マンション麻雀にて、3人で打っている様子(提供写真)プロ麻雀リーグ「Mリーグ」がスタートし、近年は若い女性など新たなファン層を拡大させている印象が強い麻雀業界。だが、麻雀といえば“お金を賭けてなんぼ”というイメージも未だ根強い。
漫画や映画などのフィクション作品でお馴染みの「マンション麻雀」は、マンションの一室で密かに行われる高レートの賭け麻雀のこと。超高レートの違法賭博だけに、麻雀好きの間でもその実態は謎が多い。
今回は、そんなマンション麻雀の現場へ6年間にわたって出入りした経験を持ち、『ルポ マンション麻雀 ‐バブル期から脈々と続く超高レート賭博の実態』(鉄人社)の著者である福地誠氏に、その勝負哲学と世界的な麻雀人気の動向などを聞いた。
◆8年かけて東大を卒業、就活全滅から麻雀の道へ
——そもそも福地さんは麻雀に出合ってどれくらいになるんですか?
福地:本を読んでルールを覚えたのは中3の頃です。ただ、10代の頃は相手がいなかったし、あまり打ってはいませんでした。大学に入ってからも麻雀よりクラシック音楽とか他のことにハマっていましたね。バックパッカー旅行とかもしていました。
——東大教育学部を8年かけて卒業されたそうで。
福地:就活で全滅して、雀荘バイトしながら3年ぐらい麻雀漬けの毎日を送っていた頃に、“デキちゃった結婚”したんです。それを機に麻雀関連の出版物で有名な竹書房を受けたら、運良く麻雀要員の枠で採用してもらえたという感じでしたね。
——賭け麻雀だけで年間300万円くらい稼いで生計を立てていた時期もあったとか。
福地:最大でもそれくらいですから、やっぱり自分には“雀ゴロ”の才能はないと思います。「雀ゴロがいなくなった」「麻雀は稼げない」と言われていますが、数年で億を稼いだ知人が3人いますから。
他にも、本書の中に会社員のフリをして賭け麻雀で妻子を何十年も養ってきて一戸建てまで買った人が出てきますが、本当に現代の日本にこんな人がいるのかと話を聞いたときには驚きました。
——賭け麻雀で300万円の稼ぎってじゅうぶん大金だと思いますけど。阿佐田哲也さんや畑正憲さんの時代のような“雀ゴロ”って、今はあまりいないんですか?
福地:あの時代の麻雀って文系のゲームで、並外れた勝負勘を持つ人たちの世界だったんですけど、いまは完全に数字だけの理系のゲームですから。ルールは変わっていないんですけど、いろんな統計データが取れるようになって、“流れ派”(※場の流れや運を重視する麻雀の打ち方)の連中はみんな消えましたね。
——みんながデータ麻雀をやるようになると、1人だけ大きく勝ち続けることは難しいと。
福地:実際、私も自分より若い連中にデータの使い方を教わりながら、感性で打っている年長者を相手に勝つということを、ずっと自分の必勝法にしてきた感じです。ひたすらデータで食ってきたのが、僕の雀ゴロライフですね。
◆麻雀が強い人の特徴
福地:僕もいろんな麻雀を打ってきたんですが、賭け麻雀は勝っている時よりも、大金を失いそうなときが一番シビれます。
——福地さんは他のギャンブルはやらないんですか?
福地:僕は麻雀だけですね。マンション麻雀で出会った人はFXも野球賭博もやっているような器用な人がたくさんいました。彼らからすれば、麻雀はあまり稼げない、暇つぶしの遊びのようです。僕はギャンブルが好きじゃないし、麻雀もギャンブルという意識はあまりないんです。
——ギャンブル好きは、みんな「ギャンブルが嫌い」って言うような(笑)。
福地:僕の麻雀以外の一番の趣味はジャズダンスですから。でも、ダンスレッスンの帰りに必ず寄ってしまうくらい麻雀はおもしろい。未だに飽きません。
——マンション麻雀には麻雀の腕に覚えのある人が集まっていると思うんですけど、そこで勝敗を分ける要因ってありますか?
福地:高レートのゲームは麻雀の腕より、持ち金の余裕が結果を大きく左右することがあります。負けて熱くなっているのに、実際の麻雀は真逆でオリ寄りというパターンが一番ダメ。やればやるだけ負けます。
——普段の麻雀ができなくなって泥沼にハマっちゃうんですね。
福地:どんな状況でも同じように打てることはひとつの才能です。持ち金が足りなくなると焦るので、マンション麻雀に行くときは分厚い財布を用意して、最低でも150万円〜200万円くらい入れるようにしていました。すると、仮に50万円ぐらい負けても麻雀の内容は崩れないので。淡々と打っていれば、相手が勝手に自滅してくれて勝てることもありました。
また、生物として必要な恐怖を感じない人は高レート麻雀で強いです。
——福地さんも負けそうな時に快感を感じているわけですもんね。ある意味、プロの格闘家などと一緒かもしれないです。
福地:麻雀が強い人のいくつかのパターンのうち、対人で相手と間合いを取ったり、タイミングをつかんだりするのが上手というのはあります。格闘技の経験者で麻雀が強い人って実際にいて、少林寺拳法部だった麻雀プロとかもいますね。
——福地さんもそうですが、麻雀が強い人って高学歴の方が多いんですか?
福地:途中からエリートコースを外れたようなやつがけっこういます。麻雀プロでも有名高校で麻雀にハマって大学受験はテキトーだったってパターンがけっこうあります。ただ、麻雀は数字を組み合わせるゲームなので、数理的な感覚が、ある程度は必要なのかなと思います。
◆「Mリーグ」と「雀魂」で日本式麻雀が世界的コンテンツに
福地:麻雀って国・地域ごとにルールが違うんですが、いま麻雀の国際化が急速に進んでいて、有力な国際大会のルールが3つあって、その1つが日本式麻雀なんですよね。海外勢から「日本式麻雀は他の麻雀よりおもしろい」と人気になっています。
ネット麻雀の普及で日本式麻雀が世界で急拡大しているんですよ。
——そんなことになっているんですね。
福地:最近は「Mリーグ」の放送も中国で始まって、「雀魂」の総ユーザーが1500万人を突破しています。その半分以上が韓国・中国を中心とした海外ユーザーと言われています。
——日本式麻雀の特徴とは?
福地:リーチとドラ、あとは振り込んだ人が点数を全額払う得点システムも日本式ですね。誰が持ってきても捨てる牌を振り込んで、その人が全て払うって実はけっこう理不尽なルールなんですけど、だからこそ超ドキドキするという。
パチンコとかもそうなんですが、昔の日本人ってそういうゲームを考える天才だったと思うんですよ。誰が最初に発明したのかは不明ですけど。日本式麻雀の人口って海外だと中国人が圧倒的に多く、すでに日本国内の麻雀人口と同じぐらい存在しています。
——ちなみに海外でも麻雀ってお金が賭けられているんですか?
福地:欧米はクリーンみたいですけど、中国は博打で頭狂っちゃっているような人もいるので。マンション麻雀でも中国人とは何人も打ってきました。
——中国って賭博に厳しいイメージもありますけど。
福地:中国では賞金1000万円ぐらいの大会もけっこうやっているらしく、中国政府は取り締まりもしている一方で、ガス抜きもしています。最近、数万円のお金を賭ける麻雀を打って一審で有罪になった人が、最高裁の判決で無罪になったそうです。
——今後、福地さんが取材していきたいテーマは?
福地:実際に着手できるかはわからないですけど、中国で広がる日本式麻雀の動向にアクセスしたいですね。
——世界的に日本の麻雀が注目されているとなると、雀ゴロライターとしても大きなビジネスチャンスがありそうな。
福地:いま世界に通用するコンテンツになっていますが、海外の書店には日本式麻雀の教本がないので、海外勢はみんなネットとかで調べながらルールや戦術を勉強しているんですよね。これまで私がたくさん書いてきた戦術書の翻訳本を出せたら嬉しいと思います。
<取材・文・撮影(人物)/伊藤綾>
【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii