画像はイメージ(以下、同じ)あなたの身の回りに「双子」の知り合いはいますか? 今回は、ある双子の身に起こった不思議なエピソードをご紹介しましょう。
◆双子の姉が結婚、婚活するなら今だと勧められる
森山紗奈さん(仮名・30歳/会社員)は双子として生を受け、その姉である桃代さん(仮名・30歳/英会話講師)が突然結婚しました。
「マッチングアプリで知り合った男性とすごく相性が良かったみたいで、まだ4ヶ月程しか経っていないのに『結婚することにした』と言い出して驚きましたね」
そしてそんな幸せ真っ只中のお姉さんから突然「紗奈もマッチングアプリやってみたら? 私たち双子だからか、なにかと同じような出来事が起こるじゃない? もしかしたら今ならいい出会いがあるかもしれないよ」とアドバイスを受けたそう。
「桃代と私は性格は全然似ていないのですが、子どもの頃からなぜか同じ日に怪我をしたり、別々に遊びに行ったのにすごい人混みの中で偶然出会ったりと、何度も不思議なことが起こっているんです」
◆アプリで出会った32歳のすてきな男性
ここしばらく彼氏のいなかった紗奈さんは、せっかくなので桃代さんおすすめのマッチングアプリを始めてみることにしました。
「幸せのおすそ分けがあったらラッキーくらいの軽い気持ちで始めたんですが……さっそくいいね! が来て慌ててしまい、ついそのままマッチングしてしまったんですよね」
アプリに不慣れな紗奈さんは、お相手のプロフィールも確認しないまま手が滑って、画面を「いいね!」の方向にスワイプしてしまったそう。
「どうしよう? と一瞬焦りましたが、よく見てみたら写真も誠実そうで結構かっこよかったですし、自己紹介も真面目な文章だったんです。もしかしたらご縁があるのかも? と感じ、そのままメッセージを交換し合うようになりました」
その彼は浩哉さん(仮名)といい、都内で働く会社員の32歳でした。
「浩哉さんとは特に共通の趣味などはありませんでしたが、いっぱい質問してくれて自然と私の中身を引き出してくれるような感じだったので、心地よくやりとりできたんですよね」
◆歴史好きな彼のため「吉田松陰ケーキ」を計画
そのようにしてデートするようになった2人でしたが、紗奈さんは「自分がしてもらったように浩哉さんについてもっと深掘りしたい」と思いつつも、なかなか上手くできなかったそう。
「実は浩哉さんの趣味は“歴史”なのですが……恥ずかしながら私は歴史が得意ではなく、基礎知識も乏しいんです。そんな引け目もあって上手く受け答えができないし、気の利いた質問もできなくて」
そんな自分に不甲斐なさを感じてしまった紗奈さんでしたが、せめて浩哉さんの好きなものに寄り添う気持ちがあることを伝えたいと思い、ある計画を立てました。
「浩哉さんは吉田松陰(江戸時代末期に活躍した思想家・教育者)が好きだと言うのでWikipediaで調べてみたら、たまたま誕生日がもうすぐだったんです。だったら私が腕を奮って吉田松陰の似顔絵つきのケーキを作って浩哉さんをもてなして、一緒に生誕祭ができたら楽しいかなと思ったんです」
◆「バカにしてると思われない?」姉と言い合いに
我ながらナイスアイデアだと思った紗奈さんは、まず桃代さんに「もっとこのパーティーを盛り上げるためにはどうしたらいいと思う?」と相談したそう。
「すると『吉田松陰のことよく分かってない人にそんなことされても、嬉しくないと思うよ。下手したらバカにしていると誤解されるかも。相手の大事にしているフィールドに土足で踏み入るような真似は、やめておいた方がいいんじゃない?』と注意されてしまいました。それで頭にきて、そのまま言い合いになってしまったんですよね」
紗奈さんは「もしそんな風に私の好意をマイナスに捉える男性ならどうせ長くは続かないし、だったらそれを確かめる意味でも絶対にパーティーは決行するぞ」と心に決めました。
「そしてパーティー当日、浩哉さんには『うちで一緒にランチをしよう』と誘い、部屋に入ったらパーティーの用意がしてあるというサプライズの形をとったのですが……」
◆サプライズ生誕祭の行方は
さて、2人の間に何が起こったのでしょう?
「まず私が鳴らしたクラッカーの音に驚き、最初は何が起きたのか分からない様子でしたが、事態を飲み込むと笑ってくれて『今日が吉田松陰の誕生日だって僕も忘れていたよ。こんなの初めてだからビックリしちゃって』とすごく喜んでくれてホッとしました」
そして「松陰は甘いもの好きで知られているから、きっとこんな風にケーキにしてもらえて喜んでいるに違いないよ」と、今まで見た中でいちばんの笑顔を見せてくれたそう。
「そこで浩哉さんが『こんな風に一緒にお祝いできるなんて夢にも思わなかった。しかも、ケーキ作りっていう、紗奈さんの得意分野に落とし込んでくれたのが嬉しい』と言ってくれて。何だか胸のつかえがとれたような気持ちになれたんですよね」
その日から紗奈さんは浩哉さんに対して、あまり引け目を感じずに歴史のことについて気楽に質問できるようになりました。
「ありのままの私を受け入れてくれるということが分かったので、バカだとバレてしまいそうな基本的なことでも素直に聞けるようになったんですよ」
◆双子の姉とも無事に仲直り、そして
そしてその数日後、桃代さんから謝罪の電話がきたそう。
「桃代は『私にはたとえ恋人や夫であっても足を踏み入れて欲しくない領域があって、適切な距離感で見守ってくれるのが愛だと思ってしまう性格だから……この間はその考えを押し付けてしまってごめんね』と謝ってくれました。私たちは性格が違うって分かっているのに、ちょいちょいこんな風にケンカを繰り返してしまうんですよね」
そして和解した桃代さんに、生誕祭成功の報告をするととても喜んでくれました。
「やっぱり私と桃代は運命が近いようで、私も浩哉さんと結婚の話題がでるようになってきたんですよ」と微笑む紗奈さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop