
クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第34回目・35回目のゲストは、漫画家・ミュージシャンの久住昌之さんです。
“おしゃれな立ち飲み屋”が一番行かないところ(笑)
小竹:大石くんはいつから久住さんのファンなの?
大石:10年前くらいに『孤独のグルメ』を見てハマったのですが、ドラマの後に「ふらっとQUSUMI」という久住さんがお店に行ってお酒を飲むコーナーがあって、だんだんそっちのファンになってきて…。久住さんのことを調べたらミュージシャンもされていて、どんどん久住さんに興味が湧いてきたという感じです。
小竹:じゃあ、今日はいろいろと伺いましょう。よろしくお願いします。
久住さん(以下、敬称略):よろしくお願いします。
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大石:初めまして。私はクックパッドのレシピ事業部で部長をやっている大石と申します。エンジニアとしてコードを書いたり、若い人たちと一緒にプロダクトを作ったりしています。
小竹:今日は久住さんがいらっしゃるということで、お酒を用意しました。みんなで一緒に飲みながらお話をしていけたらと思っています。では、乾杯を!
久住:いただきます!
小竹:お酒は毎日飲まれるのですか?
久住:大体毎日飲みます。でも、仕事が終わってからなので、昼から飲むことは基本的にはないです。以前は遅い時間でもお店がやっていたのですが、コロナ以降みんな11時くらいに終わるようになっちゃったので、家に帰って飲みますね。
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小竹:若い頃と比べて飲み方は変わりましたか?
久住:それはみんな絶対あると思います。あの頃はああいうのを飲んでいたなとか、だんだん移り変わっていきますよね。
小竹:どう移り変わってきたのですか?
久住:学生の頃に甲類の純とか樹氷とか、ジュースで割って飲んだりするような焼酎が出てきたので、バンド仲間と飲んでいました。バーボンの味覚えてよく飲んだ頃もある。あと、面白がって立ち飲みに行ってみたりもしましたね。今は立ち飲みも入りやすくて料理もおいしい店があるけど、学生の頃はあまりなくて、酒屋がやっている角打ちみたいなところがたまにあったので、珍しいから行っていました。
大石:僕もそういうお店が大好きです。
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久住:大好きという人はあまりいなかったです(笑)。今は若い人もそういうお店が大好きとか言うけど、昔は金がないオヤジが仕方なく一人で行くところだったのよ。つまみもサバ缶とかしかなくて、酒も安い酒しかなくて、ビールケースに片足乗せながらつまんなそーに飲む姿が僕らには面白かったんだよね。昔の貧乏ブルースマンみたいで(笑)店のおばちゃんも珍しい若者客というんでサービスしてくれたり。
小竹:やっぱり安いのですか?
久住:安かった。日本酒1杯100円とか煎餅1枚20円とか。基本的に角打ちは調理をしてはいけないから、缶詰とか魚肉ソーセージとか、ギリでゆで卵とかね。
小竹:なぜ「角打ち」と言うのですか?
久住:なぜでしょうね。九州が発祥だと思います。小倉のほうに行くとよくありますね。酒屋の横にある感じがいいんですよね。ものすごく入りにくい感じでね。
小竹:最近はおしゃれな立ち飲み屋さんばかりですよね。
久住:僕はおしゃれな立ち飲み屋が一番行かないところです(笑)。最も顔バレしやすい。立ち飲みだから席がないので、トイレに行った帰りに話しかけられやすい。
小竹:そんなタイミングで話しかけられたくない(笑)。
久住:知り合いに誘われて行ったりすると、一緒に行ったその人に悪い。「久住さん、なんか全員見てるよ」って言われたりして(笑)。飲んだ気がしないので早々に退散します。居酒屋よりもたちが悪いのがおしゃれな立ち飲み屋。ハチの巣状態になります。
小竹:居酒屋だとそういうことはない?
久住:居酒屋は知っている同じところにしか行かないので、そういうことはあまりない。地方でも調べて行ったりはしないので、あまり声はかけられないです。声をかけられなさそうな店に勝負をかけて入る。その見極めが難しくて面白いです。
五島列島の“じゃがいも”がものすごくおいしい
小竹:今日は久住さんに食べてもらいたいと思い、私が料理を作ってきました。
久住:作ったんですか!すごい!
小竹:きんぴらごぼうと春雨サラダと枝豆、素揚げしたナスを生姜とカツオで和えたもの、ちくわきゅうりとゴーヤチャンプルです。
久住:いいですね!きんぴらごぼうって切り方がみんな違いますよね。ナスが綺麗ですね。夏を感じます。ゴーヤもおいしい。今年初めてのゴーヤかもしれない。
小竹:普段料理はされますか?
久住:炒めたりとか簡単なことしかしないですね。この間、映画『孤独のグルメ』のロケ地を巡る番組で五島列島に行ったのですが、なかなか行かないところなので勝手にもう1泊させてもらったんです。
大石:いいですね。
久住:五島列島は魚がすごくおいしくて、お店で食べたときもどの魚もおいしかったんだけど、メニューにほぼ魚と肉しかない。それで、野菜料理も食べたいと思っていたら、次の日に行った旅館のランチでカブのポタージュが出て、それが驚くほどおいしかったんです。
小竹:ポタージュって意外ですね。
久住:フレンチのシェフがやっているランチで、鮮魚も出るけど野菜料理がすごくおいしかった。それで、島のスーパーに行ったらおいしそうな野菜が並んでいたので、カブとじゃがいもと小松菜を買ったんです。調理場がついている宿に泊まったので、五島の塩とオリーブオイルだけでカブを炒めたんです。あと、そんなこともあろうかと、へしこのふりかけを持参していたんです(笑)。
小竹:どうして持っているんですか(笑)。
久住:去年、一昨年と若狭に通っていて、そこでもらったへしこのふりかけを、何かに使えないかなと思って持っていたんです。だから、カブをオリーブオイルで炒めて、ちょっと塩を入れた後にへしこのふりかけをかけたのですが、ちょっとしなっとなった葉っぱまですごくおいしくて。もうそれで飲める感じでした。
小竹:エッセイを横で聞いているような気分です(笑)。
久住:僕はカレーくらいは作るのですが、カレーに五島のじゃがいもを入れたらすごくおいしい。ホクホクという感じではなく、しっかりとしていて味がすごく濃い。調べたら、火山灰の大地だからじゃがいもとかがおいしいらしいんです。
小竹:なるほど。
久住:小さくて黄色いじゃがいもで、カレーの中に入っているじゃがいもがすごくおいしい。カレーを食べた後に、もうちょっと飲もうと思って、そのじゃがいもだけをつまみにして飲みました。
大石:ちょっと残しておいたんですね(笑)。
久住:カレーはじゃがいもを入れる派と入れない派がいて、入れると味がボケるとか、ちょっと溶けちゃうとかって言う人がいますが、このじゃがいもは絶対に入れたほうがいい。このじゃがいもが食べたいからカレーを作ってもいいくらいおいしかったです。
わざとらしい「おいしい」はいらない!
小竹:いろいろな地方に行くことは多いのですか?
久住:多いですね。先週はトカラ列島に行っていました。トカラ列島は屋久島と奄美大島の間に点在するのですが、その中に悪い石と書いて悪石島という島がある。すごい名前ですよね(笑)。悪石島郵便局とか悪石島学園とかあるの。実際に背中に「悪」と書いてあるTシャツを着ている人たちが島で荷下ろしをしているんですよ(笑)。お土産で売ってるんです悪のTシャツ。思わず買いました。
小竹:その島では悪いお店はあったのですか(笑)?
久住:お店は売店が1軒あるだけ。民宿が3軒で、食べ物屋はない。小さな売店でカップ麺買うか、民宿で作ってもらうしかない。それが面白かったです。
小竹:久住さんをお呼びする場合、お店でメニューを見ながら1杯飲むみたいな姿を撮るみたいなイメージがあるのですが…。
久住:それは仕事でやりますけど、そこは仕事です。僕が飲みたいのはその後。終わってから1人で飲むんです。
小竹:そういうお店はどうやって決めるのですか?
久住:足で探します。絶対にネットは見ない。店構えとかどういう場所にあるかとかを見ます。でも、素っ気ない新しい店でも、実は改装をしていて古い店の場合もある。ただ、やっぱり人間がやっている以上は、店主個人の何かが出ている。店の前を掃いている感じとか。そこを見つける。
大石:ここは良さそうだと感じてキープしておくこともありますか?
久住:もちろんあります。13年前に『孤独のグルメ』を始めるにあたり、松重豊さんに初めてお会いしたときに言ってたんですが、「僕は顔は知ってるけど名前は知らないという役者です。そういう役者は地方ロケに行くとすごく待ち時間が多いから、メシ屋は30分でも1時間でも歩いて探します。どこに入るか悩んで、キープもしながらぐるぐる回ってやっと決めて入ると、店の大将に『ようやく入ってくれましたね』って」(笑)。
小竹:見られていたのですね(笑)。
久住:その話を僕に笑い話としてしてくれたときに、この人は井之頭五郎ができると確信しました。この感性、ネタ話でなく静かなユーモアがないとダメなんです。
小竹:それはもうリアル孤独のグルメですもんね。
久住:そうそう。そういう迷ったりすることがない人は井之頭五郎という役はできない。おいしいと言われる店に行って、おいしいように食べることだけやっていたら、やっぱりわざとらしいし面白くない。今はそういう番組がいっぱいあるけど、そこが一番ダメですよね。
小竹:うんうん。
久住:松重さんはあのドラマをやるにあたって、前日から食べないということもやっている。だから、何が出てきても絶対にうまいんですよ。おいしいという顔やおいしいという言葉はいらないと最初から言っていて、「こ、これは…」と言っていれば、それでもうおいしい顔になっている(笑)。
『孤独のグルメ』がスタートした経緯とは?
小竹:『孤独のグルメ』の連載スタートが1994年で36歳だったそうですが、どんな経緯で始まったのですか?
久住:当時はまだバブルの終わりの頃だったから、「女の子が喜ぶ店はここ」みたいなのがまだまだあった。そういうのがすごく嫌だと言っている男性の編集者たちがいて、飲んでいるときに、僕が泉昌之という名前で描いた『夜行』について、そういうのが一切関係ない食べ物漫画だったなという話になったらしいんです。
小竹:デビュー作ですよね。
久住:弁当をただ食べているだけの漫画で、しかも「肉が○○産の○豚だ」みたいなことも一切言わず、弁当の中の一つの肉を大事にしているとか、そういうことだけでやっていたのですが、あれを今やったらいいんじゃないかみたいな話になったそうなんです。あれをもっと有名でメジャーな漫画家と組んでに描いてもらおうって。
小竹:うんうん。
久住:それで谷口ジローさんの名前が挙がって、ボクは谷口さんには申し訳ないなという感じだったんですど、編集者たちが絶対に面白いと言うのでやることになったんです。
小竹:久住さん的にはすごく盛り上がっていたわけではなかった?
久住:なかったですね。グルメブームにもラーメンブームにも諸々の蘊蓄にも全然興味がなかったから、それと関係ない馬鹿馬鹿しくて自由なものでいいのならいいけどといった感じでした。
小竹:井之頭五郎さんはモデルがいるのですか?
久住:いないです。街を歩いていてみんなにスルーされるような普通の人がいいと思っていて、その普通の人が頭の中は大変というのがいいかなって。黙って焼肉食べてる人が頭の中では「俺は人間火力発電所だ!」と実は言っているのがおかしいかなって。
小竹:お酒が飲めない設定ですが、これには何か理由が?
