情報を調べ、そして勇気を振り絞って筆者に相談してきてくれました。それだけで、ユウコさんが日々どんな思いで介護と向き合っているかが十分すぎるほど伝わってきます。
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限界まで頑張っている人に「頑張れ」と言うのは、筆者はあまりに無責任な物言いだと思っています。どうか、まずは一度ラクになってもらいたい。
外野の「頑張れ」はスルーしてもいい
具体的な策が何もない人ほど、外野から「頑張れ」 と言ってしまいがちです。親戚のおじさん、おばさんだったり、親の主治医だったり、実際に介護をしない人が「娘なんだから仕事を辞めてお世話してあげればいいのに」「今頑張らずにいつ頑張るの?」と、どんどん押し付けてくるわけです。「私の生活はどうなるの?」と聞けば、「そんなのは知らないよ。あなたが頑張って乗り越えればいい話でしょ」なんて言葉が返ってくる。あまりにもむちゃな言い分です。
できもしない人が頭の中にある「理想の介護」をただ押し付け、まじめで優しい人が、その一言で潰れていってしまう。こんな不幸なことはありません。
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多くの親は、子どもが幸せでいることを願って産み育てているはずです。たとえ優しい親であっても、加齢とともに心の状態が変わってくるのはよくあること。元気だった頃からは考えられないようなわがままな性格が出てくることも珍しくありません。
「私のために仕事を辞めなさい」「何のために育ててやったと思っているんだ」、そんな言葉をかけられ、そして周りにも「その通り。親に恩を返さなきゃいけない」などと乗っかってくる人がいたりする。
ただ、ユウコさんの両親は、これまでずっと娘を大切に育て、見守ってきてくれたはず。ならばその何十年もの愛情に応えることも「親孝行」ではないでしょうか。まずは自分自身を大切にしてほしいと思います。
介護について最終的な判断を下すのは自分
自分を大切にするために、介護保険のさまざまなサービスや介護施設、老人ホームなどを利用することもぜひ検討してみましょう。もしかしたら、親や周りの人は嫌がったり反対したりするかもしれません。それでも「黙れ」と言い返すくらいの強い気持ちがないと、大事なものを守ることはできないのです。
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介護についての最終的な判断は、親でも周囲の人でもなく、介護をする自分自身で行わなければなりません。いくら周囲からプレッシャーをかけられたとしても、どこまで頑張るかは自分で決めていいのです。
人から押し付けられるがままに頑張って限界を越えてしまったら、あとは潰れるしかありません。そうすると、大切な親さえ守れなくなってしまう。そんなとき、周りの人は手を差し伸べてくれるでしょうか。あなたが潰れるまで何の手助けもしてくれなかった人が、助けてくれるはずがありません。
そんな人たちの言うことは真に受けずに、「へえ〜」と返すくらいの気持ちで、受け流しましょう。
そして、もし周りに介護をしている人がいるときは、「頑張って」ではなく「お疲れさま」「心と体に気を付けて」「たまにはゆっくり休んでね」。ぜひそんな言葉をかけてもらえたらと思います。
横井 孝治プロフィール
両親の介護をする中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。翌年には介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。介護のスペシャリストとして執筆、講演活動多数。また、広告代理店や大手家電メーカーなどでの経験を生かし、販促プロデュース事業も行う。All About 介護・販促プロモーションガイド。(文:横井 孝治(介護アドバイザー))