
「はじめまして、歩荷です」
そんな自己紹介と共に投稿された写真が、X上で多くの人々を驚かせている。

画像提供:「尾瀬小屋(尾瀬国立公園)」
2025年6月17日、尾瀬小屋(福島県南会津郡檜枝岐村)のX公式アカウント(@ozegoya)画」紹介したのは、特徴のある尾瀬の木道の上を歩く、一人の男性の姿だ。たくさんの箱を背負い、荷物のてっぺんは、男性の頭のはるか上にある。
「私達は週6回80kgの荷物を背負って片道10kmの道のりを歩きます」というコメントも添えられている。背負った荷物の重量は、なんと80キロもあるらしい。
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背景にそびえるのは、日本百名山の一つ、燧ヶ岳(ひうちがたけ)だろうか。木道の左右に見える小さな白い花は、水芭蕉か? いかにも「夏が来れば思い出す」尾瀬らしい印象的なシーンではないか。
しかし、何故この人は、こんなにたくさんの荷物を背負い、そんなに長い距離を、ほぼ毎日のように歩くのか。
Jタウンネット記者は、投稿者である「尾瀬小屋(尾瀬国立公園)」に詳しい話を聞いた。
話しかけず、心の中で伝えるお礼
歩荷――ぼっか。それは、山小屋へと必要な物資を届ける仕事だ。
Jタウンネットの取材に答えてくれた尾瀬小屋の工藤友弘さんによると、尾瀬で活動している「歩荷さん」は、現在、7人。日持ちしない野菜、生鮮食品を中心に運ぶ。重さは平均80キロで、登山口から近い山小屋へ背負う時は、100キロになることもある。
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逆に燃料、飲料、冷凍食品などは、月1回のヘリコプターで空輸されるそうだ。
運ぶ距離は、近い山小屋の場合、片道3.6キロ、遠い山小屋だと片道11.6キロになる。基本的には片道のみ背負うそうだ。
1日に働く時間は、往復8時間くらい。また、活動する期間は、4月末(開山)から11月上旬(閉山)まで。
彼らのおかげで、登山者は快適な山小屋で過ごせるのである。
「歩荷さん」に対するお客様の反応を聞いてみた。
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「重たい荷物を背負っている時は声を掛けないようにしているが、すれ違う時に心の中でお礼している、とおっしゃる方が多いですね」(工藤友弘さん)
「歩荷さん」に出会ったら、必ず道を譲り、話し掛けないように。彼らの一歩は一つ間違えると大怪我となるからだ。
尾瀬の文化、歩荷という仕事
歩荷さんについて紹介した尾瀬小屋(尾瀬国立公園)のポストには3万6000件を超える「いいね」(6月23日時点)のほか、こんな声が寄せられている。
「読みを知りませんでした。『ぼっか』さんと読むんですね」
「背丈よりも高い荷物を背負って、まるで『荷物が歩いているように見える』というのが『歩荷』さんの由来だと聞きました」
「山小屋まで、こうして水や食品を届けてくださるありがたい職ですね。 すてきすてき!」
「歩荷さんの身体の動かし方見てスクワットの姿勢がやっとわかったー!」
「尾瀬に鳩待峠から行ったことあるけど、 その時にも見たことあるけど、息も上がってないしスゴイ!の一言でした」
「夏が来れば重いダス」
「山小屋ってこういう人たちに支えられてるんだよね」
Xユーザーからの歩荷さんへの感動のリプライは尽きることがない。
尾瀬小屋・工藤友弘さんは、今回Xで反響を呼んだ件に関して、「日本の山域で歩荷7人が生業として活動している地域は尾瀬だけです。彼らが一端を担って来た尾瀬の文化、歩荷という仕事が幅広く世の中の人に知って頂ける貴重な機会となりました」とコメントした。
夏が来れば、はるかな尾瀬を思い出す。思い出して行った先では、「歩荷さん」への感謝の気持ちも忘れずに......。
「歩荷さん」が木道を丁寧に歩く姿は、尾瀬の自然と同じくらい美しいのだ。