久住:面白い漫画を作るにはヒーローに弱点がないといけないので、食べ物の漫画だけど、残念ながら主人公はお酒が飲めない、という方が話が広がるし、奥行きが出るかなって。
小竹:はいはい。
久住:ここで飲めればいいのにというところで飲めないというのがね。飲み屋的な店に入って、「お飲み物は?」と言われて「烏龍茶で」と答えて、変な顔をされる感じが面白いなと思って。あと、8ページの漫画だったので、飲んじゃうと終わらない(笑)。「次、行こう」とか「もうちょっと飲もう」みたいになる。飲めないと1食で話が終わる。
小竹:大石くんが好きな「ふらっとQUSUMI」では、久住さんは飲んじゃっていますよね。
久住:『孤独のグルメ』のドラマの第1回が、本当は池袋の汁なし担々麺だったんです。それで第2回が門前仲町の居酒屋だった。ところが、門前仲町の居酒屋の生ピーマンにつくねを入れて食べる料理が音がものすごくうまそうで、みんなが真似したくなる感じがあって、2話目のほうが出来が良かったから、これを最初に持ってきたほうがいいとなったんです。
小竹:そうなんですね。
久住:そのときは「ふらっとQUSUMI」の話なんて何もなかった。だけど、2話目のはずだった居酒屋を第1話にしたら、飲めない五郎が1話でいきなり居酒屋入るかなということになって…(笑)。制作側もそれは漫画のファンもいるから心配だということで、最後の情報コーナーに1話目と2話目だけは原作者が出て、影の声の「飲めない五郎が居酒屋に入るという設定はどうでしょう?」という問いに「そう言う人もいるから、いいんじゃないですか」と答えることになったんです。原作者がいいって言ってる、というお墨付きのために出た(笑)。
小竹:あのコーナーにはそんな裏話があったのですね(笑)。
久住:本当の店を扱っているから、実際はこういう店だというのを見せないと誤解されるので、何らかの情報コーナーは絶対に必要だとは言っていたんです。女気のないドラマだから、そこは若い女性で食べるのが好きな人がやるのが順当だと言っていて、それがいいと僕も言っていたんです。ところが僕が出ることになって、おじさんの後にもっとおじさんが出てくることに…(笑)。
小竹:うんうん(笑)。
久住:その最初の2回を制作会社の社長が見て、「この人いいね!これでずっといったらいいんじゃない」と言ったみたいで。まさかシーズン2があるとは思ってもいないから、深夜だし、みんなで頑張って作っているから協力しようかなみたいな感じでしたね。
小竹:なるほど。
久住:最初はタイトルが「ブラQUSUMI」だったの(笑)。さすがにそれはないんじゃないかと言ったら、「じゃあ、ふらっとQUSUMIでどうですか?」ってなりました。超テキトー(笑)。
大石:僕もお酒を飲むので、五郎さんが飲めないというのが、見ていてちょっと不完全燃焼っぽい部分もあって…。でも、最後に久住さんが飲んでいる姿を見ることで完結するみたいなところもあるかもしれないです。
久住:そうなんだ。シーズン2くらいのときにクドカンから突然電話がきて、「あの作りはずるい!飲まないで持っていって最後に原作者が飲むって!」って言われた。
小竹:すごく楽しそうに飲んでいますもんね。
久住:松重さんは普通の日に1軒1日かけて撮っているんだけど、僕は半日で2〜3軒、営業時間前に撮っているので、いつも昼間なんです。だから、毎週あれを見ていると、僕は毎日昼間から飲んでいる人という誤解がだんだん刷り込まれていく。地方でサイン会とかをすると、「今日はまだ飲んでいないんですか?」ってよく言われるんだけど、そんなに飲んでいたら死んでしまいます(笑)。
小竹:そうですよね(笑)。
久住:ライブもいろいろなところでやっていて、フリーライブも市民会館とか、板橋の熱帯環境植物館とかでも何年もやっていたのですが、無料だから子どもからおじいさんおばあさんまで来るんです。一番前に子どもを連れたお母さんとかがいて、俺がステージに出て行ったら、「ほら、最後にビール飲む人」って(笑)。
小竹:(笑)。
久住:「違う違う!原作の人って言ってくれないと!」と思って(笑)。もっと刷り込まれてしまうじゃないですか。
小竹:そんな紹介をされてしまうのですね(笑)。
(TEXT:山田周平)
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【ゲスト】
第34回・第35回(6月20日・27日配信) 久住昌之さん
漫画家・ミュージシャン/1958年生まれ、東京都出身。1981年、泉晴紀(現・和泉晴紀)作画のコンビ「泉昌之」で描いた短編マンガ『夜行』でデビュー。1999年、実弟・久住卓也とのユニット「Q.B.B.」の『中学生日記』で第45回文藝春秋漫画賞。2019年には絵・文を手がけた絵本『大根はエライ』が第24回日本絵本賞を受賞。根強い人気を誇る谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』は10以上の国・地域で翻訳出版され、2012年にTVドラマ化。そのシリーズすべての劇伴の制作演奏、脚本監修、レポーター出演を務めるなど、マンガ、音楽を中心に、多岐にわたる創作活動を展開している。代表作に『かっこいいスキヤキ』『花のズボラ飯』『野武士のグルメ』など。
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【パーソナリティ】
クックパッド株式会社 小竹 貴子
クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。
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