「食べログ離れ」は誤りだった 売上は過去最高を更新、利用者数はなぜ増える?

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2025年06月26日 13:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「食べログ」絶好調の裏側とは?

 「食べログ」が好調を維持している。2025年3月期の売上高は約335億円と過去最高を更新し、前年同期比20.2%増となった。月間利用者数は1億10万人、月間ページビューは24億9477万PV、掲載店舗数は87万店(いずれも2025年3月現在)に達している。


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 しかし、InstagramやGoogleマップなど飲食店探しの選択肢が増えたこともあり、一部では「食べログ離れ」という言葉も聞かれる。過去には評価基準を巡って飲食店との訴訟問題に発展したことで、信頼性に疑問符が付いたことも記憶に新しい。にもかかわらず、なぜ食べログは過去最高の業績を更新し続けているのか。


 売上増の最大の要因は、ネット予約サービスの利用数が増加したことにある。食べログは予約1件ごとに手数料が発生する仕組みで、予約数の増加がそのまま売り上げに直結するビジネスモデルだ。近年食べログのネット予約数は右肩上がりで推移しており、前年比130〜140%のペースで伸び続けているという。


 「都心部では、食べログが最もネット予約できる店の多いサービスになっている」と食べログカンパニー長の鴻池拓氏は手応えを語る。


 飲食店のデジタルマーケティング支援を行うCOLLINS(東京都中央区)が実施した調査によると、飲食店予約の際には「ネット予約を希望する」が77.7%に上り、予約時に最も利用しているのは「食べログ」(60.5%)という結果が出た。これらのデータは「食べログ離れ」という指摘と異なる傾向を示している。


●1店舗ごとにサポート


 コロナ禍をきっかけにネット予約の普及が進んだことも大きい。この流れを受けて、食べログは飲食店向けのサービス設計を見直し、月額固定費ではなく従量課金制に変更。ネット予約受付を始めやすい仕様に変更した。


 専門の部隊も拡充し、ネット予約サービスの設定・運用に関するサポート体制を構築した。月間で1000件超の新規契約を結ぶ飲食店に対し、店舗ごとにサポートしている。ウェビナーでまとめて対応するのではなく、対面またはオンラインで必ず個別ミーティングを行っている。


 コストをかけても個別対応にこだわるのは、中途半端な設定では予約が入らず、店舗のオペレーションにも支障をきたすためだ。「飲食店がネット予約をどのように受け付けたいのか、どのような方針を持っているのかをヒアリングし、最適な設定にしなければ売り上げの向上につながらない」と鴻池氏は狙いを説明する。


 こうした支援の結果、一定の成果も生まれている。オンライン予約台帳サービスの「食べログノート」への切り替えにより、ネット予約が平均30%増加しているほか、ケースによっては2倍になった事例もあるという。


●「第三者委員会」設置などガバナンスを強化


 このような成長戦略に加えて、食べログは過去の課題を踏まえて信頼性の向上にも注力している。第三者委員会を設置して外部の有識者を招き、飲食店への評価に対するアルゴリズム変更に妥当性があるか事前に検証する仕組みを構築した。


 「当社だけでアルゴリズムを決定しているのではなく、外部の目を通して変更している」と鴻池氏は説明する。これにより、食べログが事業拡大のために恣意(しい)的な操作はできない仕組みになっている。


 管理も厳格な体制が敷かれている。社内でアルゴリズムの詳細を把握している人員は、ごく限られており、営業担当者でさえ内容を把握していない。厳重に情報管理を行うことで、外部からの不当な圧力や、内部からの情報漏えいを防止している。


 運用面でも透明性の向上を図った。以前は予告なくアルゴリズムが変更され、点数の急激な変動が問題となっていたが、現在は月2回の定期更新とし、変更タイミングを明確にした。また、アルゴリズムの基本的な考え方を説明するページも新設し、運用方針の透明性を高めている。


 口コミの誹謗中傷対策にも力を入れており、事実確認できない投稿は削除する一方、根拠のあるネガティブな評価は受け入れることで、レビューの質向上を図っている。


●「食べログ離れ」の正体は「使い分け」


 では、一部で言われる「食べログ離れ」とは何なのか。鴻池氏は「ユーザーは飲食店探しのシーンごとに複数のツールを使い分けている」と分析する。


 近場ですぐに店を探したい時にGoogleマップを使うこともあれば、SNSで見かけた店へ衝動的に行くこともある。一方で、外食の予定が決まっている際の本格的な店選びでは食べログを使うなど、シーンに応じた使い分けが当たり前になったことで、食べログを使わないケースが出てくるのも自然なことといえる。


 しかし、店選びの選択肢が増える中でも、食べログの利用率は高い。その背景には、「ワンストップで完結する」という点がある。


 外食の予定が決まった後、ユーザーは一般的に「店の候補を探す」「詳細情報や口コミを確認して選ぶ」「予約する」といった順で行動する。こうした一連の流れをひとつのサービス内で完結できる仕組みは多くなく、食べログもその選択肢の一つとなっている。


 併用パターンも見られる。筆者自身も、SNSで店を見つけたあとに食べログで詳細情報を確認し、予約を取ったことがある。「詳細情報や他の人の意見も確認したうえで予約したいと考え、最終的に食べログにたどり着く」と鴻池氏は説明する。


●インバウンド向けサービスも強化


 インバウンド市場でも利用が拡大している。中国市場向けの「WeChat miniプログラム」、それ以外の国々向けには「英語版食べログ」の2本柱で展開し、訪日客によるネット予約は、1日当たり約4000件に達している。


 訪日客を受け入れる飲食店への支援も行っている。多言語メニューのQRコードを無償で提供し、店舗側の手間を省いているほか、予約時にクレジットカード登録を求めることで無断キャンセルへの不安も軽減している。


 インバウンド予約で人気が高いのは「寿司」と「焼肉」だ。しかし、食べログは、より幅広いカテゴリーへの誘導を目指す。「日本ではフレンチやイタリアンのレベルも高い。海外の人には、まだなじみの薄いカテゴリーも提案していきたい」と鴻池氏は展望を語る。


 送客を分散させることはオーバーツーリズム対策にもつながる。現在、食べログにおける訪日客の予約の平均回数は1.2回にとどまる一方で、平均宿泊日数は8〜9泊とされている。滞在中により多くの予約を促すことで、主要観光地以外への分散を狙う。


 インバウンド事業は、今後さらに拡大する見込みだ。年内には1日の予約数の倍増を目指すほか、インバウンド専用アプリの開発も進めており、旅行前のインストールから滞在中のプッシュ通知まで、一貫したマーケティングを展開していく予定だ。


●外食業界全体のインフラとして


 食べログは、2025年にサービス開始から20周年を迎える。この節目に始動したのが「ごはんいこー!」プロジェクトだ。食べログの調査によると、日本人の3人に1人が「今度ご飯行こう」と言ったまま実現できていない約束を抱えており、その潜在的な経済効果は累計6000億円に達するという。


 この「隠れご飯」を掘り起こすため、新たなサービスを投入した。記念日や会食向けの「食べログ レストランセレクション」は、87万店の中から約8000店を厳選。失敗が許されない特別なハレの日の店選びをサポートする。


 4月には、各地域で予約数上位1%の店舗を表彰する「食べログ ホットレストラン」がスタートした。従来の評価軸とは異なり、予約が多い「リアルな人気店」を可視化する取り組みだ。「いま、ユーザーが最も利用している店を評価するという新たな軸が今回の特徴」と鴻池氏は説明する。


 また、飲食店の支援サービスにも注力する。飲食専門求人サービスの「食べログ求人」では、国内最大規模となる1万5000店舗が登録しているほか、「食べログ仕入」では飲食店と卸業者の受発注業務のDXを進めている。


 「飲食業界の人手不足解消や生産性向上に貢献したい」と鴻池氏が語るとおり、食べログはグルメサイトの枠を超えて、集客だけでなく飲食業界全体のDX支援を強化している。今後は、これらの支援サービスの認知度をいかに高めていくかが課題だ


 「食べログ離れ」という声をよそに、検索から予約までを完結するサービスでユーザーからの支持を集め、サポート体制は飲食店からも一定の支持を得ているとみられる。今後、外食業界の中で、どのような役割を担っていくのかが注目される。


(カワブチカズキ)



このニュースに関するつぶやき

  • グーグルマップの口コミはサイトが掲載を選ばないので最も実態に近いと思ってる。
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